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トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.21宇宙ビジネス最前線!世界とどう戦う?

公開日:2020/9/29

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[ 後編 ]

宇宙旅行を誰もが楽しめる時代に

宇宙エバンジェリスト青木 英剛

現在の宇宙ビジネスの市場規模は世界全体で約40兆円と言われているが、日本の市場は約1.2兆円と必ずしも多いはと言えない。日本は世界的にも優れた技術力を持ちながら、ビジネス面においてはアメリカやヨーロッパ諸国などを追いかける状況にあるが、今後、世界と渡り合っていくために求められることとは何だろうか。

米国でスペースX社が、今年5月に民間企業として世界初の有人宇宙船の打ち上げに成功しましたね。

 スペースX社は、もはやベンチャー企業ではなく、世界最大規模の宇宙企業へと成長しています。スペースX社の実力は、ずば抜けていますが、その他のアメリカの民間宇宙企業も、スピード感をもって、宇宙事業を展開しています。イノベーションを起こすには、失敗はつきもので、多少の失敗を許容し、これを素早くリカバリーしていくことが肝要です。国の文化の違いだと思いますが、日本は失敗が許されない文化であるがゆえにイノベーションを起こしにくいですが、ぜひアメリカのような考え方を取り入れてほしいと思います。日本はアメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国、インドといった宇宙大国の一角にギリギリ食い込んでいる状況ですが、このままだと置いていかれてしまいます。6月末に宇宙基本計画(5年に一度改定)の改定が閣議決定されましたが、この中に「宇宙ベンチャー企業を支援」する必要性が盛り込まれています。これをきっかけに産官学の取り組みが加速することを期待しています。

巨額の投資が必要な宇宙ビジネスで、今後、政府や企業が果たす役割をどう考えますか?

 民間の産業活動において、政府が一定の調達を補償する「アンカーテナンシー」がカギになると思います。アメリカのベンチャー企業が、この分野で先行するようになったのも、NASA(アメリカ航空宇宙局)がこれまでの自力での宇宙開発から方針転換し、民間の力を活用した宇宙開発を目指そうとしたことがきっかけです。日本でも、ロケットや衛星を国が開発するのではなくて、政府が民間企業からロケット打ち上げや衛星データを調達するという発想が必要になってくるのではないでしょうか。民間でできることは民間に任せ、輸送サービスを政府が購入する、または、人工衛星の生産や運用を民間に任せ、そのデータを政府が買い取るなどといったケースも考えられると思います。政府が最初の顧客になることで、民間企業が第二、第三の顧客になるための呼び水になります。最初のステップが見通せることで、銀行やファンドなども、開発の分野でリスクを取ってでも、投資するきっかけになり得ます。アメリカのスペースX社の成功も政府の支援なしには達成できませんでした。日本政府もアンカーテナンシーに取り組む姿勢を表明し、内閣府を中心に産業振興に取り組み始めました。賞金コンテスト(宇宙ビジネスアイデアコンテストS-Booster)などを開催したり、宇宙ベンチャーの育成支援へと大きく舵を切りました。こうした取り組みが、うまくいくかどうかが、日本の宇宙産業が生き残れるかどうかの分岐点となるでしょうし、現状の支援内容はまだ十分ではありません。これまで大手企業は公共事業として宇宙ビジネスを捉えていて、政府の予算のみを取りに行くことに集中していました。しかし、さらなる成長を実現するには、リスクを取る経営が必要で、その点で今後は宇宙ベンチャーの果たす役割が大きくなるでしょう。ベンチャー企業に新しい取り組みを任せ、大企業はベンチャーを資金面や人材面で支援するなどアライアンスに積極的に取り組むことが、日本企業が世界に勝つための重要なポイントになると思います。

海外と比較して日本企業の競争力をどう評価しますか?

 私が三菱電機時代に携わった「こうのとり」プロジェクトは、これまで9機連続で打ち上げに成功しています。しかし、他の宇宙大国による「こうのとり」と類似した宇宙船の打ち上げプロジェクトは100%の成功率ではありません。日本の強みは技術力と品質の高さだと言えると思います。また、大手企業だけではなく、部品を手掛ける町工場の技術レベルも高く、モノづくりの産業のすそ野の広さでは他国を圧倒しています。これまで自動車やロボットなどの産業は、日本が制覇してきましたが、今後、自動車産業などの他業種から宇宙ビジネスへの参入が相次げば、コスト競争力や品質がさらに高まることは間違いありません。すでに、トヨタ自動車をはじめ、100社以上の大手企業が宇宙への新規参入に動き始めています。スピード感を持って、商業利用を進め、ビジネスとして成功させられれば、日本が宇宙ビジネスでも確固たる地位を築くチャンスはあると思います。

