トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.33

輝け!水の中のスペシャリスト

海に潜り、人命救助や捜査活動を担う海上保安庁の潜水士。彼らをモデルにしたテレビドラマ『DCU』には、水中という過酷な環境でさまざまな試練や困難に立ち向かう潜水士たちの姿があります。潜水士を描くこと、そして潜水士を演じることの裏側にはどんな挑戦があるのか―舞台となる海上保安庁の業務とともに紹介します。

Angle C

前編

えり抜きの志願者が水中活動のプロに

公開日:2022/2/15

海上保安庁総務部政務課政策評価広報室

報道係長

橘 由祐

2022年1月にスタートしたテレビドラマ『DCU』では海上保安庁の架空の組織で水中捜査を行う潜水士たちの活躍が描かれています。では、そのモデルとなった海上保安庁の潜水士はどのような業務を行っているのでしょうか? テレビドラマに登場する「潜水士」や「海上保安庁」のリアルな姿について、海上保安庁広報室の橘由祐係長に聞きました。

テレビドラマ『DCU』では水中捜査を行う潜水士が登場し、「潜水士」の仕事に注目が集まっています。まず、海上保安庁の潜水士の仕事について教えてください。

 転覆した船舶や沈没した船舶などに取り残された方の救出や、海上で行方不明となった方の潜水捜索などが潜水士の任務です。海上保安庁の潜水士は、海上保安官として海難救助にかかる業務のみならず、所属する部署の様々な業務に従事しています。また、私たち海上保安官は船乗りでもあります。ひとたび海難が発生すれば、現場へは巡視船艇や航空機で向かいますが、例えば、船に関して言えば、乗船する海上保安官全員で動かします。乗船している海上保安官それぞれが、操船や見張りなどを行う航海科、エンジンを動かす機関科、食事を調理する主計科など、それぞれの役割を果たしつつ、現場に到着してから潜水士が海に潜るなどして活動しているのです。ただ、救助活動は潜水士だけで行えるものではありません。潜水士の活動を支援する職員など、チームで救助活動に臨んでいます。

テレビドラマ『DCU』では潜水士が犯罪捜査を行っています。実際に海上保安庁の潜水士も捜査をすることがあるのですか?

 潜水士も海上保安官です。海上保安官は犯罪捜査も行います。
 海上保安庁の任務は「海上における治安の維持及び安全の確保を図ること」です。そのため、海の上で起きた事件や事故はすべて海上保安庁が対応しますし、警察と同様に捜査も行います。例えば、フェリーの船内で傷害事件が発生すれば、我々が現場に駆けつけます。また、検査を受けていない船を航行させる無検査航行などの海事関係法令違反や、漁業権侵害などの漁業関係法令違反があれば、海上保安庁が取り締まります。そのような犯罪捜査の中でも、例えば、水中に重要な証拠物が投棄された場合の回収や、水中での実況見分など、潜水士にしかできない捜査もあります。
 ドラマに登場する「DCU」は水中全般の犯罪をカバーする架空の組織で、陸上のダムでの捜査をしていましたが、実際は警察の管轄で、海上保安庁の活動する舞台は海です。
 例外は台風や大雨などの自然災害が起きた時などです。大規模な自然災害が発生したときは、海上や陸上といった区別をせずに、自衛隊や警察、消防と一緒に救助を行います。「令和2年7月豪雨」では、海から離れた陸の被災地にも出動し、ヘリコプターや特殊救難隊、機動救難士により、孤立者の救助や避難所への食料などの輸送を行いました。

潜水士は、水に潜る仕事だけをしているわけではないのですね。では、海上保安官から潜水士を目指すには、何か受験資格などが必要なのでしょうか。

 希望すれば潜水士に志願できます。海上保安庁の入庁前に何か資格が必要というわけではなく、入庁後、海上保安官として、ある一定の経験を積むと潜水士の選抜試験を受けられます。全国には11の管区があり、選抜されるのは各管区から前期・後期の2回でそれぞれ1、2名ほどです。毎年36名程度が選抜され、海上保安大学校での研修を受けます。すべてのカリキュラムをクリアし、潜水士国家試験に合格すると、潜水士としての業務にあたることができます。
 潜水士になってからも、継続的に訓練を積み、海中での救助に対応できるよう常に準備をしています。

海上保安庁では約240名の潜水士が活躍しています。

活動中の潜水士

テレビドラマ『DCU』への制作協力について庁内の反応はいかがですか?

 「ぜひ、協力します!」といった前向きなイメージですね。海上保安庁の仕事を紹介するもので有名なのは『海猿』です。漫画が原作で、テレビドラマや映画にもなり、海を守る海上保安庁の仕事を広めていただきました。実は、私も『海猿』世代です。
 ただ、最近は海上保安庁のイベントで『海猿』の話をしても、子どもたちはまず知りません。お父さん、お母さん世代が辛うじて知っているぐらい。ですから海上保安庁の仕事を広く知ってもらえる機会として、今回の『DCU』はとても貴重なものと感じています。ヒット作を連発してきた制作チーム、ハリウッドとの共同制作など期待感は大きいですね。そして何よりも阿部寛さんや横浜流星さんはじめキャストが豪華です。庁内のテンションもかなり上がっています。

ドラマへのどのような協力を行っているのですか? また、ドラマではどのようなところに注目して欲しいですか?

 全面的な協力をしています。脚本の段階でも海上保安庁の業務という設定として違和感がないか確認しています。撮影では巡視船やヘリコプターなど海上保安庁の実際の装備を使っています。施設では横浜海上防災基地の潜水プールも登場します。海上保安官が技術指導も行っています。
 個人的には巡視船に注目して欲しいです。スケールが大きくて、とにかくかっこいい。真っ白な船体に青いラインとJAPAN COAST GUARDのロゴ。白い船体のイメージは、海で事故や事件に巻き込まれている方が見た時にほっとされるものだと思います。

約480隻の船艇を全国各所に配備しています。

巡視船「あさづき」

本作のプロデューサーである伊與田英徳さんは『下町ロケット』などを手掛けており、その大きな魅力はチームで困難を乗り越えていくところにあります。『DCU』でも、さまざまな背景を持った登場人物がひとつのミッションに向かうなかで、意見の違いを乗り越えていくのではないかと期待しています。海上保安庁の仕事で、そういった職員同士のコミュニケーションの重要さを感じることはありますか?

 大いにありますね。まず、私たちの使う巡視船艇や航空機は一人では動かせません。船であれば、それぞれの持ち場で仕事をして、船長がまとめあげていきます。レスキューにしても、船の上で指示をする人もいれば、海の中で人を助ける潜水士もいます。すべての職員の仕事がきちんとつながっていなければ任務はクリアできません。
 海の上で捜査や救急活動はシビアな状況もあります。だからこそ、普段からコミュニケーションを取る必要があります。誰しもパニックになることはあります。お互いをよく理解し合っていれば誰かがミスをしてもフォローし合えます。他者のミスに気づくためにも、チームとして仕事をすることは重要だと思います。
 ヒューマンエラーは必ず起きる。それをどう補うかが船乗りの世界では大切です。これは業務でも同じです。何かを感じたとき、何かが起きたとき、それを即座に言い出せる。そういった雰囲気にしていくことが業務を遂行するうえで一番重要です。
※後編は2月18日(金)公開予定です。

たちばな・ゆうすけ 1987年生まれ。兵庫県出身。2007年に海上保安大学校本科に入学。2012年3月に第11管区(沖縄県)の巡視船主任航海士に配属。以後、巡視艇船長や本庁係長などを歴任。2021年から現職。海上保安庁の情報を発信・広報する業務を行っている。
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