トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.51
地域の「交通空白」解消に向けた令和の地域公共交通大改革
ローカル鉄道、路線バス、タクシー、フェリーなどの地域公共交通は、人々の暮らしに無くてはならないサービスであり、病院や学校の統廃合や高齢者の免許返納など、日常生活における移動の足の確保のニーズはますます高まっています。しかし、近年は運転手不足や人口減少による利用者減などにより、地域公共交通は厳しい状況におかれており、存続が難しく「交通空白」が生じている地域も珍しくありません。そこで進められているのが「地域公共交通のリ・デザイン(再構築)」。教育や介護など分野の垣根を越えた多様な関係者との連携・協働で地域公共交通の利便性・生産性・持続性を高めようというものです。誰もが行きたいときに、行きたいところへ行ける社会を実現するために、どのような取組が行われているのかを紹介します。
前編
地域公共交通の「リ・デザイン」の最前線を担う地方運輸支局とは
公開日:2024/10/1
国土交通省 北陸信越運輸局
石川運輸支局長
猿谷 克幸
前編
少子高齢化や人口減少などに伴い、地域の鉄道やバス路線が立ち行かなくなり、公共交通の空白地域が生まれる…。現在、日本各地で、今後の地域公共交通の在り方が模索されています。国土交通省では、地域の人々が連携・協働して利便性の高い持続可能な公共交通をつくりあげていくことをめざす『地域公共交通の「リ・デザイン」(再構築)』を促進。その最前線を担う地方運輸局地方運輸支局の役割について、北陸信越運輸局石川運輸支局長の猿谷克幸さんに話を聞きました。
地方運輸支局とはどのような組織なのでしょうか。
国土交通省の地方支分部局である地方運輸局の下部組織のひとつで、「地域における公共交通、事業振興等の施策の推進」「自動車の安全確保に関する取組」「海事関係の安全確保に関する取組」などを行う行政機関です。各都道府県に設置されており、そのひとつである私たち石川運輸支局は、自動車の登録・検査などを中心に手掛ける金沢庁舎と、船舶の登録・検査などを中心に手掛ける七尾庁舎の2つの拠点を構え、石川県内の陸上・海上の交通・運輸に関する手続きなどを行っています。
金沢庁舎には本日も、登録や検査を行う自動車が集まっていますね。
そうですね。現在ここでは、自動車の登録手続きや車検に加え、地域公共交通の「リ・デザイン」に向けた企画立案調整や運送事業(旅客・貨物自動車運送事業)の許認可や監督・指導など、陸上の交通・運輸に関する業務を幅広く手掛けています。
特に力を入れて取り組んでいるテーマはどのようなことでしょうか。
様々なテーマに取り組んでいますが、やはり近年では、石川県内における地域公共交通の「リ・デザイン」(再構築)が非常に大きなテーマのひとつです。地域公共交通の「リ・デザイン」とは、官民共創・交通事業者間共創・他分野共創の「3つの共創」、自動運転やMaaS(マース:Mobility as a Service ※)といったデジタル技術を実装する「交通DX(デジタルトランスフォーメーション)」、車両電動化や再生エネルギーの地産地消といった「交通GX(グリーントランスフォーメーション)」を柱とした取組です。目的は、地域の関係者の連携と協働を通じて、地域公共交通の利便性・生産性・持続可能性を高めることにあります。石川県に限ったことではありませんが、現在、地域における鉄道・バス・タクシーといった公共交通は大変厳しい状況に置かれていますので、交通事業者だけではなく、地域の関係者が連携・協働(共創)し、地域ぐるみで支えていくことが重要だと言えるでしょう。
※バス、電車、タクシー、シェアサイクル等の複数の公共交通機関やそれ以外の移動サービスをITを用いて最適な形に組み合わせて提供するサービス。
その中で、運輸支局が果たす役割はどのようなものでしょうか。
地域における公共交通は、事業者に一任するのではなく、市や町を巻き込んで推進していくこと=「共創」していくことが大切です。持続性を見据えれば、必要不可欠な要素と言えるでしょう。運輸支局は、地域交通を取り巻く様々な関係者とコミュニケーションを重ねながら情報提供、共有を行うことで関係者同士をつなぎ、共創のための環境を整えるという役割を担っています。例えば、現在、石川県には19の自治体(市・町)がありますが、うち18の自治体では地域交通に関する会議体が設置されています。私たち石川運輸支局が、そういった会議に委員として参加する機会も多々あります。私たちが主導していくというよりは、自治体や地域の方々に先導していただき、行政機関としてどのような支援ができるかを考えていくことが運輸支局の役割だと捉えています。