【JAXA(宇宙航空研究開発機構)の無人補給機「こうのとり」は、9回の物資輸送を全て成功させ有終の美を飾った。】

※JAXA提供

日本の宇宙産業発展のためには、何が必要でしょうか。

 私が「こうのとり」プロジェクトに携わっているときに、スペースX社は宇宙船「ドラゴン」を開発し、オービタル・サイエンシズ社(現・ノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズ社)は宇宙船「シグナス」を開発していました。「こうのとり」は国から民間企業が設計・製造を受注する形であるのに対し、「ドラゴン」や「シグナス」は、予算を与えて自由に作らせる発注方法で、NASAが輸送サービスを買うというやり方でした。このとき、「シグナス」に「こうのとり」の技術を提供する機会があり、私はアメリカに長期滞在し、アメリカの宇宙ベンチャーの人たちと仕事する機会があったのですが、日本は宇宙ビジネスで相当遅れていると感じました。日本が追い付くには、アンカーテナンシーがカギを握っています。初動の部分を官民が一体となって作っていかなければなりません。
 私の役目は、政府やJAXAと民間企業が連携を強められるよう、外部のサポーターとして、知見を提供できればと考えています。宇宙産業の規模は40兆円あり、20年後には100兆円を超えると言われています。このうち、宇宙インターネットやビックデータの分野に需要が集中しています。現状では、世界人口の70億人の中でおよそ40憶人がいまだインターネットに接続できていませんが、この解消のために光ファイバーに投資するよりも、人工衛星で通信をつなぐほうが低コストだと言われています。そこへの投資はかなり進んでいくでしょう。アンカーテナンシーにより、政府がデータを買い上げ、宇宙から来たデータをどう使うのかを示すことが大事です。気象情報や防災、スマートシティなど分かりやすい活用事例を示すことで、民間企業が物流や海洋監視、農業などに活用する動きに結びつけられるかもしれません。その意味でポテンシャルは極めて大きいといえます。

日本の宇宙産業を担う人材を育てるには何が必要ですか?

 現在、日本の宇宙業界で働く人たちは僅か1万人程度です。これからは通信や人工知能(AI)など異業種の技術も必要になってくるので、そういう知見を持った人材を宇宙業界に呼び込むことが重要になります。今後は、大手企業で経験した技術者がベンチャー企業で小型ロケットをつくったり、人材を流動化したり、ミックスさせることで、宇宙業界を活性化させることがポイントになります。また、大学での育成はもちろん、子どもたちに対し、早い段階で宇宙への関心を高める教育も重要になるでしょう。私自身も、子どもたちに宇宙の魅力を語っていますし、宇宙飛行士や企業で何かしら物を作った人の話など、本物の体験やリアルな実物を見せるような取り組みがさらに増えていけば良いと思います。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

 宇宙産業はこれから本格的に拡大し、新規参入も増え、日本だけでなく、さまざまな国が宇宙ビジネスに参入するでしょう。そうなると、誰もが宇宙に行けるチャンスが広がるので、学校や企業、個人が、「自分だったら何ができるか」「何がしたいか」考え、宇宙ビジネスとの接点を持ってもらいたいです。数十年後には、誰もが宇宙に行けて、宇宙生まれの子供も珍しくない時代がやってくると思います。私は宇宙飛行士を目指しましたが、まだ宇宙には行っていません。その代わりに、誰もが宇宙に行けるための場づくりを進めています。宇宙飛行士として、国を代表して宇宙へ行くことも素敵ですが、誰もが気軽に宇宙に行けるようになれば、自ずと自分が行く機会が増えるはずです。「今度の正月は、海外旅行に行こうか、もしくは宇宙旅行に行こうか」という時代はすぐそこまで来ています。(了)

編集後記

自らも宇宙飛行士を目指すタレントの黒田有彩さんは宇宙開発が「民間に委託される時代を迎えた」ことで、「普通の人でも宇宙に行ける時代になる」と期待感を示した。そのビジネスの担い手で「次は、宇宙へ。」を掲げるANAホールディングスの津田佳明氏は官民一体となった取り組みの必要性とともに、「イノベーション創出」に向けて、失敗を恐れず挑戦していく必要があるとした。宇宙エバンジェリスト(伝道師)として、宇宙港の日本誘致、日本企業の宇宙ビジネス参入を呼びかける青木英剛氏は「日本の強みは技術力と品質の高さ」と指摘。その一方で、アメリカなどに比べて「相当に遅れている」とも語り、官民がスピード感をもって、宇宙ベンチャーの育成支援などを進めるべきだとした。
 次号のテーマは「仮想空間」です。新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、ネット上につくった好みのキャラクターなどを通じて気軽に交流やエンタメ、スポーツを楽しむスタイルが定着するなか、仮想空間ビジネスの可能性について、識者に話を伺います。(Grasp編集部)