トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.11

「空飛ぶクルマ」もう夢じゃない!

次世代モビリティの柱として注目を集めているのが「空飛ぶクルマ」だ。これまで、アニメや書籍等で未来の乗り物として語られてきたが、近年、国内外の企業が実用化に向けた開発を進めている。国内でも政府が2023年の事業開始を目標に掲げ、企業と自治体も連携して産業化に向けた取り組みを推進するなど、活発な動きを見せている。空飛ぶクルマ社会が実現すると、世の中にどのような変化がもたらされるのかを探る。

Angle C

前編

災害時に“空飛ぶ軽トラ”大活躍

公開日:2019/10/25

東京大学

特任教授

鈴木 真二

身近で手軽な空の移動手段として期待される「空飛ぶクルマ」。国土交通省をはじめ国と民間企業、有識者でつくる「空の移動革命に向けた官民協議会」は、日本での事業開始の目標を2023年に掲げている。同協議会の委員で、東京大学特任教授の鈴木真二氏に日本が目指す空飛ぶクルマ実用化への道筋を聞いた。

今、なぜ空飛ぶクルマの開発に注目が集まるのでしょうか?

 空飛ぶクルマの端緒は、第2次世界大戦直後にアメリカの起業家が車に翼をつけた機体を開発したことです。エンジン駆動で飛行するタイプで、500台の注文があれば事業化する考えでしたが、実際にはその半数ほどしか注文が集まらずに断念しました。ただ、それ以降も現在に至るまで、「車にプロペラを付けて飛ぶ」機体の開発プロジェクトは欧米などでたびたび進められてきました。
 現在のように、空飛ぶクルマの開発が活発に行われるようになったのは、無人航空機、ドローンの普及が影響しています。2010年代に入って、ドローンが市場に多く出回るようになり、100キロくらいの重さのモノまで運ぶことができるようになりました。そこで、ドローンと同じ仕組みを利用して「人が操縦する、飛行機のようなものができるのではないか」と開発が始まったのです。
 欧米では、ドイツのボロコプター社が2016年に空飛ぶクルマの初飛行に成功し、2019年10月にはシンガポールで飛行テストを実施するなど実用化に向けて動いています。ボロコプター社にはドイツの自動車大手のダイムラー社やアメリカの半導体大手インテル社などが出資しています。航空機大手のボーイング社やエアバス社も、空飛ぶクルマのスタートアップ企業を買収するなど、開発に乗り出しています。

「空の移動革命に向けた官民協議会」は、空飛ぶクルマの事業開始の目標を2023年に掲げています。

 空飛ぶクルマの実用化には、機体の開発とともに、飛ばすことができる環境の整備がカギとなります。「空の移動革命に向けた官民協議会」は、国土交通省、経済産業省、総務省、大学、開発企業で構成され、2018年12月に実用化への道筋を示したロードマップを作成しました。人が乗ることができる試作機を開発し、2023年の実用化を目標にしています。
 国が明確に方向性を示したのは、世界で日本が最初です。国内で飛ばすことができる環境を整えるために、事業化する時期を示すなど、目標を明確にしました。実用化では、モノの移動、地方での人の移動、2030年ごろから都市での人の移動へと拡大を目指します。

【「空飛ぶクルマ」の実現に向けたロードマップ】

出典:空の移動革命に向けた官民協議会(2018年12月20日)資料より

空飛ぶクルマの開発意義とは?

 実用化の初期段階では、社会的な合意を得やすい用途での運行が検討されています。ドクターヘリのような形で利用したり、過疎地や離島で物資を輸送したりすることなどが想定されています。空飛ぶクルマの利用によって、公共的で社会的な課題解決につながるのであれば、日本でも開発への期待や利用の機運が高まってくるのではないでしょうか。
 まずは、「空飛ぶ軽トラック」のようなイメージで困っている人たちのための移動手段として使うのはどうでしょうか。例えば、日本は災害が多く、災害現場に物資や人を運びます。現在も災害状況の把握にドローンが活用されていますが、もっと大きな機体が緊急物資を運んだり、孤立した人を運んだりすることができるでしょう。
 都市部でも、空飛ぶクルマはドクターヘリとして活用できます。負傷や急病で病院に搬送しなければならない時に、道路の渋滞を回避して「どこからでも15分以内に緊急措置を受けることができる」環境を作ることができるようになります。
 ヘリコプターは、機体自体もメンテナンスにも多大なコストがかかりますが、「空飛ぶクルマ」は、バッテリーで電動モーターを動かします。ジェットエンジンで動くヘリコプターと比べて必要なコストは10分の1以下となり、実用化すれば、だれにとっても身近で手軽な空飛ぶ移動手段となるのです。

空飛ぶクルマの実用化に向けた環境整備の課題は?

 空飛ぶクルマの実用化に向けては、安全と騒音が大きな課題です。ロードマップでは、最初はモノの運搬から始め、その後、過疎地での人の移動に利用し、技術と制度が成熟し、社会の理解が進んだ段階で、都市部での人の利用に拡大するとしています。
 特に安全面では、飛行機とは違う仕組みで、新しい審査基準を作る必要があります。すでに欧米では、民間企業が中心となって基準づくりを進める動きが出ています。日本が世界最先端の分野における開発競争のスピードに乗り遅れないためにも、開発者、民間企業が中心となって制度を提案できる動きが出てくればと思います。メーカーが競って技術開発を進めると同時に、お互いに協力して環境整備や基準をつくることが大切です。また、日本だけで孤立した制度にするとガラパゴス化し、輸出入の障壁となるため、国際標準の検討に積極的に参加することも必要です。
※後編は10月29日(火)に公開予定です。

すずき・しんじ 1977年東京大学工学部航空学科卒業、1979年同大学院工学系研究科修士課程修了。豊田中央研究所を経て、1986年東京大学工学博士取得、同工学部助教授。1992年Purdue大学客員研究員を経て、1996年東京大学大学院教授。2001年総長補佐、2009年航空イノベーション総括寄付講座代表(2018年より共同代表)、2014~2017年広報室長、2018年スカイフロンティア社会連携講座代表、2019年現職および東京大学名誉教授。日本航空宇宙学会会長(第43期)、日本機械学会副会長(第95期)、International Council of Aeronautical Sciences (ICAS)会長(2019-20)、日本UAS産業振興協議会理事長(2014~)、航空イノベーション推進協議会代表理事(2018~)、あいち航空ミュージアム館長(2017~)、福島ロボットテストフィールド所長(2019~)、日本学術会議連携会員(2014~)。
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