トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.30

チャンス到来!?EVビジネス最前線

世界中で脱炭素に向けた取り組みが加速するなか、いよいよEVが拡大期を迎えそうだ。IT大手アップルなど異業種からの参入も相次いでいるが、日本経済の象徴ともいえる自動車産業は、100年に一度と言われるゲームチェンジに勝ち残ることができるのか。またEVの普及とともに自動化、コネクテッド、シャアリングといった分野の技術革新が進むことで、私たちの暮らしや都市の在り方はどう変容するのかを探る。

Angle A

前編

10年後には何百倍もの高機能化も

公開日:2021/6/8

ラジオDJ/キャスター

サッシャ

地球温暖化問題への関心の高まりなどを背景に、走行時に二酸化炭素を排出しないEV(電気自動車)が世界的に普及をはじめた。従来の自動車メーカーだけではなく、テスラをはじめ異業種からの参入も相次いでいる。F1レースの実況をするなどクルマを知り尽くし、自らテスラ・モデル3を購入して愛車とするラジオDJのサッシャ氏に、EVに乗ってみた感想やエンジン車などとの違い、さらには、その可能性について聞いた。

サッシャさんのクルマとの出会いは?

 生まれがドイツで、ご存知のように日本と並ぶ自動車大国だったので、クルマは生活の一部でした。ドイツの道路といえば、速度無制限のアウトバーン(高速道路)が有名ですが、子供のころから、そのアウトバーンで両親が運転する時速200キロのクルマの後部座席に乗っていました(笑)。記憶に残っている最初のクルマがフォルクスワーゲン(VW)のゴルフGTIです。シフトレバーがゴルフボールの形になっているクルマでしたが、その第1号車を両親が納車待ちをして購入したほどです。その後はルノー(フランス)のアルピーヌとか…。あとは、母がドイツのホンダで働いていたこともあり、発売前のホンダ車のテスト走行をしたりしました。車種でいうとシビック・シャトルとかトゥデイなどでした。
 ちなみにドイツでは中古車はディーラーを通さず、個人で売買することが多いのです。父はそういうのも趣味にしていて、ちょっとだけ整備して、購入価格に少し上乗せして売って、次のクルマを買うということを繰り返していました。ドイツではそういう方がかなりいらっしゃいます。あと、クルマの性能といえば長らく、最高速度とか馬力を評価して買う国民性だったのです。レンタカー店でも、店員が「お客さん、運がいいね。このクルマは350馬力だよ」というような会話が普通にありました。もちろん今は環境性能も重視されています。
 渋滞も日本ほどひどくなくて、仮に少し渋滞すると、かなり前方から一定間隔ごとに看板が立っていて、徐々に速度を落とさせるのです。渋滞の手前から、ここでは制限速度「110キロ」「100キロ」「90キロ」「70キロ」「50キロ」…という感じでした。それで渋滞もほとんどなかったです。あと、ドイツではクルマはレジャーの一部で、どんなに遠くてもクルマで行きます。ヨーロッパは大陸なので、国境を越えてイタリアやフランスまで行ったりするのが当たり前でした。100キロが1時間という感覚なので、1000キロあっても「10時間で着くね!」と。日本では、北海道などの一部を除けば、遠出だと公共交通機関を使って、クルマはあまり使わないという感覚があります。

そんな幼少期の影響もあってか現在、「ル・マン」「Super GT」「Super Formula」などモータースポーツの実況を担当しています。

 9歳のときに母に連れられてドイツでF1を見に行ったほどです。そんな原体験もあって、日本に来てからも鈴鹿サーキットまで毎年、プライベートで観戦しに行くぐらい好きでした。そうしたなか、最初のきっかけはモータースポーツと並んで好きだった自転車レースをBSのスポーツ専門チャンネル「J SPORTS(ジェイ・スポーツ)」で実況を担当させていただく機会に恵まれたことでした。そのあと、トヨタ自動車がル・マンに復帰したのを機に、同チャンネルで中継を始めようということになったのです。レース中には、無線で情報が入ってきて、実況はそれを逐一把握していなければいけないのですが、無線は日本語ではなく英語だったりするわけです。そんなときに、自転車レースでお世話になっていたプロデューサーが、担当プロデューサーに「外国語ができて、レースのこともわかる人物がいる」と紹介してくれたのです。
 普段、テレビ越しに見ていたドライバーや解説者の話をじかに聞けたり、オン・エアにのらないオフの話を聞けるのがとてもうれしかったです。ただ、当たり前なのですが、実際に自分で走ったことのないコースの実況をするので、伝えることの難しさはありました。もっとも、今は家で事前にゲームソフトを活用して、VR(仮想現実)のコースを自分で走って〝熟知〟してから実況に臨んでいるので、ここは全体のコースのどこに位置するのかなど、コーナーの特徴を把握して実況しています。だから、コーナーでクラッシュなどがあったときに、「ドライバーがミスをするような難しいポイントではないので、機械トラブルだな!」などと、とっさに推測もできます。

【SuperGT開幕戦決勝の実況を終えて】

※サッシャさんのYouTubeから

サッカーをはじめ、いろいろなスポーツに精通していますが、モータースポーツの醍醐味(だいごみ)はなんですか?

