トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.37

航空機の道先案内人。空の安全を守る航空管制官

1日数千機の航空機が飛び交い、「過密」と言われて久しい日本の空。航空管制官は、地上からいわばその交通整理をし、パイロットと共に安全なフライトを実現する“空の番人”です。2022年7月放送開始のドラマ『NICE FLIGHT!』では、そんな航空管制官とパイロットの恋愛模様とともに、プロフェッショナリズムや仕事の醍醐味が描写されています。今回はドラマの視点を借りて航空管制官の仕事に迫るとともに、現職の方からよりリアルなお話についてうかがいます。

Angle C

後編

「航空管制官」のリアルな日常

公開日:2022/8/30

航空管制調査官
航空管制官

北角 信彦(前編)
岡田 崇太郎、梅原 菜帆(後編)

空の安全を守るために、管制塔の中から航空機に指示を出すという、責任重大な役割を担う航空管制官。高い集中力、判断力が求められるこの仕事に就いているのは、いったいどんな人たちなのでしょうか。東京空港事務所(以下、羽田空港)で飛行場管制業務を担う岡田崇太郎さん、梅原菜帆さんに、職場の雰囲気から仕事の醍醐味、休日の過ごし方まで、ありのままの姿を語ってもらいました。(写真:訓練用シミュレーター室にて撮影)

航空管制官を目指したきっかけを教えてください。

岡田:大学の「就職先一覧」を見て、初めて航空管制官という職業があることを知りました。「管制塔から航空機に指示を出す」という業務に、面白そうだと関心を持ったのがきっかけです。

梅原:小さい頃から空の仕事にあこがれを抱いていて、新卒では民間の航空会社に就職しました。管制官という職業を知ったのも航空会社時代です。転職を決めたのは、空に関わる仕事をもっといろいろ経験してみたくなったから。受験年齢に制限がありますが、私のような転職組も珍しくはありません。

女性の航空管制官はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。

梅原:羽田空港は約3分の1が女性です。航空保安大学校の私の同期は、ほぼ半分が女性でした。そこから羽田空港(タワー担当)に赴任したのは5人で、私を含めて2人が女性です。

職場の雰囲気はいかがですか。

岡田:普段は比較的和やかで和気あいあいとした雰囲気ですが、なにかイレギュラーな事態が起こったときは一気に空気が引き締まり、全員で解決のために動きます。
 上司部下の上下関係はありますが、それぞれが一人の管制官として対等に働いていて、お互いに尊重しあう人間関係ができています。また、「人は誰しもミスをするものである」という考え方が浸透しているため、小さなミスが大きなミスにつながらないようにお互いにフォローしあい、チームで協力して行動する風土が根付いています。

梅原:言葉をツールとする仕事ということもあって、よくしゃべる明るい方が多いと感じています。しかしながら扱っている仕事の責任は重いので、仕事のことはしっかりと意見を交わすことができる雰囲気です。

航空管制官という仕事に面白さを感じるのはどんなときですか。

梅原:航空機はその日の天候や風によって速度が左右されます。たとえば、到着機においては向風が強ければ速度は落ち、逆に、背風が強いと速度が上がるので、出発機を離陸させる時には到着機の速度を見ながら効率的に離着陸させることができるようタイミングを図ります。
 風向や風速は毎日違いますし、1日の中でも変化していきます。その中で安全で、かつ最も効率的な判断をするのは難しい反面、刻一刻と違う表情を見せる空港や航空機を扱うこの仕事をとても楽しいと感じます。

岡田:刻々と変化する状況の中で、パイロットと交信したり、情報を入力したり、いろいろなところに目を配りながら適切なプランをはじき出す。管制官の仕事には、パズルを解くような面白さがあると思います。
 また、飛行場管制業務は、他の業務と比べて時間的猶予がありません。「この到着機とこの到着機の間に何分あるから出発機を何機出せる」とか、「何秒あるから到着機を着陸させられる」とか、時間で捉えて考えがちで、1秒の重みを感じることが多い業務だと思います。航空機の中にはまさに1分1秒を争う救命や捜索救難のために飛び立つものもあり、自分の指示が誰かの命を左右しうる仕事であることにも強い使命感を覚えます。

航空管制官の判断に対し、パイロットからお礼を言われることはあるのでしょうか。

梅原:パイロットと交信する中で、こちらの指示の意図が伝わり、お互いの協力でベストな状況をつくりだせたときは、とてもうれしく思います。そんなときは、パイロットから「Thank you!」「Good day!」と言ってもらえます。「この仕事をやってよかった」と思える瞬間です。

