トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.9
天気予報は「ニッポンの未来予報」!
誰もが気にする天気予報。今、天気予報に熱い視線が注がれている。観測技術の発達や人工知能(AI)、データ分析技術の進化とともに、天気予報をはじめとする気象データの利用が広がる。産業の3分の1が天候に左右されるといわれ、気象データは、幅広い業種に新たな価値を生み出す可能性を持つ。気象データの活用などに向けて気象庁は、気象ビジネス推進コンソーシアムを立ち上げた。気象データからどんな未来が開けるのか。ニッポンの天気の最前線を追う。
前編
「日本の気候変化の真っただ中」を描いた
公開日:2019/8/6
映画監督
新海 誠
前編
毎日の生活で、天気予報を気にかけて過ごす人が大半だろう。ビジネスの分野でも天気や気象データが注目されている。大ヒット中のアニメーション映画『天気の子』は、「天気」をエンターテインメントのテーマのど真ん中にすえた。アニメーション監督の新海誠氏に今、この時期に「天気」をテーマに選んだ理由と作品への思いを聞いた。
日本中に感動を呼び起こし社会現象にもなった大ヒット映画『君の名は。』から3年。待望の最新作『天気の子』は、天気がテーマです。
『君の名は。』の次の映画として、天気をテーマにしたのは、自分自身の天気に対しての実感、体感があったからです。特にここ数年、『君の名は。』公開前後くらいから、天気がはっきり変わってきてしまったと感じていました。日本の四季の移り変わりというのは、情緒的で楽しみなものでしたが、ここ数年で人間に対して激しいものになってきたのではないかと。猛暑や寒波、豪雨など天気や季節は、情緒というより人間が備えるべきものになってきたと感じています。
それは、僕の実感だけではなくて多くの人が共有しているような感覚だと思います。天気そのものが変わってきていて、僕たちは、まさに変化の真っただ中にいると。
もちろん、僕自身、空模様を眺めたり雲や空の絵を描いたりすることが好きでしたから、単純な自分の好みも影響していますし、「積乱雲が好きだ」「あの上はどうなっているのだろう」といった牧歌的な気分もあります。
舞台は、天候の調和が狂っていく時代の東京です。
実際に積乱雲や専門家の方々が、天気や気象について数字的に変動してきているということを認めているというか、認めざるを得ないという状況になってきていると思います。日本の気候は今、そういう段階に入ってしまったのだなあという実感があります。それも現在進行形ですから、何とかエンターテインメント映画の中にそのテーマを入れ込むことができないかなあと考えて、『天気の子』にたどりつきました。
日常生活でも、以前より暑くなった夏や、極端に激しい雨を体験することが増えました。
「人の心と空はつながっている」と主人公の16歳の少年、帆高が語ります。
帆高の言葉は、実は普通の感覚だと思います。台風、低気圧が迫ってくると肉体的にも頭痛がしたり影響を受けたりする人がいます。気象現象そのものは対流圏、1万メートルも遠くで起きている巨大な大気の循環現象なのに、それが個々の人間の気分や場合によっては体調も左右したりします。それはすごく不思議だなあと思います。そういう意味では、事実として空、天気と人はつながっていると思います。
生活者は対流圏を気にせずにはいられません。実際に多くの人が朝起きてすることが気象アプリを立ち上げることだと思います。今日の雨が降る確率は何%なのだろうとか。天気という身近なテーマを通して多くの人に「これは自分の物語だ」と思ってもらいたかったという気持ちがあります。
『天気の子』に託された現代を生きる私たちへの問いかけとは。
『天気の子』を通して一番、見せたいのは物語です。政治家は言えない、テレビでも大きな声では言えないことでも、エンターテインメント映画だったら受け入れてくれるかもしれないと感じました。賛否両論を目撃できるような映画にしたかったのです。
個人の思いや願い、祈りは、必ずしも社会全体と同じではなく、場合によっては、願ってはいけないことを願うこともある。しかし、SNSで多くの人がつながっている現代社会では、社会のルールや正しいことしか大きな声で言えないような空気感があります。
僕自身も、そこに窮屈さを感じています。その感覚が『天気の子』のストーリーにも反映されているかもしれません。社会的には許されないような正しくはない願い、それでも個人にとっては切実である願いを、大声で叫ぶような少年少女を描いてみたいと考えました。
※後編は8月9日(金)に公開予定です。
(天気を通して)現代社会に問いかけるものとは
前編