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トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考える
インタビューシリーズ

vol.1テクノロジーは過疎を救うのか?

公開日:2018/12/14

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[ 後編 ]

過疎の定義を変えていく行政イノベーション

国土交通事務次官森 昌文

技術は社会に広く普及してはじめて、日本が直面する課題解決につながる。そのための後押しを行政としてもっと積極的に担うべきだと語る森昌文次官。では、地域社会を活性化する上で欠かせない移動手段の問題にはどのようにアプローチすべきなのか―。

人口減少が続く地方では、買い物や通院などに必要な住民の移動手段をどう確保するかが喫緊の課題です。

 「過疎地域では利用者の予約を受けて小型バスや乗り合い型のタクシーを運行するデマンド交通といった取り組みがすでに広がっていますが、背景にはサービスとしてのモビリティー『MaaS(=Mobility as a Serviceの略)』という新たな概念があります。これは、ICTを活用して、交通をクラウド化し、運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段による移動を一つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ発想です。こうした新たな潮流を捉えつつ、地域がそれぞれの実情に応じて、地域住民の生活と交通手段がつながるしくみを実証できる『手作り感ある』ステージを創り出すことを重視しています」

手作り感とは。

 「国が概要を定めた実証事業を公募するのではなく、『地域住民のニーズをこうした技術で解決したい』という自治体の声に対し、『こんなデータを活用してはどうですか』『こんな技術と融合しては』と提案しながら、ともにプロジェクトを作り上げるのです」
 「先ほどお話しした『MaaS』についても、こうした発想を生かして実現したいことは、地域によって異なるはずです。ビッグデータを活用して公共交通サービスをレベルアップしたい地域や、ドローンを活用して物流の効率化に取り組みたい地域などさまざまな実証ニーズがあるでしょう。これらを全国何十カ所といった規模で実施するのではなく、唯一のステージを用意するのです」

日本は実証実験大国だという指摘もあります。

 「社会実験で終わらせてはならないんですよ。前回もお話ししましたが、日本の技術開発は『死の谷』を渡った段階で終わってしまっているものが決して少なくありません。これらをビジネスとして軌道に乗せ、社会に広く普及させるための後押しをする。国も施策の舵をそちらに切っていかなければ、新たなイノベーションの萌芽(ほうが)を摘んでしまうと危惧しています」

【夢なくして実現なし】

リラックスする時にはお香を使う

地方交通の問題をめぐっては政府の未来投資会議(議長・安倍晋三首相)で、バス事業者の統合基準見直しに向けた議論が始まりました。

 「私たちは、地域公共交通と連携してコンパクトなまちづくりを進める『コンパクト・プラス・ネットワーク』という施策を推進していますが、まさにここにも関わる議論です。これは持論なのですが、公共交通はあくまでパブリックなんですよ。しかし、実際には公共交通と言いながらも戦略は事業者の経営判断に委ねられており、地域の実情を反映して交通網を再構築する調整役がなかなかいません。ですので、(統合基準の見直しは)あるべき姿に向けて一歩踏み出すきっかけになるのではと期待しています」
 「とはいえ、実際には困難な作業です。地域によっては5、6社のバス会社が乗り入れているエリアもあります。これらを調整し、未来へ向けたグランドデザインを描くには地域に密着した自治体の力が大きいと思います」

次世代モビリティーといえば、離島や山間部での移動や災害時の人や物資の輸送に「空飛ぶクルマ」と称されるさまざまな構想が打ち出されています。陸路走行と飛行の双方が可能な電動飛行機や、小型のVTOL(垂直離着陸機)など、これまでの「乗り物」の概念を覆すような形態がみられます。

 「自動車が開発されてから100年余り、基本的な原理は変わってきませんでした。時代の技術は当然、誕生するでしょう。今、話題になっているモビリティーは、クルマと航空機の融合体のようなものと捉えています。レオナルド・ダ・ヴィンチが1500年前にスケッチに残していたような構想が、テクノロジーの進化で可能なものになったということでしょう。ただ、それがマーケットベースに乗るのかということについては時間を待たなければならないと思います」

「乗り物」として受け入れられますか。

 「あまり個人的な見解を披露すると、担当部局から勘弁してと言われそうですが(笑)。いずれ汎用化され実用化されていくと思いますよ。重要なのは、安全・安心で混乱なく社会に定着させること。新たなイノベーションを社会に根付かせるためには、あれもだめ、これもだめ、と規制一辺倒ではなく、合理的なルールづくりを進めることが肝要です。省内ではいつも『夢なくして実現なし』と話しています」(了)

編集後記

 誰にでも使える親しみ易い技術で離島でも不便がない生活を実現させようとする小野正人氏の挑戦。ロボットが隣人となるような技術が担保する多様性のある社会をつくることが重要という石黒浩氏の視点。テクノロジーの進歩は過疎が持つ負のイメージを払拭してくれそうだ。さらに、地域ニーズと技術やデータが融合することで地方が魅力的になり潜在力が引き出されるという森昌文氏の指摘は、新たな経済成長の可能性を示唆している。人口減少時代にあっても人々が快適に暮らし、地域を発展させていく可能性は十分にありそうだ。
 次のシリーズは、広がりを見せているシェアリングエコノミーについて、新たな3人が独自の視点で語ります。

(Grasp編集部)