岡田:確かに、パイロットからあいさつやお礼を言われるとうれしいですね。例えば、何かトラブルで急を要する航空機があった場合、管制官が各所と調整し、他の機体に道を空けてもらったりすることになります。その機体が駐機場に戻り、「ご協力ありがとうございました」と言われると、「がんばってよかったな」と思います。
 業務自体は大変なことも多いのですが、航空の安全確保を担っているという使命感を持てる点がやりがいにつながっています。

羽田空港は24時間運用されていますが、勤務形態やワークライフバランスはどうなっているのでしょう。

岡田:羽田空港の場合、6つのチームに分かれて勤務しており、基本的には早番、早番、遅番、夜勤入り夜勤明け、公休日というサイクルを一つの基本パターンとして、それを繰り返す勤務をしています。交代制勤務なので、仕事とプライベートの両立がしやすい職場だと思います。私は休日に美術館や展覧会へ足を運ぶことが多いのですが、この仕事は平日が休みになることも多く、比較的すいているときに出かけられるのがありがたいです。

梅原:国家公務員なので休暇制度なども整っていて、育児や介護をしながらでも仕事を続けやすい環境だと思います。実際、育児休業は性別に関わりなく、皆さん取得されています。有給休暇も、1日単位ではなく1時間単位で取得できる点も便利です。
 私は、休日はジムに行って運動をしたり、庭に花を植えてガーデニングを楽しんだりしています。仕事の時は非常に集中して神経を使う分、休日は仕事のことは何も考えず、まったく別のことをして過ごすことが多いです。

TVドラマ『NICE FLIGHT!』の制作に航空局の皆さんも協力されたとか。航空管制官が登場するドラマや映画を観ていると、つい気になってしまう点はありますか。

岡田:ドラマで起こる緊急事態は、可能性としては限りなく低いと思います。でも、まったくゼロというわけではないので、つい「自分ならどう対処するか」を考えてしまいますね。事前に検討しているのと検討していないのとでは万一の時の対処が違ってきますから、ケーススタディ感覚で見てしまいます。

梅原:どのドラマでも、とてもすてきな俳優さんたちが管制官を演じていらっしゃるので、視聴者には「管制官ってこういう人たちなんだ」というイメージが浸透しているのではないでしょうか。そのイメージを損なわないように、気を引き締めて努力を続けなければならないと思います。

ドラマのように、パイロットや飛行場で働く他の皆さんと交流する機会はあるのですか。

梅原:羽田空港では、コロナ前はよく意見交換会が開催されていました。お互いに考えていることを話すことで「なるほど」となることも多く、とても有意義な時間でした。

岡田:管制官には、航空機の操縦室に入らせてもらい、目的地に着くまでの間、パイロットの仕事を後ろから見学させてもらう「搭乗訓練」という機会があります。実際に体験してみると、管制塔から見るのとコックピットから見るのとでは、同じ空港でも見え方が全然違うことに改めて気づかされました。管制塔からはよく見えているので「パイロットも当然わかっているだろう」と思いがちですが、コックピットからは見えなかったりするのです。搭乗訓練によって、相手の立場に立った管制を意識するようになりました。

最後に、『Grasp』の読者に向けてメッセージをお願いします。

岡田:管制官という職業やその仕事内容については、まだ知られていない部分も多いかもしれません。ドラマやこの記事を通じて皆さんにもっと私たちのことを知っていただけたらうれしく思います。

梅原:管制官は、空の安全を支える大変やりがいのある仕事です。「もっともっと安全に、もっともっと効率的に」の精神でどこまでも上を目指せる仕事であり、一生学び続けることのできる仕事です。ぜひ、多くの方に管制官という職業に興味を持っていただきたく思うとともに、管制官を目指す方が増えることを願っています。

 「航空管制官」というと、レーダー類を見ながらパイロットと交信する姿をイメージする人が多いのではないでしょうか。航空管制官をヒロインとするドラマ『NICE FLIGHT!』の放送を機に、航空管制官の業務内容をさらに詳しく紹介できればと、今回の「トリ・アングルINTERVIEW」のテーマとしました。
 『NICE FLIGHT!』を企画された神田エミイ亜希子さん、ヒロイン役の中村アンさん、監督の宝来忠昭さんの言葉からは自分自身の仕事へのプライドとともに、「航空管制官」をはじめ他者の仕事に対するリスペクトを強く感じました。現役の管制官である北角信彦さん、岡田崇太郎さん、梅原菜帆さんからは、想像以上に責任重大で、だからこそ誇るに足る航空管制官の業務内容について知ることができました。この記事を読んだ方が、空港に行ったときにふと、そこでがんばる彼らのことを思い出してくださったら嬉しいです。
 次号のテーマは「地図」。今やデジタルが当たり前になった地図の変遷や、未来の地図の在り方について迫ります。(Grasp編集部)

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