トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.38

地図から読み解く時代の流れ

スマートフォンの普及などにより、地図の在り方が大きく変わりつつあります。目的地へのナビゲーションも一昔前は紙の地図帳頼りだったのに、今では目的地周辺のお店の情報までわかったり、バリアフリーのルートを探せたり。人流、気象など、さまざまな情報と掛け合わせられるサービスもあれば、アートとして地図を捉えてまったくの架空の街の地図を描くなど、地図の活用方法も楽しみ方もどんどん拡がっています。ここで紹介する地図に関わる方たちの話から、あなたも新しいビジネスのヒントが見つかるかもしれません。

Angle B

前編

地図は「行き方を調べるもの」から「行く場所を決めるもの」へ

公開日:2022/10/4

「Yahoo! MAP」

サービスマネージャー

水谷 真樹

かつてビジネスマンは小さな地図帳片手に街を歩き、ドライバーの傍らには分厚いロードマップがありました。しかし、いまそれらはスマートフォンの地図アプリやカーナビに進化しています。地図アプリでは海外大手のサービスなどが台頭する中、街頭看板を使った誘導など直観的なわかりやすさに配慮した「日本的ナビゲーション」により多くの利用者の支持を獲得しているのが「Yahoo! MAP」です。地図に関わるサービスや価値はこれまでどのような進化を遂げてきたのか、サービスマネージャーの水谷さんに聞きました。

今や「地図」といえば紙ではなく、スマートフォンをイメージするようになりました。

 私自身の就職活動時には、すでにスマートフォンで訪問先を探して行くのが当たり前となっていました。紙の地図は、子どもの頃に親が旅行先で地図を広げていたのを何となく記憶しているという程度です。
 紙からデジタルに進化したことで、大きく変わったことが2つあると個人的には思っています。1点目は自分の現在地がわかるようになったこと。現在地がわかると同時に、その周辺についても画面をスクロールすることで探索できるようになりました。2点目は情報の出し分けが可能になったことです。現在の地図アプリでは地図を自由に拡大縮小でき、その縮尺に応じて最適な情報を表示させることが可能です。例えば「雨雲レーダー」を見るなら関東全域で、「ラーメンマップ」なら住んでいる地域レベルでという使い分けができます。これが大きな変化だと思います。

単純に目的地を探すだけのツールではなくなってきた、ということでしょうか。

 従来の地図の場合、例えば店舗情報なら店名と住所ぐらいしかわからなかったのですが、ここ10年の進化で写真やユーザーの口コミなど、目的地を選ぶために必要な情報量がどんどん拡大しています。「Yahoo! MAP」でも「おすすめ居酒屋10選!」、旅行情報誌と提携した「地域のおすすめテーママップ」などのコンテンツがあり、ユーザーの選択の幅が広がっています。地図のスタイル自体も標準的なものから航空写真、路線図、交通状況、住所、「雨雲レーダー」、「混雑レーダー」などユーザーの目的に応じた表示が可能となっています。このように情報の出し分けが可能になり、膨大な情報量が地図上に整理・格納されたことで、ユーザーの地図の使い方も「決まった場所に行く方法を調べる」から「行く場所を決めるために使う」というふうに変わって来たと思います。

「Yahoo! MAP」のサービス自体は、どんな進化の過程を経てきましたか。

 もともとはアルプス社という地図サービスを提供していた会社を2008年にヤフーが吸収合併する形で地図の事業を立ち上げました。それまで地図をアナログで作成していたスタッフが、イラストレーターのようなアプリケーションを使って作成するようになり、開発陣のスキルセットの大きな変更が必要でした。当時は地図を画像化して貼り合わせただけで、現在地の追従や地図のスクロール、ズームなどの機能はありませんでした。一枚の画像の上下左右に端があるので、端のボタンを押すとその先の地図に切り替わるスタイルですね。ここから画像を無限にくっつけた状態にしたのが「ラスター地図」と呼ばれるソリューションで、現在地の追従やスクロールが可能になりました。さらに2013年には「ベクター地図」を採用し、それまで画像の切り替えで地図の拡大・縮小を行っていたのが、地図上の要素を動的に変化させてなめらかに拡大・縮小できるようになりました。この進化を経て、2017年には「Yahoo!地図」を本格リニューアル、スマートフォン向けの「Yahoo! MAP」としてサービスの提供を開始しました。

