トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.29

ロボットの目に映る「物流の未来」

コロナ禍でステイホームの時間が増え、ネットショッピングなどの電子商取引が急激に拡大したことで、物流の需要過多や人手不足に拍車がかかっている。新型コロナウイルスの感染拡大防止や、頻発する自然災害への対応を視野に入れた物流の改善施策としてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が急務だ。サプライチェーンの中核を担う物流業界はどう対応し、変化していくのか、ドローン、ロボット配送など消費者にも身近な最新動向を通じて読み解く。

Angle C

後編

インターネットのような物流に

公開日:2021/5/28

敬愛大学

経済学部経済学科教授

根本 敏則

コロナ禍を物流業界が変革する好機ととらえる敬愛大学の根本敏則教授。これまでゼロ・サムの関係だった荷主と物流業界が連携して業務をデジタル化することで「Win-Win」の関係になると主張。さらに物流がインターネットのように効率化され、10年以内にトラックの完全自動運転化も可能だと物流の近未来を予想する。

荷主と配送業界との連携における課題はどこにあるでしょうか?

 これまで、荷主は「運賃はできるだけ安いほうがいい」、物流業者は「できるだけ高いほうがいい」という意味において荷主と物流業者は敵対関係、すなわち「相手の得した分だけ自分の損」というゼロ・サムの関係でした。この関係は、貨物の量・貨物のそれぞれの輸送方法が決まっていれば変えにくいかもしれません。
 しかし、輸送方法を変えることはできないのでしょうか。例えば、物流業者が複数の荷主の協力を得て、集荷や配達の希望時間を調整しながら貨物を積み合わせ、共同配送が実現できれば、輸送費用の大幅削減が可能となり、その費用削減分は物流業者と荷主が折半できます。
 現在は夕方の集荷・午前中の配達が一般的ですが、中には時間指定にこだわりのない荷主も存在するので、集荷と配達の時間をうまく平準化できれば、輸送は効率的になります。もちろん、荷主が中心となって共同配送を推進することも考えられます。このように物流業者と荷主が「ゼロ・サム」から「Win-Win」の関係になることもできるのです。
 これまで、日本の物流業者は荷主の細かいニーズに合わせるオーダーメード型物流システムを構築してきました。そして作りこんだ仕組みの中で、荷主は「いつもの方法でよろしく」と依頼し、物流業者は阿吽(あうん)の呼吸で、その要望をくみ取り業務をこなしてきました。物流業者も特定の荷主に食い込んでいる限り仕事は続けられるということで、荷主も物流業者も手間のかかる改革はできるだけ避けてきました。これでは「Win-Win」ではなく、「Lose―Lose」になってしまいます。
 現在、多くの荷主や物流業者は業務をデジタル化して、汎用的な最適化ツールで物流効率化を推進しています。いつまでもアナログ式の仕事をしている荷主・物流業者は同業他社との競争に敗れます。今後、サプライチェーンはいまよりも流動的になり、ビジネスのパートナーは変わります。そこに参加する荷主、物流業者はともに不特定多数の荷主・物流業者と自由に取り引きできるように業務をデジタル化しなければならないと思います。

過疎地域であっても配送の継続化が可能でしょうか?

 先日、長野県の中山間地域に調査に行く機会がありました。山中に10軒単位ごとに集落が点在する物流の維持が難しい地域です。しかし、そんな地域でも郵便や宅配、生協、灯油などのトラックが別々に配送を行っていました。ただ、新聞配送だけは村営バスが代行してバス停まで集落分の新聞を配達し、その後はそれぞれ集落の人がバス停まで取りに来るという貨客混載の仕組みができていました。灯油や薬など輸送上の法規制がある場合も多いのですが、共同配送のシステムができれば物流の維持も可能であると思います。

【各地で乗客と宅配便の荷物を同一の鉄道車両で輸送する「貨客混載」の導入が進む】

※産経新聞社提供

根本教授が思い描く近未来の物流とはどのようなものでしょうか?

 インターネットでは情報をパケット化(小包化)し、空いている回線を探して効率的に情報を送っています。同じように、モノも小さな標準容器(πコンテナ)に格納し、その時点で空いている輸送手段・輸送ルートを探して、それらを駆使して効率的に輸送する構想をフィジカル・インターネットと呼んでいる。輸送手段としては自動運転のトラック、鉄道、船舶、ドローンが考えられますが、インターネットのルーターに相当する物流センターではロボットがπコンテナを仕分けし、それぞれの輸送手段に適したモジュールに組み立てます。
 SF小説のようでもありますが、すでに物流倉庫のピッキングロボット、梱包ロボット、宅配業者の自動仕分けなど一部は現実化しています。さらに、需要サイドに関しては、家庭の冷蔵庫内のセンサーによる自動発注なども実装され始めています。10年以内にトラックの完全自動運転も実現されると思いますよ。

【課題山積の物流業界に革新をもたらすフィジカルインターネット】

読者へのメッセージをお願いします。

 60代の私から言いたいことはひとつだけ。「若いうちは失うものは何もない。チャレンジしてほしい。」挑戦しなければ何も始まらない。当たって砕けてもいいじゃないですか。いくらでもやり直すことができます。世間の常識や慣習にとらわれず、失敗を恐れず、どんどんと挑戦してほしい。それが日本の原動力となるはずです。(了)

無人宅配ロボなどを展開するZMPの谷口恒社長は、「愛されるロボット」の活用が物流をはじめとした社会課題を解決すると指摘。同時に「人間とロボットは共存できる」と強調した。ドローン特化型ベンチャーファンド「DRONE FUND(ドローンファンド)」創業者の千葉功太郎さんは、ドローンを活用したエアモビリティによって、物流が抱える課題は解決できるとしたうえで、「ドローン物流は100%実現する未来」と語った。敬愛大学の根本敏則教授は、コロナ禍は「デジタル化など改革に向けたチャンス」だと指摘。近未来像として、「パケット化されたデータを空いている回線に送るインターネットのような物流」を提唱した。
 次号のテーマは「EVで変わる暮らし」。脱炭素に向けた取り組みが加速するなか、EVには異業種からの参入も相次いでいる。日本の自動車産業は勝ち残ることができるのか。また、自動化、コネクテッド、シャアリングといった分野の技術革新が進むことで、私たちの暮らしや社会はどう変わるのかを識者に話を聞く。
(Grasp編集部)

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