トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.29

ロボットの目に映る「物流の未来」

コロナ禍でステイホームの時間が増え、ネットショッピングなどの電子商取引が急激に拡大したことで、物流の需要過多や人手不足に拍車がかかっている。新型コロナウイルスの感染拡大防止や、頻発する自然災害への対応を視野に入れた物流の改善施策としてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が急務だ。サプライチェーンの中核を担う物流業界はどう対応し、変化していくのか、ドローン、ロボット配送など消費者にも身近な最新動向を通じて読み解く。

Angle B

後編

ドローン物流は100%実現する!

公開日:2021/5/21

DRONE FUND

創業者/代表パートナー

千葉 功太郎

ドローンによる物流の課題解決の取り組みが進んでいる。その具体的な取り組みを企業への投資という形で推進するのがドローン特化型ベンチャーキャピタルの「DRONE FUND(ドローンファンド」(東京)だ。創業者で、代表パートナーを務める個人投資家の千葉功太郎さんは、自家用機の操縦士として操縦桿(そうじゅうかん)も握る。そんな千葉さんは「誰でも空の利便性を感じられるようにしたい」と語り、「ドローン物流」の実現を確信している。

「DRONE FUND」はドローン・エアモビリティ前提社会を作るため幅広い領域のそれぞれにバランスよく投資をする方針と伺いました。

 たとえば株式会社エアロネクスト(東京)という企業は、山梨県小菅村で、セイノーホールディングス株式会社(岐阜県)やANAホールディングス(東京)とタイアップをして取り組んでいます。やっていることは中山間部で年間を通じて運送をし続けることです。空の物流のプロ、地上の物流のプロと一緒に小菅村で徹底的に生活にドローン物流を溶け込ませるためのデータ収集をしています。PoC(概念実証)として2、3日、試してみた、という話ではなく継続的な取り組みです。今年1月には現地でドローン物流専門の子会社も設立しました。エアロネクストはドローンが飛行しても、荷室が傾かないよう重心を制御する「4DGravity」という技術を持っていて、ANAとはこれを生かした物流専用機の開発も進めています。これはたとえば荷崩れしそうなお弁当を運んでも、到着先でくずれないまま受け取れるような、利用者の満足を第一に考えた物流の確立を目指しています。
 継続的に取り組んでいるという意味では、自動飛行の技術を開発した株式会社自律制御システム研究所(ACSL、東京)という投資先が日本郵便株式会社(東京)と一緒に郵便物の中間配達を定期運航として実施しています。また、産業用ドローンメーカーの株式会社プロドローン(愛知県)も三重県と医薬品の配送などの取り組みを進めています。三重県一帯は港湾、離島が多いので海を越える移動の利便性を知れます。たとえば陸路なら伊勢湾を迂回しないといけない伊勢(三重)と蒲郡(愛知)の間もドローンなら直線で行けます。いまご紹介した取り組みはいずれも定期路線を作るのがキーワードです。できれば毎日、しかも複数回飛ばす。それによって春夏秋冬すべての気候、気象条件でA地点とB地点の間の安定飛行が可能かどうかわかる。ドローンは雨や風に弱い側面があります。取り組みを続けることで年間、何日飛ばせるのかといった期待値が出てきます。小菅村では地上のトラックとドローンとを組み合わせて、どの天候ならトラックを使うべきなのか、どの天候ならドローンだけで済むのかといったデータをとっています。物流ですから天候がどうであれ、届けるべきものは届ける。その手段にドローンという選択肢を持たせて、課題を解決し、便利にしていこうと取り組んでいます。

