トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.13

未来都市が現実に? スマートシティ発進

AIやビッグデータ、次世代送電網(スマートグリッド)技術などを活用し、渋滞解消や省エネなどを目指す先進都市「スマートシティ」。日本では国家戦略特区などの枠組みで導入が進んでおり、今年8月には、約600の自治体や企業、中央省庁、研究機関が参加して先行事例を共有する官民連携協議会も設立された。スマートシティが現実のものとなることで、私たちのくらしはどう変わるのか。

Angle B

後編

生活圏ぐるみで「都市OS」が活躍

公開日:2019/12/20

アクセンチュア・イノベーションセンター福島

センター長

中村 彰二朗

福島県会津若松市の市民向け情報プラットフォーム「会津若松+(プラス)」では、ヘルスケアや教育、ものづくりなど、市民生活にかかわる領域のサービスが提供されている。また2019年には、奈良県橿原市が同じプラットフォームを活用した「かしはら+(プラス)」の運用を開始している。内閣府を中心に、日本全体のスマートシティ向け「都市OS」(基本ソフト)の標準化が進む中、他の自治体も容易に展開が可能な「会津若松+」の取り組みは、先進的な取り組みであるとして評価されている。

データ駆動型社会を進めるために、市民の積極的な関与が必要ですね。

 市民・社会・企業の「三方良し」のスマートシティを考える時、市民の意識変革が大変重要です。データなしに、デジタル化は達成できませんが、データは市民のものであるべきです。ですから、市民が自らデータを提供する意義や意味をきちんと理解し、そのうえでデータを提供すること、データ提供者である市民にしっかりとメリットを還元していくことがカギとなります。個人のデータが自らの生活を向上させ、地域づくりにも役立つという考え方や信頼感を育て、市民が自発的にデータを提供する「オプトイン」を広げていくことが非常に重要です。市民の理解や信頼を得られなければ、市民主導のスマートシティにはなりません。
 私たちは、「会津若松+」の市民参加率30%を目指していますが、この地域に30%を超えるメディアはテレビ番組も新聞もありません。かなり高い目標のように見えます。しかし、欧州では、50%超の都市もあり、日本政府が参考にしているエストニアではすでに100%近い参加率を達成していると言われています。グローバルで見れば決して高い目標ではないです。地元企業の力を借りながら、市民主導でデータを集積し、地方創生のモデルを会津若松市から発信していきたいと思います。そして、来年には周辺市町村にもシステムを開放し、生活圏全体で利用できるような都市OSへと発展させていきたいと考えています。

スマートシティに取り組む上で大事なポイントは何でしょうか。

 対象エリアを行政区単位ではなく、生活圏・経済圏といった地域全体として考えていくことが重要だと思います。人はそれぞれ自分たちの生活圏を持っていて、異なる行政区を日常的に行き来することが多いです。例えば、会津若松市役所に勤めている職員も、約4割は市外から通勤しています。防災もそうです。災害が起こるのは居住している行政区にいるときとは限りませんから、住民の防災という観点で考えても、市町村単位での枠組みよりも、やはり地域全体として考えることが重要です。また、観光客の視点に立てば、訪れる人たちは会津若松市だけを見たいのではなく、同じ会津地域内の磐梯山や喜多方ラーメンなど、近隣の観光資源も目的に入れているはずです。このような視点を持って、市町村の枠組みを超えた連携を進め、市民目線の生活圏中心の世界をデジタルで実現していければと思っています。

【会津若松市のスマートシティ全体像】

取り組みを更に進化させるために必要なことは何でしょうか。

 産官学の連携です。デジタルを活用し、地域産業を活性化させる方策を具体化させていきたいです。例えば中小企業ですが、会津若松市内には、製造業者の多くは部品の下請け企業です。これらの企業の多くは、率直に言ってIT化はほとんどされておらず、その大半は社内にIT担当者もいません。しかし、裏を返せばここに、生産性を上げる余地が広くあります。
 日本はOECD加盟国中で、生産性が20位と低迷していますが、こうした中小企業の生産性を上げることで、日本全体の生産性も上がるはずだと考えています。そのための基本的な考え方が「コネクテッド&シェア(連携と共用)」です。つまり「非競争領域」で共通プラットフォームを活用する仕組みが、今後、産業力を高める有力な取り組みになるでしょう。例えば、会津若松では各社が物流用のトラックを所有していますが、これをシェアリング(共用)するなど、サプライチェーンの見直しや共通化によって大幅なコスト低減が見込めるかもしれません。
 次に新たな農業事業モデルを考えています。東北地方の多くの農家は降雪のため、冬に耕作ができなくなります。そこで植物工場を作り、年中野菜を作るのはどうでしょうか。ビニールハウスではなく、情報管理ができる植物工場です。年間を通じて季節ごとの野菜を生産できるようにすれば、兼業農家が専業農家として生計を立てることも見えてきます。

これまでを振り返り、成果を実感していますか。

 2019年4月に、高付加価値産業の創出拠点となるビル「スマートシティAiCT(アイクト)」が市内に完成しました。500人規模の入居が可能なオフィスビルですが、8年前にはこのような建物ができるなんて想像もしませんでした。アクセンチュアを含む21社約400名の入居予定が決まっています(2019年10月31日現在)。私たちの取り組みの成果がようやく「0から1」になった象徴的な出来事で、感慨深いです。このビルにはヨーロッパ最大級のソフトウェア開発企業SAPも入居するなど、会津大学卒業生が地元で就職するモデルも確実に実現しています。2013年には会津若松市とオランダ・アムステルダム経済委員会が、スマートシティ構築で提携を結びました。そして会津大学は14年、エストニアのタリン工科大学と提携し、政府機能のデジタル化などの研究を進めているなど、成果は積み上がっています。
 人口にも変化が表れました。会津若松市では人口減少が続いていて、4月に12万人を割り込みました。しかし今年は市外からの転入者数が従前よりも伸び、7月に再び12万人に戻りました。今後もこの12万人の規模が続けられるとよいと考えています。

【スマートシティAiCT(アイクト)の概要】*将来構想を含む

※アクセンチュア提供

地元の会津大学との連携も重視していますね。

 大学に期待しているのは、科学、技術、工学、数学における「人材育成」です。会津でスマートシティを進める上での先端テクノロジーの実証実験の場として位置付けています。ここでの実証実験を経て、実装という段取りになります。その際にデータを分析する人材の確保が重要になります。日本全国でもデータ分析の人材が不足しています。アクセンチュアは、企業としての経験を大学に還元するために、2012年から会津大学に講師を派遣してデータサイエンス講座を実施しており、学生たちと理解を深めています。
 これまで学生たちの東京への流出が問題でしたが、地元就職に抵抗が強いわけではないのです。「どうしても東京で就職したい」というのは2割。「ぜひ地元で就職したい」が2割、そして「面白ければ場所は選ばない」という人が6割います。こうした6割に雇用を用意していけば、街は活性化していくでしょう。

最後にご自身にとっての理想のスマートシティ像を教えてください。

 スマートシティの実現に向けては、ヒューマンセントリック(市民主導)により、行政区単位ではなく地域全体として取り組むことが重要です。現在、日本全国の基礎自治体は1700程度ありますが、将来を見据えるとスマートシティの対象サイズを300程度の生活圏として考えた方が良いと思います。スマートシティはあくまでもそこに住む市民のためのものですが、市民がより便利さを享受するためには、視野を広げて広域的に取り組むべきではないでしょうか。 
 そのためにも、私たちはこれからも市民と一緒になって取り組みを進めていきたいですし、会津若松市での取り組みも全国展開していきたいと考えています。(了)

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