トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.9

天気予報は「ニッポンの未来予報」!

誰もが気にする天気予報。今、天気予報に熱い視線が注がれている。観測技術の発達や人工知能(AI)、データ分析技術の進化とともに、天気予報をはじめとする気象データの利用が広がる。産業の3分の1が天候に左右されるといわれ、気象データは、幅広い業種に新たな価値を生み出す可能性を持つ。気象データの活用などに向けて気象庁は、気象ビジネス推進コンソーシアムを立ち上げた。気象データからどんな未来が開けるのか。ニッポンの天気の最前線を追う。

Angle C

前編

気象をビジネスの「プラス要因」にしたい

公開日:2019/8/30

気象庁

長官

関田 康雄

天気予報をはじめ、気象データのビジネス利用が広がるとともに、国民的な関心が高まっている。気象データを使うと何ができ、私たちの生活はどう変わるのか。気象庁長官の関田康雄氏に聞いた。

多くの産業が気象、天候の影響を受けています。気象データはどのように活用することができるのでしょうか。

 農作物の生育、収穫は天候に左右されます。これまでは、農作物の生育や収穫は、農業に従事する方々の長年培った経験や勘に任されていました。田畑に設置したIoTセンサーで、気温や湿度などを直接観測し、データを綿密に分析すると、農作物がどういった気象条件であれば、よく育ち収穫できるかが分かるようになります。気象データを分析することで、人間の経験や勘を数値化できるようになり、生産性を高めることにつながります。
 農業以外の産業でも、気象データを活用することで、ある特定商品について、「どんな気象条件の時にどんな売り上げになるか」といったことが分かるようになってきました。一般社団法人全国清涼飲料連合会の協力を得て実施した「気候情報を活用した気候リスク管理技術に関する調査」では、自動販売機で温かい飲料と冷たい飲料がよく売れるようになる転換点の気温をデータから分析することができました。さらに、気象予報データと組み合わせることで、気温の変化による販売ロスを防ぐことにつながります。
 ただ、多くの産業界では、「気象も影響しているだろう」ということは理解されていても、綿密なデータ分析までは行われていません。このように気象データが十分に利用されていない分野が多いですが、その分「伸びしろ」があると考えています。

気象情報、気象データに対する考え方とは。

 気象庁は、気象を観測し解析し予測し、これを気象情報として発表しています。気象庁から提供する気象データは、国民の生活を豊かにする基盤的情報であり、大切な社会インフラであると考えています。
 近年、気象データについて経済活動の面からも需要の高まりを感じています。このことを受けて気象庁でも、国土交通省に設置された交通政策審議会気象分科会で提言された「2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」では、「観測・予測精度向上のための技術開発」と「気象情報・データの利活用促進」の二つを「車の両輪」として進めています。今日では、気象庁の気象情報、気象データが気象情報会社だけではなく、さまざまな企業でも使われるようになっています。気象情報、気象データは、国民生活にとって不可欠な基盤的情報であると位置づけています。
 また、そのような基盤的情報であるからこそ、気象データについて、「質の高いものを作る」「より多くの人に使ってもらう」ことが重要であると考えています。気象庁の使命は、「自然災害の防止・軽減」「交通安全の確保」「社会経済活動への貢献」です。社会経済活動への貢献という面からも、気象データのオープン化と高度化を進め、ビジネスにとって利用価値の高い気象データを提供していきます。また、幅広い産業分野における気象データの利活用を通じた社会全体の生産性向上の実現を目指します。

【気象データのビジネス利用が進んでいる】

気象データの活用から見えてくる未来社会とは。

 我が国が目指すべき未来社会の姿としているICTの活用をさまざまな分野に広げた「Society5.0」(超スマート社会)では、気象業務の果たす役割は、現在よりも高まると考えられています。気象情報・データは社会のさまざまなビッグデータや先端技術と組み合わせて活用され、新たな産業を創造することが期待されています。
 これまでは、天気予報を見て、どう行動するかなど、人間が判断していましたが、今日では気象データとAIを活用して「今日の服装はこれがベストですよ」と旅行先の服装を表示してもらうといった新たなサービスが登場しています。将来的には、さまざまな生活シーンでこうしたサービスを受けることができる世界が到来するのではないでしょうか。人間が天気や気象を意識しなくても、コンピューターが天気や気象に合わせて、最適なものを教えてくれるようになるのです。
 そこには、さまざまなビジネスチャンスが生まれ、気象はビジネスのリスク要因ではなく、プラス要因になる、そのような天気、気象が人間にとって恵みとなる社会を築いていきたいと考えています。将来の天気は変えられませんが、天気を予測することで我々の行動は変えることができるのです。
※後編へ続きます。

せきた・やすお 1959年長野県生まれ。84年気象庁入庁。地震火山部地震津波監視課長、地震火山部管理課長、総務部企画課長、大阪管区気象台長、地震火山部長、予報部長などを経て2019年4月より現職。子供の頃から歴史とミステリーを好んでいる。3年ぶりの単身赴任を契機に、家族との連絡手段がメールからLINEになったことが最近のトレンドである。
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