トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.47

誰もが防災の担い手になる!災害大国ニッポンの未来

近年、「何十年に一度」、「生まれて初めて経験する」と言われるような災害が、全国各地で起こっています。しかしながら、何度も被災した経験がある人はそう多くはありません。いざ自らのリスクが高まったときでさえも、自分ごと化されないことにより、避難行動などにつながらず、最悪の場合は大規模な被害や犠牲者が発生しています。自分の命も大切な人の命も守るため、災害を自分ごととして捉え、防災・減災の正しい知識を修得することが現代では必須です。
そこで今回はテーマを「防災教育」とし、学びの内容、効果を上げるためのポイントなどをうかがいました。

Angle C

後編

災害を疑似体験するVRゲームも。進化する防災教育

公開日:2023/12/22

国土交通省 水管理・国土保全局 防災課

課長補佐

宮下 妙香

防災教育も年々進化し、最近ではICTを活用した防災教育も普及してきました。後編では最新の防災教育の事例をはじめ、2023年8月に開催された防災に関するイベントについて、前編に引き続き国土交通省水管理・国土保全局防災課の宮下課長補佐に話を聞きます。さらに、防災教育を実施している学校現場の課題や防災教育がこれからどのように変わっていくのかなど、今後の展望についても語ってもらいました。

最近では、ICTを活用した先進的な防災教育支援も行われているそうですね。

 事例を3つ紹介しましょう。まずは中部地方整備局三重河川国道事務所の事例なのですが、ここでは普段から有識者や地域の方たち、教育委員会と連携して防災教育の教材の普及に取り組んでいます。身近な河川の流域の模型を活用する等、支援メニューも充実させています。注目したいのが、同事務所が支援をした小学校が考案した、子どもたちがダムや河川の治水をシミュレーションするプログラムです。防災行動計画を再現しながら「ダムの貯水量がこのくらいになったら、放出しよう」といったことをプログラミングして制御するのですが、子どもたちがダム管理者や河川管理者、自治体の役割を担い、連携した洪水への対応を学べる仕組みになっています。
 また、四国地方整備局松山河川国道事務所でも、3D動画を用いて河川が氾濫する様子を学ぶなど、先進的な防災教育支援を行っています。

中部地方整備局三重河川国道事務所の防災教育支援による授業風景(身近な河川の流域の模型を活用)

「自分ごと」として理解しやすく、子どもたちも興味を持って取り組めそうです。

 3つ目は、茨城県にある関東地方整備局下館河川事務所と国立研究開発法人土木研究所が連携して行った取組です。マイ・タイムラインを作成して、身の回りのリスクや災害時に取るべき行動を理解した後に、洪水の疑似体験ゲームを通して安全に避難することを、身をもって学びます。実際に暮らしている町が3Dのデジタル空間として再現され、その中を生徒たちがアバターとなって安全に避難するVR体験ゲームです。水位が足元に迫ってくる様子を体験できるなど、VRならではの臨場感があり、好評でした。つくば市内の中学校等で実施したのですが、最後には各学校の生徒を一堂に集めて競技会も開催しました。観客の応援もあって、非常に盛り上がりました。

ゲーム感覚で災害対応が学べるわけですね。

 参加した生徒たちには、災害のリスクを「自分ごと」としてリアルに捉えてもらえたようです。
 「練習段階ではどこに逃げたらいいのかと焦って良い判断ができず、水に飲み込まれてしまったが、本番では冷静に避難することができた」「いつ起こるかわからない自然災害に冷静に対応できるように事前の準備が必要だと改めて感じた」「実際に洪水が襲ってきたらどう避難するか、イメージしながら勉強できた」「VR体験ではハラハラする場面もあり、洪水への危機感が高まった」といった感想が多数寄せられました。

国土交通省では、学校への防災教育支援以外に、イベントなどでも防災意識の啓発活動もされています。

 イベントとして代表的なのは、毎年8月に実施している「こども霞が関見学デー」です。子どもたちに霞が関に所在する各府省庁等を見学してもらうイベントで、今年は、企業と協力して実施した防災に関するクイズと、防災課の若手職員が考案したハザードマップの間違い探しクイズや謎解きゲームを行いました。
 謎解きゲームでは、子どもたちに、国土交通省にある災害時に被災地に行って自治体をサポートする「TEC-FORCEテックフォース」(緊急災害対策派遣隊)になりきってもらいました。TEC-FORCEのユニフォームを着た子どもたちが、「災害に関する謎解き形式のミッションをこなし、最後に町長に報告する」というもので、みんな楽しみながら防災や災害対応について学んでくれたと思います。

TEC-FORCEのプログラムのミッションシート

今年は関東大震災から100年という節目の年であり、国土交通省主催の「関東大震災特別企画展」も開催されました。

 令和 5 年 8 月26日から28日の 3 日間、国営東京臨海広域防災公園(そなエリア東京)にて開催しました。関東大震災の教訓から最新の防災技術まで“見て・触れて・感じる”がテーマの企画展で、建設関係やメディア関係の企業・団体にご協力をいただき、約3,700名( 3日間)の来場者に防災の重要性を理解して頂きました。
 「見る」パートでは関東大震災の写真や映像などの資料を展示しました。当時の被害の甚大さを感じてもらうことができたのではないかと思います。「触れる」パートでは、災害時に現地対策本部にもなる「対策本部車」、災害現場を照らす「照明車」も展示され、子どもたちは興味津々で車内を見学していました。車の模型やペーパークラフトも、子どもたちの目を引いていました。「感じる」パートでは、VRによる地震・浸水を疑似体験するコンテンツや科学実験ショーを行いました。液状化や地震のメカニズムがわかるような実験を、子どもたちも夢中になって見ていました。

