時代の変化にチャンスを見出す すべてのビジネスパーソンへ

Grasp

トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考える
インタビューシリーズ

vol.2シェアリングは、経済成長の切り札か?

B

[ 後編 ]

AIが「乗り合い」を進化させる

公立はこだて未来大学 教授(株式会社未来シェア 代表取締役社長)松原 仁

公立はこだて未来大学教授の松原仁氏。人工知能(AI)によって車の配車・運行を最適化するSAVS(Smart Access Vehicle Service)を開発した動機は、経済性と利便性の両立を目指すことで疲弊した地方の公共交通を変えようというものだった。実際に創業したベンチャー企業、未来シェア(北海道函館市)で事業化を推進する。だが具体的な活用例をみていくと、同じカーシェアリングでもさまざまな可能性があることが分かる。

SAVSは、地方の公共交通に最適化したシステムなのでしょうか。

 「いいえ。概念的には、どこでも可能です。たとえば東京都心でSAVSを利用すれば相当に便利になるに違いありません。渋滞や二酸化炭素の排出量が減って、快適でスムーズに移動できます。経済効率の面でも、大都市の方が収益を期待できるでしょう。だから未来シェアでは、地域を限らず協力していく方針です」
 「実際に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に採択された『AI運行バス』の実証実験は、横浜市の臨海地区(みなとみらい21・関内エリア)で2018年10月にスタートしました。国立研究開発法人産業技術総合研究所とNTTドコモと組んだもので、12月までの予定です。2019年1月からは、たまプラーザ駅(横浜市青葉区)北側で東京急行電鉄が実施する実証実験に、東京都市大学(旧・武蔵工業大学、東京都世田谷区)と共同で協力しています。どちらも都市部での実験です」

地方での実例もありますか。

 「たくさんの問い合わせを頂き、取り組みも始まっています。効率は大都市に劣るといっても、地方には地方の事情があります。過疎地ほど公共交通を維持することの困難さが顕在化しています。生活者が困っているだけでなく、バスやタクシーを運行する地元の会社も悩んでいるのです」
 「実はSAVSのような乗り合い方式の新たな交通手段の導入は、ハードルが高いのです。今の制度では、『道路運送法』に基づく地域公共交通会議や、『地域公共交通の活性化及び再生に関する法律』に基づく法定協議会で合意を得つつ計画を策定しなければなりません。困っている地域ほど、地元の同意を得やすい面があります。その意味ではSAVSは地方交通に向いていますね」

海外のカーシェアリングの先進事例では、個人の自家用車をシェアすることでコストを下げていますね。そうした考えはないのですか。

 「日本では自家用車を乗り合いに使うのは“白タク”行為で、違法です。安全性などの面も課題でしょう。しかし本当の過疎地で、シェアリングしたバスやタクシーですら運行する需要がないなら、考えてみるべきだと思います。全国的には無理でも、地域を限った特例なら可能性があります。自家用有償旅客運送という制度がありますが、自家用車のシェアとして、効率的な予約や配車はSAVSのシステムでお手伝いできます」

これまでの実証実験で、効果はどうでしょうか。

 「まだ運行費用をペイするほどの収入を乗客から得られるケースは多くありません。実験で乗車率はあがっているので事業者の収入が増えて自治体からもらう補助金を減らせるはずです。もっとシステムが周知され、広範に利用されるようになれば効果も分かりやすくなると思います」

【物流や送迎 広がる可能性】

船舶の旅客を運ぶためSAVS搭載車両がスタンバイする(未来シェア提供)

AIを活用した配車・運行の最適化システムと考えると、バスやタクシー以外の輸送への応用も考えられそうです。

 「その通りです。未来シェアでは物流への応用、医療施設やスクールバスとしての利用、地域コミュニティーバスの代替などを考えています。2018年11月には群馬県太田市で、高齢者向けのトレーニングを兼ねたデイサービスの通所者を対象に『福祉Mover』というサービスが始まりました。病院や買い物先からでもスマートフォンを使って送迎車を呼び出せるのは、SAVSならではです」
 「このほか、例えばホテルやクルーズ船のターミナルと提携して食事や買い物に出たお客さんを送迎したり、地域の観光と組み合わせたりする使い方もあるでしょう。そのためには、まずは外国人観光客向けに多言語対応のアプリを開発しないといけません」

宅配便の集荷・配送の効率化や、過疎地なら宅配便や郵便の配達車に乗客を乗せるといった使い方も出来そうですね。

 「許認可が大変そう。(笑)しかし従来の規制にとらわれずに、さまざまな検討をしている自治体があるのは事実です。それだけ過疎地の自治体が直面している課題は険しいのです」

まったく逆のアプローチですが、歩いて暮らせる程度の『コンパクトシティ』なら、公共交通の問題は解決しませんか?

 「それだって、高齢者や障がいのある方にはサービスが必要ですね。大都市でなければ、市内を定額で移動できる使い勝手のいい乗り合いタクシーサービスができるかもしれません。そんなシミュレーションにも、取り組んでいます」(了)