「Yahoo! MAP」を立ち上げた目的は何でしょうか。

 事業戦略上の大きな変化があります。それまで地図アプリは目的地にたどり着くためのツールでしたが、徐々に行きたい場所を探すために使われるシーンが増えてきました。これを踏まえ、私たちはユーザーの行動プロセスのより上流行程で当社のプロダクトを利用いただくことで差別化を図り、結果的に地図としての利用率やマインドシェアを高めたいと考えました。そこで構造面でも「Yahoo! MAP」上で記事やニュースが見られるよう機能追加を行いました。話題のお店、テレビで取り上げられたお店をマップで発見してもらい、ルート検索してそこに足を運んでもらう、という一貫したユーザー行動を提供できるようになったことが最も大きな進化です。

ここ数年では、コロナ禍や風水害の甚大化などの影響を受けて変化していらっしゃいますよね。

 コロナ禍で一変した行動様式、ニーズの変化への対応が必要でした。2020年からはいわゆる「三密回避」のための機能追加として「混雑レーダー」を再提供、駅や店舗などの混雑状況を可視化して密を避けたいというニーズにお応えしました。また、徐々にそうした環境に人々が慣れてくると、混雑状況の推移が確認できるようにして、過去のデータから混雑を予測できるような機能も追加しました。
 毎年繰り返される風水害への対応では、地図上に現在の降水量がわかる形で雨雲表示を行い、過去1時間の様子や6時間後までの予測も見られるようにしています。「雨雲通知」という形で通知も送っていますから、それをきっかけにアプリを起動されるユーザーも多くいます。
 この他、地域の防犯情報を集めた「防犯マップ」なども、通学路の防犯情報がわかって助かるという子育て世代からの支持をいただいています。

いち早く社会のニーズを捉えてサービスに反映させるため、ふだんから心がけていることは何ですか。

 Yahoo! JAPANの検索機能が、我々の最大のマーケティングツールの1つです。ユーザーの検索ワードの変化はもとより、「第2クエリ」と呼ばれるサブワードの変化にも注目しています。例えば「コロナワクチン 場所」のように、ワクチンの情報と同時にその場所についての関心が高いといった事実から、ユーザーが真に欲しい情報を深掘りするようにしています。その上で、そうしたニーズにきめ細かく応える機能提供をするように心がけています。また、ヤフー株式会社自体、現在約7000人の従業員がいますから、社内から発生するニーズもありますし、プロダクトに対して従業員がオープンにフィードバックできる場も設けているので、そこから新サービスが生まれることもあります。

この8月にはまた新しい機能が追加されましたね。

 飛行機を用いた長距離移動のルート検索がより容易にできる機能を追加した「フライトタブ」を提供開始しました。従来は飛行機でルート検索する場合、羽田経由と成田経由のどちらが早いかや、どの航空会社の料金が安いかなどの比較が難しい部分がありました。「フライトタブ」により①出発地から空港・空港到着後から目的地までのアクセスを踏まえたルート検索②各航空会社の料金などの比較③航空券+宿泊のダイナミックパッケージ購入へのサイト遷移などの機能が追加されました。これによって例えば「急な出張」という場合でもどういうルートで空港に行って、どの便で行くのが最適かを判断した上で、予約もできるようになりました。このように「Yahoo! MAP」では、終わりのない改善、機能追加を日々続けています。

「フライトタブ」機能の提供開始により「Yahoo! MAP」で現在地から目的地までの飛行機を使ったルートが検索可能に(国内線のみ)。さらに検索結果から複数の便を比較でき、「航空券+宿泊」のボタンをタップすると「Yahoo!トラベル」に遷移して宿泊施設と航空券を一緒に予約できる。
みずたに・まさき 2013年にヤフー入社。エンジニア、デザイナー、企画職などを経て、2020年より「Yahoo! MAP」のサービスマネージャーを務めている。
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