関東大震災特別企画展での国土交通省水管理・国土保全局防災課ブースの様子

やはり、体験しながら防災について学べるコンテンツが人気なのですね。

 そうですね。ほかにも、国土交通省で作成した「防災カードゲーム『このつぎなにがおきるかな?』」を実際に遊んでもらいました。このゲームはトランプやカルタに似た要領で災害時の危険な状況や対処法を学べるようになっており、防災教育ポータルからもダウンロードできます。子どもの真剣に取り組む姿に大人も感化され、皆さん真面目にプレイしていらっしゃいました。家族で防災意識を高める上で、とても良いきっかけになったのではないかと思います。
 今年は、この企画展以外にも、切迫する首都直下地震等の巨大地震に備えることを目的として、関東大震災ゆかりの地を巡るツアーや、東京都をはじめとした関係機関とも連携したリレーシンポジウムといった、様々なイベントを開催しました。

防災教育を支援していくにあたり、どんな課題がありますか。

 文部科学省の資料によると、99.7%の小・中・高等学校等で、何かしらの災害安全に関する指導が行われています(2018年実績)。それだけ防災教育が浸透してきたと言えますが、どこまで深い内容で実施できているかについては、学校により開きがあるようです。私が教職員の方に聞いたところでは、「教科書にある内容はひと通り指導するが、自分たちの学校がある地域ならではの防災教育までは手が回らない」という意見がありました。国土交通省では地域ごとの災害に関する資料を豊富に持っていますが、それをどうやって学校教育の現場で活用してもらうかについてはまだまだ考える余地があると思います。

防災教育の今後の展望について教えてください。

 今述べた課題にもつながりますが、教職員の方々からは授業で使える地域の災害の写真や映像へのご要望が高いです。国土交通省で持っている豊富な資料を収集し、防災教育ポータルからダウンロードできるようにしたいと考えています。ただ、「防災教育ポータルをどう利用して良いかわからない」という声もあるので、伝えたいことを明確にした短い動画の作成や、必要な情報を見つけやすくすることで、機能的でよりわかりやすい設計に改善していきたいです。

防災教育ポータルをより充実させていくということですね。

 はい。もう1つ防災教育ポータルに載せたいと思っているのが、アクティブ・ラーニングのコンテンツです。アクティブ・ラーニングとは、生徒たちが能動的に学習に参加するスタイルの学習法のことですが、「ただ授業を聞くだけ」のような受動的な学習に比べ、知識や考える力が身に付きやすいといわれています。学校のICT化を進める文部科学省の「GIGAスクール構想」により、子どもたち一人ひとりがタブレット等の端末を使って授業を受ける現在、防災教育においても子どもたちが自主的に学習できるような教材を作りたいです。具体的には、eラーニングのコンテンツとしてそういった教材を作り、防災教育ポータルから直接学べるようにしていければと考えています。

「自分ごと」として考える上でも、アクティブ・ラーニングは効果がありそうです。

 災害から身を守る上で一番重要なことは、一人ひとりがハザードマップで災害のリスクを把握し、その上で「どういったタイミングで、どこに、どのように避難すれば良いか」を頭に入れておくことです。自分で自分の命を守れるようになってほしい、そして命を守る方法を家族や友人など大切な人とも一緒に考えてほしい、そんな思いから、教職員や子どもたち、その先の家庭や地域へと防災知識を広めるべく、国土交通省では支援を行っています。防災教育ポータルからはさまざまな教材がダウンロードできるので、ぜひ、使っていただきたいです。
 国土交通省は全国に現場があるので、その特性を生かし、全国の現場のつながりによって、地元の教育関係者との接点を更に広げたり、進化させたりしていきたいと思います。

最後に、読者に向けたメッセージをお願いします。

 ハザードマップポータルサイトを見て、ご自身の身の回りのリスクを確認することをお願いしたいと思います。すぐに検索できて、何十秒もかかりません。そうやって、「自分ごと」化が始まっていくのかなと、思います。

※首相官邸ホームページ 「防災の手引き~いのちとくらしをまもるために~」
 ○事前防災でいのちを守ろう
   災害が起きる前にできること、 防災気象情報と警戒レベル、 避難はいつ・どこに?
 ○さまざまな災害を知ろう
   地震、津波、火山、大雨・台風、土砂災害、竜巻、雪害

 学校で誰もが体験してきた防災訓練や避難訓練。でも、「習ったことで覚えているのは、地震の時に机の下に潜ることくらい」という人は少なくないのではないでしょうか。自然災害が激甚化している昨今、誰もが防災・減災の知識を身に付けて命を守れるようになってほしいと思い、今回のテーマを「防災教育」としました。
 小学生から大学生まで5人のお子様の父親でもあるつるの剛士さんには、防災意識の持ち方やお子様への防災教育についてお話をうかがいました。親子で楽しみながらサバイバル能力を鍛える方法は、参考になった人も多いと思います。京都大学防災研究所 巨大災害研究センターの教授である矢守克也さんは、さまざまな防災ゲームの開発にも携わってきた防災教育のスペシャリストです。防災教育は、単に防災のスキルを修得するだけでなく、国際教育や人権教育などにもつながっていることが、矢守さんのお話でよく分かりました。国土交通省水管理・国土保全局防災課の宮下妙香さんのお話は、国土交通省の防災教育の取組について。VRなど新たな技術やアクティブラーニングを活用した防災教育は、「当事者意識」の醸成を促し、子どもたちが災害に直面したときに、自らの命を守る行動をとれるようになることが期待できるでしょう。
 次号のテーマは、近年ビジネスなどで広がっている「気象データの活用」。新たに誕生した「気象データアナリスト」の役割とともに、その実態や今後の展開について紹介したいと思います。
(Grasp編集部)

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