石川県内では、地域公共交通の「リ・デザイン」としてどのような成功事例がありますか。
最近注目を集めているものとしては、金沢市や交通事業者が参画している『金沢MaaSコンソーシアム』のプロジェクトとして、デジタル交通サービス『のりまっし金沢』が運営されており、好評を博しているそうです。Webアプリを活用することで、従来は紙券のみで販売されてきたバスの『金沢市内1日フリー乗車券』や鉄道の『土日祝限定1日フリーエコきっぷ』といった乗車券をデジタル化し、チケットレス乗降が可能になりました。「いつでも(時間)・どこでも(場所)」キャッシュレスで購入でき、人数分の乗車券を一括購入して利用することもできますので、市民の方々や観光客の方々の反響も上々と聞いております。
デジタル技術を実装する「交通DX」の成功事例と言えそうですね。
はい。他にも、最近ではAIを活用したプロジェクトが複数実現しております。例えば、加賀市では以前より、電話予約により利用できる乗合タクシー「のりあい号」が運行しておりましたが、AIを活用したシステムの導入に伴いスマートフォンアプリでの予約が可能となりました。2024年8月には「時刻表」や「乗り継ぎ地点」が廃止され、自分の都合のいい時間に目的地まで乗り継ぎ不要で行けるようになりました。さらに、同市では2024年2月より自家用車を活用した「加賀市版ライドシェア」の運用もスタートしました。また、羽咋市では2021年より実証実験を行っていた乗合交通「のるまいかー」の本格運用を2024年7月より開始しました。予約に応じて、同じ方向に向かう人などがいる場合は、バスと同じように乗合でご利用いただける、タクシーとバスの中間のような交通機関です。
「交通GX」の事例もあるのでしょうか?
あります。例えば小松市では、2大交通拠点となる新幹線小松駅と小松空港の間をスムーズにつなぎ、「レール&フライト」の拡大による北陸エリアの交通結節点としての都市機能を高めるため、2024年3月9日より自動運転バスの路線バスとしての通年運行を開始しました。まちなかへの人流拡大や、快適・スムーズな移動の実現、将来的な運転手不足にも対応する効率化・省人化された交通インフラの確立をねらいとしており、持続可能な未来型の交通システムとして、地域全体の成長・発展に大きく寄与していくことが期待されています。現在は自動運転レベル2(アクセル、ブレーキ操作又はハンドル操作の両方が、部分的に自動化)ですが、2025年以降に自動運転レベル4(限定された領域での決められた条件下で、全ての運転操作を自動化。ドライバーの介在は必要なく、システムによる自律的な自動運転が可能)を導入すべく、引き続き実証実験が行われています。
その一方で廃止される鉄道やバス路線もあると思います。それにより生まれた交通空白地域の解消についてどう対応されているのでしょう?
市町村及びNPO法人等が主体となって、交通空白地において当該区域内の住民等の運送を行う『交通空白地有償運送』は、穴水町、能登町、輪島市、七尾市などで既に活用されています。バス、タクシー等が運行されていない過疎地域などにおいて、住民の日常生活における移動手段を確保するため、登録を受けた市町村やNPOなどが自家用車を用いて有償で運送できる『自家用有償旅客運送』が活用されているエリアもあります。
最後に、タクシーや公共ライドシェア等を地域住民や来訪者が使えない「交通空白」の解消に向けて早急に対応していくため、国土交通省では斉藤大臣の強い想いで「交通空白」解消本部を7月に立ち上げたそうですが、石川運輸支局はどのような対応をされているのでしょう?
地域住民や来訪者が満足に移動できない「交通空白」は、待ったなしの課題であり、その解消に向けて早急に取り組んでいかなければなりません。タクシーの金沢交通圏、南加賀交通圏では、ライドシェアによる取組が既に実施されております。一方で、新制度による取組が滞っている地域については、運輸支局から市町及びタクシー事業者に対しライドシェアに関する制度説明を行い、運用の検討をしていただいています。
また、石川県知事に対しては、令和6年能登半島地震の被災地における移動手段確保に向けさらなる連携、「交通空白」解消への協力を要請しました。デマンド交通実現に向け、ドライバーの確保、被災地支援者の足、観光の足の確保などの課題があることも共有できました。運輸支局としては、石川県をはじめとした管内自治体や地域の方々を支える立場として、「誰一人取り残されず、行きたいときに、行きたいところへ行くことができる社会」の実現のために官民連携で今後も尽力していきたいと思います。
※「交通空白」解消本部
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_tk_000237.html
※後編は10月8日(火)配信予定
前編