トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.8

“地下”を攻める! 新たな挑戦

狭い狭いと言われ続けた日本の国土にあって、利用しつくされていないのが地下空間だ。外部から完全に隔離できるという、地球上のほかの空間にはない特長を持つ。これまでは、道路や鉄道など交通網の敷設や、豪雨時に水をためる防災施設などとして使われてきたが、活用法はこれにはとどまらない。香港では地下都市の建設も進んでいるが、日本でも工場などで排出されるCO2の封じ込めや、地下工場の建設など様々なアイデアが実用段階に入っている。いっそうの利用に向けた課題を探る。

Angle B

後編

「大深度」こそ都市問題の特効薬

公開日:2019/7/19

大林組テクノ事業創成本部

PPP事業部長

葛西 秀樹

高度経済成長を経て、日本の都市は発展を遂げ、その姿は大きく変わった。前編では、都市問題の包括的な解決のために、最新の技術を活用すれば何ができるのか話を聞いた。しかしなぜ今、地下空間なのだろうか。既に都内には地下鉄や上下水道も張り巡らされている。地下活用はこれ以上必要なのだろうか。

今、大規模に地下を開発することの意味は。

 まず技術が成熟し、法的な環境も整っていることが背景にあります。例えば、巨大なシールドマシーン(掘削機)が平らな土地を斜め下に掘り進めようとすると、マシーンが浮き上がり、入り口付近の天井が崩落するなどの課題があります。しかし当社にはこれらの課題を解決した世界初のシールド技術が既にあります。今回の「スマート・ウォーター・シティ東京」構想でもこの技術を活用しています。既存の技術か、もしくは多少進化させるだけで、構想は実現可能です。
 さらには大深度地下の公共的使用に関する特別措置法で大深度地下の開発ルールが明確化されました。そこには地主の権利が及びません。例えば、電線の地中化はなかなか進みませんが、それは権利の問題が大きな原因になっています。工事を施工する際には、周囲に与える影響を考慮しなければなりません。隣接地の地主の了解だけでなく、周囲の商店の営業環境に与える影響など、複数の難しいハードルを越えないとできません。浅い深度の地下を大規模に、かつスピーディーに開発するのは難しいのです。

大深度地下のハードルは下がっていると。

 2001年度に制定された>大深度地下の公共的使用に関する特別措置法で、深さ40メートル以上の地下空間の開発ルールが決められ、公共利用のための開発がしやすくなりました。もちろん、掘り下げるコストの検討は常に必要ですが、大深度地下が有力選択肢として浮上してきているのです。現代ならではの都市問題、例えば、防災・環境・観光に関わる問題などを、我々の建設技術でも、解決に貢献できるという提案です。これまで地下はバラバラに整備されてきました。現在、上水道・下水道・電気・ガスなどのインフラが、都心部の地下の四方八方に張り巡らされていますが、将来的にはこれらを効率的にまとめて管理できればと思っています。また、水道やガスなどのインフラは、設備の老朽化により、あちこちで頻繁に地面が掘り返され、パイプ交換や修復が行われています。コストは多大です。すべてとはいかないと思いますが、都心部のインフラを大深度に集約させて、効率の良い管理を考える局面に来ているのではないでしょうか。

大林組のシールドマシンによる掘削技術

地下を一気に掘り進める工法のため、工期が短く近隣への影響が少ない。(大林組提供)

大深度地下の法整備後、活用は進んでいるのでしょうか。

 進展はこれからだと思います。特に都心部での活用が進むことが期待されます。地下開発には、メリットがいくつもあります。地上の空間よりも地震による揺れが少ないことも大きな利点です。日本は地震大国ですので、この点は見逃せません。さらに、地下空間では交通渋滞もありません。新しい発想の交通路として活用することも、次世代では検討されるべきではないでしょうか。
 2017年に米電気自動車のテスラの創業者であるイーロン・マスク氏が、都市の交通渋滞の解決策として、「ドローン技術を使った自動運転は(墜落等の)危険を排除できない。それなら地下空間を使った高速道路の方が、安全面で実用的だ」とのアイデアを発表したことを知りました。我々の考えている方向性と同じです。地下空間は真剣に考える価値があるものなのです。

技術面だけを考えた場合、この構想はどのくらいの期間で実現できると思いますか。

 大深度空間の工事は、7年程度と想定しています。規模と施工場所から考えても意外と短期間で実現できると思います。基本的に、既存の技術に多少の進展を加えれば実現できる構想です。国家的事業ということになるかもしれません。しかし、それによって東京の魅力が向上し、防災面の強化が図られれば、世界の都市と比較し、東京の不動産的な価値が高まるかもしれません。コストに見合う事業になるのではないでしょうか。ただこのような構想が有効なのは、人口密集地域、日本なら東京や大阪、名古屋などの大都市ということになるでしょう。地上にまだまだ開発余地が十分にある地方では、事業環境が異なります。

大深度地下に向けた技術は完成しているのでしょうか。

 世の中のニーズが固まらないと、技術がどこに向かうか分かりません。今回提案させていただいた構想は、既存技術と少しの進歩で成し遂げられるもので構成し、技術的には可能なものばかりです。構想の基本概念は、都市の防災・環境・観光などで、それらを複合的な課題として解決するための構想を提案しています。しかし、ほかの課題に重点をおいた場合は、別の技術や着想が必要になるかもしれません。大深度地下の開発はまだ始まったばかりで、今後どんな用途に向かっていくのか、状況を見極める必要があります。今後世の中の大深度地下の議論が深まり、ニーズが固まってくることを期待したいです。(了)

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