トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.48

気象データを制すものがビジネスを制す!?

「気温25度以上になるとビールやアイスクリームが売れる」「鍋が食べたくなるのは気温18度以下」。そんな話を聞いたことはありませんか。普段の生活でも、天気予報をチェックして服装を考えたり、傘などの持ち物を決めたりと、私たちの行動は思っている以上に天気や気温などに影響され、気象データに頼っている部分があります。2021年には、こうした気象データを分析し、ビジネスに活用するスキルを修得する「気象データアナリスト育成講座認定制度」がスタート。今回は、気象がどのように私たちの生活に関係し、気象データがどのようにビジネスに貢献できるのかを紹介したいと思います。

Angle B

後編

データ経営で地方経済の閉塞感解消を目指す

公開日:2024/2/5

株式会社EBILAB

代表取締役

小田島 春樹

小田島さんが代表を務める株式会社EBILABでは、店舗運営に特化した自社開発のBIツール(※)を多くの企業に提供しています。気象データを組み入れることができるため、「観光地のように天候の影響を受けやすい場所の店舗では来店予測、販売予測の精度が特に高い」といいます。さらに飲食店に限らない、さまざまな業態での活用状況などについて、前編に引き続き、お話をうかがいました。
 ※「Business Intelligence Tool」の略。企業に蓄積されたデータを抽出・加工・分析し、経営に役立てるシステム。

現在、EBILABではデータ分析サービスとして、気象データを活用したBIツールの開発・販売を行っていらっしゃいますね。

 「ゑびや」の再生のためにデータ分析のやり方を追求してきたのですが、それを自分たちの店舗だけではなく外部にも提供していこうとの考えからこのシステムを開発しました。原型となるようなものは2013年から作っており、正式に外部への販売を始めたのは2018年です。元々自分たちの店舗運営で使ってきたものなので、外販を開始した時点ですでに店舗運営型のビジネスに最適化されたBIツールになっていました。

具体的にどういったことができるのでしょうか。

 例えば、年齢、家族連れといったお客様の属性と来客数、商品カテゴリーやメニューごとの販売数などを過去データから抽出、表示できます。「雨の日だけ」といった具合に天候で抽出したり、「気温30度以上の日だけ」といった具合に気温で抽出したりすることも可能です。天候ごと、気温ごとの来客数と販売数の傾向を掴めるため、在庫管理・シフト管理の最適化や集客・売上増の施策立案が行いやすくなります。
 こうした過去のデータに基づいた「今日の来客予測」も可能です。変数としては天候、気温、近隣ホテルの宿泊者数、長期的な来客数の変動の差分などを入れることができます。観光地以外は宿泊者数を変数として入れない方が精度が高くなったりもしますので、顧客の店舗運営に合うように利用データのカスタマイズや設定を行ったり、使い方をレクチャーしたりしています。現在、弊社は設立から5期目ですが、顧客企業は200社ほど、店舗数でいうと300店舗くらいに導入していただいています。

どういった店舗で利用されているのですか。

 飲食店以外にもアミューズメント施設、テーマパーク、洋菓子店、薬局、酒屋、商店街、ゴルフ場などで導入されています。基本的には来客数と販売数を確認することにより、さまざまな施策の立案に活用されているようです。
 例えば、ある観光地の酒屋さんには、BIツールとネットワークカメラを結びつけたソリューションを提供しています。店頭にネットワークカメラを設置して店の前を通行する人の数をカウント。さらに入店するお客さんの数をカウントするカメラを設置し、入店率が割り出せるようになっています。これまで感覚的に100人程度の通行量だと思っていたそうですが、実際には平日で約1500人、休日には約3000人の通行があることがわかったとか。そこから天候ごとの来店予測・販売予測をされて、売上増のためのPDCA(※)に役立てていただいています。
 ※Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字を取ったもの。生産・品質などの管理を円滑に進めるための業務管理手法のひとつ。

EBILABが提供している通行客の推移や入店購買率などを分析したBIツール。

天候ごとにどれだけの人出があるのかがわかれば、販売機会を逃してしまうこともなさそうです。

 入店率と天候の相関は面白くて、私たちが経営している「ゑびや」の場合、天候が悪いと入店率が上がったりするんです。通行量自体は減りますが、お客様が店に寄ってくださる確率は上がる。伊勢神宮から三軒目で、「雨が降っているときにすぐに入れる」という立地条件が悪天候下での入店率の上昇につながっているのではないかと分析しています。
 こういったことはデータを取ってみるまでわかりませんでした。なので、普通は雨が降ると「今日はお客さんが少ないだろうな」と考えると思いますが、立地によっては必ずしもそうはならない。そこはデータを取ってみないとなかなか見えてこないですね。

データ経営により、同じ天気でもエリアの特性や業態などで影響が変わることがわかった、と。

 元々データ経営は、自分たちの飲食店である「ゑびや」の経営再建を目指して始めたものです。人口が増え、マーケットが拡大しているような状況なら、単純に人を採用してどんどん出店していけばいい。データの分析などしなくても、勝手に成長していくでしょう。しかし、実際には人口減少でマーケットが縮小し、働き手となる人材の確保も難しい状況です。地方は特にそれが顕著で、私たちの店舗と同じような課題を抱えた店舗が多数あります。データ経営はそういった状況から抜け出すための道標になると考えています。

さまざまな店舗業態にデータ分析サービスを提供していると思いますが、無店舗の業態、例えばEC(※)のような業態でも気象データは活用できるのでしょうか。

 使えると思います。何を販売しているかにもよるでしょうが、天候によって販売数が変動する商品は多いと思います。例えば、エアコン。私は北海道出身なのですが、最近、実家にエアコンが付いたんです。これまで北海道にエアコンのある家なんてほとんどなかったのに、平均気温が高くなってきたことで、エアコンを入れる家が増えてきた。そのため、店舗に足を運ばないECであっても、商品によっては気象データから販売数を予測することはできるでしょうし、その予測に基づいて効率的な在庫管理や販売促進のための施策が行えると思います。
 ※「Electronic Commerce」の略。インターネットを介して受発注や決済、契約などの商取引を行うこと。

従来の経験則だけで販売予測を立てるのは難しい時代になりました。

 私は釣りをするのですが、海水温の上昇によってこれまで釣れなかった魚が釣れるようになっています。伊勢志摩でもここ8年くらいでキハダマグロが上がるようになっています。こうした気象の変化はこれからも起こるでしょうから、「今までこうだったから、これでいけるよね」とはならない。記録的な長雨など、これまで経験したことのない状況だと、何を売ったらいいのかわからなくなることもあるでしょう。そんなときに、過去のデータにイレギュラーな気象を変数として組み入れれば、売れる商品展開が見えてくるかもしれません。

今後、さらなるデータ経営化を進める上で、どのような気象データがあればよいと考えますか。

 長期の予報がわかると、気象データの可能性がさらに広がるのではないでしょうか。「来年の今日に台風が起こる確率は○%」「来年の台風は今年の○倍の強さ」というようなことが事前にわかれば、「ビニールハウスを補強しておこう」といった対応ができます。旅行などの人の流れもより把握しやすくなるでしょうし、長期予報のニーズは大きいのではないかと思います。

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