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トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.25鉄道×デザインのニューウェーブ

公開日:2021/1/19

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[ 前編 ]

デザインに統一感持たせ魅力アピール

相鉄ホールディングス株式会社経営戦略室第三統括担当部長山田 浩央

神奈川県発祥の相模鉄道を傘下に持つ相鉄ホールディングス株式会社が創立100周年を機に取り組んでいる「相鉄デザインブランドアッププロジェクト」は、人口減少が予想される沿線地域の未来を、デザインの視点から描く試みだ。同プロジェクトを担当する同社経営戦略室の山田浩央部長に話を聞いた。

相鉄デザインブランドアッププロジェクトを実施した背景は?

 相鉄沿線はベッドタウンとして新たに開発された市街地が多く、少子高齢化の進行にどう対処するかは極めて重大な課題です。沿線の横浜市の2015年の人口を100とすると、2030年には98.5、2040年には94.8、2045年には92.5にまで減少するという予測があります。15歳から64歳までの生産年齢人口も、2015年で238万人ですが、2040年には198万人にまで減ってしまいます。このまま何もしなければ、沿線のお客さまが減り、若年層の皆さまも少なくなってしまうという非常に強い危機感がありました。プロジェクトを始めた2013年当時には、都心への乗り入れ計画(2019年度にJR線、2022年度中に東急線との乗り入れ)が決まっていたので、この機会をとらえて、相鉄のイメージアップを図り、ブランド力を高めることで、若年層の皆さまに住み替えをアピールしようという狙いです。

若者にアピールするための工夫について教えてください。

 若年層の皆さまの好感度を上げるには、まず相鉄を知ってもらうことが不可欠です。都心で認知度を調査すると、「相鉄線のことをよく知っている」という人は11~12%に過ぎず、「相鉄線がどこを走っているかは知っている」という人を含めても4割程度でした。関東で最も認知度の高い私鉄である小田急電鉄は、「どこを走っているのか十分に知っている」「ある程度知っている」で69%を占めます。神奈川県民にとっては、運転免許センターの最寄駅である「二俣川駅」が相鉄沿線にあるので、馴染みのある方が多いですが、正直なところ、都心での認知度は低い。都心への乗り入れを機に、若年層の皆さまに存在を知ってもらうためには、今までの相鉄社内だけの取り組みではうまくいきません。デザインやブランドの専門家に助けていただこうと、「くまモン」の生みの親で、クリエイティブディレクターの水野学氏、空間プロデューサーの洪恒夫氏にタッグを組んでいただき、デザインの総合監修をお願いしました。コンセプトは「これまでの100年を礎に、これからの100年を創る」です。鉄道事業で重要な安全・安心をベースに、上質さやエレガントさを加えて、「普遍的で上質感のある」デザインに変えていこうという取り組みで、2013年に始まり、今も続いています。

具体的には、どうデザインを変えたのですか?

 お客さまや沿線にお住まいの皆さまのタッチポイントである駅舎や車両などのデザインをブランド戦略の観点から一新しました。重要なのは鉄道会社の「顔」でもある車両のデザインです。2018年にデビューした20000系車両は、同プロジェクトのコンセプトを反映した初の新型車両で、東京都心への乗り入れを見据え、これまでの通勤型車両にはない新しいデザインやアイデアが随所に採用されています。オリジナルのネイビーカラー「YOKOHAMA NAVYBLUE」で車体の色を統一していますが、深みのあるダークブルーの塗装は、横浜の街が刻んできた歴史をイメージしています。車体に表示するフォントは、ドイツの工業規格である「DIN 1451」をベースとしています。「DIN」ははっきりとした字体のラインで高速時の視認性が高く、ヨーロッパの道路標識やドイツ鉄道(DB)の車体標記等に用いられるフォントであり、シンプルかつ明確なラインを持つフォントです。車内の各掲示類のフォントも同じ思想で文面や字体配置のデザインを行っています。また、相模鉄道と相鉄バスの制服も2016年11月にリニューアルしました。横浜をイメージした濃紺は清潔感があり、流行に左右されることのない普遍性のある色。制服には軽量でストレッチ性にすぐれた素材を使用し、帽子には着帽した際の快適さを考えてメッシュ素材を使用しています。また、女性用の帽子は風の抵抗を考えて、帽子の周囲に丸くツバをデザインするなど、使いやすさにもこだわっています。

【20000系電車は2018年にグッドデザイン賞、2019年にローレル賞を受賞】

※相鉄ホールディングス提供

駅舎のリニューアルはどの程度進んでいますか?

 沿線の駅舎はそれぞれの改修のタイミングで少しずつデザインのリニューアルを図っています。現在、26駅中8駅がリニューアルを済ませました(2021年1月現在)。流行に左右されるデザインではなく、長い時間をかけて醸成し、利用される方々に愛される駅のデザインを目指していきます。レンガ、鉄、ガラスというキーマテリアルや、設定した色のガイドラインに沿わせながら計画を進めています。駅の内外に適用する色はグレーを設定しており、全体をグレートーンでまとめることで、キーマテリアルのレンガや駅で重要な案内サインなどの情報を目立たせる効果があります。一般的なベンチより一人あたりのスペースを広く設けることで、隣の方を気にせず一人でゆったり座ったり、誰もが心地よく座っていただけるベンチになりました。

【レンガ壁が象徴的な「羽沢横浜国大駅」の駅舎】

※相鉄ホールディングス提供

プロジェクトで最も大事にしていることは?

 ひと言でいうと、普遍性を持たせることです。そのためには、こだわりと統一感を大事にしています。旧相模鉄道の歴代の車両は、その当時の担当者の思い入れや、流行に左右され、リニューアルごとに毎回、色も形も変わっていました。駅舎についても、斬新なデザインの駅もあれば、古いデザインの駅もあり、統一感がありませんでした。これまでも、社内でこだわっていたつもりですが、お客さまの目に触れるひとつひとつの細部にまで、徹底してこだわっていかないと格好よく見えません。デザインガイドラインを徹底し、トイレのリニューアルやホテルのパンフレットの作成にまでこだわり、デザインを水野氏や洪氏に相談したうえで決めています。同業他社とは違うアプローチで、しかも、長く続けられるブランド力向上の取り組みを愚直に進めることで、社員の意識にも変化が出てきました。
※後編は1月22日(金)公開予定です。

プロフィール

やまだ・ひろひさ 1969年生まれ、神奈川県横浜市出身。2019年から、相鉄デザインブランドアッププロジェクトを担当する相鉄ホールディングス経営戦略室第三統括担当(人事施策担当兼務)部長。同プロジェクトは、相鉄線の車両、駅舎、制服、相鉄バスの制服、沿線の商業施設などグループ全体を対象として、デザインの力でブランド力の向上を図る取り組み。水野学、洪恒夫両氏をデザイン総合監修に2013年から展開され、現在も継続している。