 どんなスポーツでも、それが個人でもチームでも、肉体の極限や、それを越えたところの感動とか、背景にある努力が結実するというストーリーに心を動かされたりします。モータースポーツはさらに〝乗り物〟という機械が加わることで、それを作り上げた人たちの気持ちとか、その機械の歴史とか、さらにはレースを組み立てる知略・戦略、それを実現する頭脳と瞬時に判断して機械を操作するドライバーの身体能力などが加わります。ちなみに、身体能力は100㍍を全力疾走しながら、掛け算を計算して答えるようなレベルだともいいます。そういう人間と機械の組み合わせというか、人間の能力・限界を機械が増幅させることで、予想以上の結果を出す…というのがモータースポーツの最大の面白さだと思います。

そんなサッシャさんが、テスラ・モデル3というEVを購入した経緯・動機を教えてください。

 今、「フォーミュラE」というEVの最高峰のレースの実況も担当しています。それで、他のレースではエンジン車はもちろん、HV(ハイブリッド車)にも乗っているドライバーが口々に「EVは乗り方が全然違う」と言うのです。何が違うかというと、まず、ブレーキをあまり踏まない。なぜならアクセルを離せば瞬時に回生ブレーキが働く、回生しないと充電できず、レースでは電池が持たない。ブレーキを踏まず回生していくことが重要なのだと。ふだんのエンジン車などの運転だと、「ブレーキを踏まない」って考えにくいじゃないですか。それで実際に「EVに乗ってみよう!」と思ったのです。そもそもEVにはギアがないのでシフトレバーがない。クラッチもないので左足はまったく使わない。右足もほとんどブレーキを踏まない。右足で踏み込んでいるアクセルを一気に離すと急ブレーキがかかったようになる。なのでエンジン車ならアクセルを踏んで、離してエンジンブレーキをかけて、最後にブレーキペダルを踏んで止まる…という感じなのが、EVはアクセルの踏み込み具合を緩めることでブレーキがかかる、極端な話がアクセルだけで運転ができるという感覚です。乗ってみて初めて「ああ、そういうことを言っていたのだ!」とわかったので、乗ってみて良かったです。エンジン車などとは根本的に考え方が違うのです。
 もうひとつの購入理由がありました。僕は家電とかガジェット(目新しい道具)が大好きなのですが、EVは〝タイヤのついたスマートフォンやタブレット〟だな、と思うのです。スマホなら新しいものが出るたびに買い替えているので、その延長で「タイヤのついたスマホもほしいな」と。今までにないものだから、「これからの時代を先取りしているのかな」ということで乗ってみたいと思ったのです。

【購入したテスラ・モデル3の前で】

EVのレースが将来、F1にとってかわると思いますか?

 EVは音もうるさくないし、排ガスもないので、市街地でレースができるのです。だから他のレースとは違って、遠くまで行かなくても見られるのも良いところ。モータースポーツをすごく身近なものにして、ハードルをすごく下げてくれると思います。例えば、みなとみらい(横浜市)でレースがあれば、買い物のついでにでも見に行けますから。ただ、すぐにEVが自動車レースの最高峰になるのか、HVなどと両立していくのかは意見の分かれるところでしょう。F1自体も、もともとガソリン(エンジン)車だったのが、最先端のHVの象徴になったわけで、レースはクルマの開発競争の場という側面もあります。次世代のクルマがEVなのかHVなのか、はたまたFCV(燃料電池車)なのかは、現時点で断言はできませんが、それらが必ず未来のレースの形になってくると思います。
 そうしたなかでEVのレースが頂点になるために必要な条件は技術の進歩だけです。ふと、これからの10年間でEVはどこまで進歩するかと考えてみました。それで「じゃあ、10年前はどうだったか?」をスマホで考えてみたのです。ざっくりいうと、スマホは10年で何千倍と高機能化している。ところが電池の容量は約2倍にしかなっていないのです。ということは10年後のEVは、自動運転なども含めて、今の同じ電池容量で何百倍という高性能・高効率化を達成できるポテンシャルがあると思います。また、僕のクルマ(テスラ・モデル3)はリチウムイオン電池ですが、全固体電池とか、EV以外にも燃料電池とか、いろいろなオプションがあります。スマホが、日々使うことによって、人材や資金が投入されて発達したことを考えれば、EVも10年後には急速な発展を成し遂げているのかなと思います。そのうちインフラも整い、「EVも昔は、航続距離なんかで悩んでいたの?」と笑い話になるような気がします。
※後編は6月11日(金)公開予定です。

サッシャ 1976年9月22日生まれ、ドイツ・フランクフルト出身。ドイツ人の父と日本人の母を持つ。1986年に日本に移住。身長190cm 足のサイズ30cm。日本語・ドイツ語・英語のトリリンガル。獨協大学外国語学部卒。1999年VIBE(現MTV)のニュースアンカーを皮切りに、2001年「J-WAVE」および「FM FUJI」でラジオDJとしてのキャリアをスタート。ツール・ド・フランス、「ル・マン」「Super GT」「F1」などの実況アナウンサーとしても活躍。また、ITや家電製品などにも詳しく、自らテスラ・モデル3も購入。
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