トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.12

進む、港湾革命。日本躍進の切り札となるか

AI、IoT、自働化技術を組み合わせた世界最高水準の生産性と良好な労働環境を有する世界初となる「AIターミナル」の実現に向けた取り組みを進めるなど、日本の港湾は世界の最先端を目指している。また、今後も更なる需要が見込まれる物流の分野においても、国際的な競争が激化しており、港湾が大きく変わりつつある。島国ニッポンにおいて、「港湾革命」が国際競争力強化のための切り札となるのか、今後の展望を探る。

Angle B

後編

港は「美しくシンプル」これが決め手

公開日:2019/11/22

MSC

日本代表

甲斐 督英

アジア経済の拡大にともない、世界のコンテナ貨物扱い量でみても、アジアの港湾が上位を占める。国は、近年における経済のグローバル化など国内外の激変する環境に対応するため2018年7月、日本の港湾の将来を見据えた中長期政策「PORT2030」を策定した。日本の港湾発展のために、MSCの日本代表・甲斐督英氏は、国によるリーダーシップに期待を寄せている。

コンテナ船の大型化はどのような変化をもたらしますか。

 2016年にパナマ運河は、大型船に対応した拡張工事が完了しました。MSCはいち早く大型船へのシフトを進め、現在では長さ20フィートのコンテナに換算(TEU)して、7500個以上積載できる大型船を他社よりも多く保有しています。その中で拡張されたパナマ運河を通過できる最大船型にも注力しています。パナマ運河を経由する船は、主にアジアと北米東海岸を結ぶ航路に関係しています。
 なぜ大型化が進んだのかというと、大型化によってコンテナ1個あたりの燃料消費量が低下し、1個あたりの輸送費用が安くなるからです。それでは、なぜ燃料費削減を追求しているかというと、荷主がコストに厳しくなってきたからです。そこで船会社が必死にコスト削減を進めているという流れです。しかし荷主にとっては大型船の増加によるデメリットもあります。船便の頻度が減っているのです。例えば、コンテナを1万個運べる船が、東京とシンガポールの間で週2便あったとします。しかし、2万個運べる船が導入されれば、荷物量が同じなら週1便になります。
 近年、船会社同士が共同運航するなどの提携が進みましたが、これは大型船が増えたことで、運航頻度が低下しないようにするのが大きな目的の一つと言えます。

国としても港湾強化の方針を打ち出していますが。

 PORT2030では、港湾での手続き効率化を目指す「港湾の電子化」などが盛り込まれていて、その政策には大いに期待しています。現状では港湾のターミナル運営会社とトラック運送業者間、また貨物を引き取る業者と船会社間などで、まだFAX(ファクス)による事務手続きが多くあります。また、港やターミナル運営会社ごとに使用されているシステムが異なりますので、不便で人手も時間もかかります。船会社である我々が直接関与するところではありませんが、積み荷を運ぶトラック業者にとって煩雑なやりとりも多いのではないでしょうか。国がリーダーシップをとって、システムをまとめあげ、手続きの手間を減らそうとする動きは、船会社を始め、港湾関係者にとってもありがたいと思います。
 最近は、行政が主導する港湾事業に対しても「収益性はあるのか?」という部分が強調されてしまうのですが、民間がやっても事業的に成り立たないようなところに、税金が投入されて支えるべきなのだと思っています。国が果たす役割はまだ大きいと思っています。

【日本の輸出入コンテナ貨物の内訳】

国土交通省 港湾の中長期政策 「PORT 2030」~参考資料集~より

北極海航路は、日本港湾の存在感を高める好機でしょうか。

 欧州と東アジアを結ぶ費用と時間を大幅に短縮するとの期待が高まっている北極海航路ですが、業界内でもまだ議論が分かれています。北極海はこれまで氷に閉ざされていたことから船が通っていませんでした。このため手つかずの自然が残っています。最近は氷が解けだして船が通れるようになっていますが、そこに輸送船が入っていくと、運航の影響により環境が汚染され、生態系が乱れる可能性もあります。
 また、万が一事故が起これば、燃料流出などで海洋汚染が進んでしまうかもしれません。MSCなど欧州の複数の大手海運会社は、公式に「北極海航路は参入しません」と態度表明しています。今の時代、環境問題抜きにビジネスを語ることはできません。もはや、収益性だけで事業を展開できる時代ではなくなっています。もちろん、北極海航路を活用しようとする船会社もあるでしょう。北極海航路はまだ議論の渦中にあり、日本港湾に与える影響については、いましばらく注視が必要でしょう。

理想の港というのはどういうものですか?

 船会社としての立場でいうなら、その港に大きな需要がある限り、事業をやめることはありません。究極的に港の吸引力は、設備ではなく需要です。ただ設備でいうなら、「美しい港は使い勝手もいい」というのが私の持論です。使い勝手ということで言えば、ガントリークレーンのような施設が充実し、大型船が停泊できるような深さがあるなどの条件は当然ありますが、作りがシンプルな港は使いやすいと思っています。
 例えば、欧州のアントワープ(ベルギー)港のMSCターミナルでは、岸壁が一直線に3.7キロ延びています。その美しさは航空写真などで見れば一目瞭然です。世界最大級のコンテナ船(2万3000TEU)は、長さが400㍍もありますが、その規模の大型船でも4~5隻同時接岸でき、貨物の荷受けや荷下ろしも効率的に行えます。
 PORT2030でも、美しい港づくりを打ち出しています。クルーズ船が寄港する際には、美しさは競争力に直結します。最近はクルーズ船が寄港するターミナルも改善が進んでいます。外観の改善のほかに、乗船手続きをする施設に空調を入れて、お客さんが快適に時間を過ごせるように改善した施設もあります。クルーズ客が港に下りる時に、ウキウキできるかどうかは、旅行の印象において大事な要素ですからね。港湾に関わる者として、後世にしっかりと残せる港湾の形づくりに関わっていくとともに、国の政策にも期待していきたいと思っています。(了)

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