運ぶモノとして医療用医薬品をドローンで配送する取り組みを見かけるようになりました。

 遠隔診療の一環ですね。昨年11月にANAが長崎県五島市の福江島で、嵯峨島との間をドローンで医療用医薬品を運びました。研究機関や通信大手など関係機関が幅広く参加しました。「DRONE FUND」の投資先からも風況を測定する装置を作っているメトロウェザー株式会社(東京)が参加しました。この時、使ったドローンはACSLの機体です。島の医療課題を解決するのに物流要素は欠かせないと実感しました。ちなみに、私はハワイに住んでいるのですが、ハワイも島なんです。
 島なので、遠隔医療が徐々に普及してきました。ビデオ会議を通じて医師と患者とが「ちょっと熱があるんですけど」などと相談ができます。さらに薬を入手しないといけない。そこで中心街の真ん中に宅配ボックスのような設備を作って、そこに薬を置く仕組みができました。24時間開いていて、処方を受けた人はそこまでクルマで出掛けて、QRコードをかざせばボックスのロッカーがパカっと開いて、自分用の薬セットが受け取れます。
 ですが、その宅配ボックスまでは車で取りに行かなくちゃいけない。具合が悪くても。いい取り組みなのですが、十分に満足とまではいかない。そこで現在、ドローン配送が話題になっています。自宅までドローンで届けてもらえるとなれば格段に便利になります。
 しかも便利になるのは離島や山間部に限りません。たとえば住宅地でもクルマで20分走る買い物って当たり前にありますよね。それもドローンを使えばもっと便利になります。理由は、今の物流が道路に制約を受けるからです。空は違います。空いています。直線で動けます。だから時間通りに着きます。時速200kmで移動すれば1時間後には200km先に必ず着きます。 

便利なドローン物流は実現しますか?

 ドローン物流は100%実現する未来です。そこは間違いない。残っているのは皆さんのお手元にその未来がいつ来るか。現時点で実現に有利なのは山間部などの地方、我々が言うDID(人口集中地区)外の地域です。都心部はどうか。ドローンのレベル4(有人地帯における補助者なし目視外飛行)が来年度にも解禁される方向ですが、それによって都市部にもその未来が来る現実味が出てきました。ドローン物流は地方での活用として議論されることが多いのですが、私はビジネスとして、都市部で活用する方がインパクトとして大きいと思っています。このイラストを見てください。

【DRONE FUNDが構想する近未来の次世代配送システムのイラスト】

※DRONE FUND提供

マンションでドローンが飛んでいます。

 マンションでの宅配にドローンを使う未来をイラストにしました。マンションにはすでに宅配ボックスがあるし、配送スタッフの手段として台車もあります。スタッフが荷物を台車に載せてエレベーターで出掛けて各戸に届けています。ペインポイント(悩みの種)は手間と時間です。現状はスタッフが各階ごとに次々とピンポンして、不在のお宅には不在配達票をポスティングして、その階が終わったらエレベーターに乗って次の階にいく。そのマンションが200戸の大規模マンションだったら一体どれだけ時間がかかるのか。3時間かかってもおかしくない。一方ドローンを使うとイラストのようになります。マンション前に止めたトラックから荷物を積んだドローンが飛んで、お宅のベランダに届けにいきます。ベランダには荷物を受け取るトレーが伸びる仕組みがあって、そこにドローンが荷物を置きます。スタッフはどこにいるかというとトラックの中です。トラックは荷台の上1/5ぐらいの部分が離発着のためのドローンポートになっています。その下が荷物室です。左側には荷物用のエレベーターがあります。スタッフが「301号室の千葉さん」と話すと、千葉さんあての荷物が持ち上がってきて、上でドローンに乗せる。荷物が格納されたらドローンが301号室に届けに行き、終わったら戻ってきて、次の荷物を積んで届けに行きます。たとえば5~6機のドローンが荷物を積んで、1回20秒ぐらいで配達して戻ってくるイメージです。集荷もできます。
 出掛けて戻ってくるだけですから、遠くまで飛べる必要はありません。宅配便の荷物が一つ運べればいいので10㎏を超えるような重いものを運ぶ必要もない。ドローンは疲れないし文句も言わないから、荷物の件数を往復すればいいので、長時間飛べる必要もありません。規格に外れた荷物についてだけ特殊なドローンや別の方法で運べばいい。イラストで説明しているドローンとして特徴的なことは、2機で1セットの親子ドローンということです。親子がくっついた状態で飛んで行って、荷物を積んだ子ドローンが切り離されて、届けにいきます。親子はひもでつながっています。これはビル風対策です。親ドローンはビル風の影響を受けないように建物から離れて待機して、子供ドローンだけが届けにいきます。高層マンションを想定した宅配専用ドローンです。
 私は「便利さ」がすべてだと思っています。どれだけ多くの方が便利だと思うかがドローンの社会受容性を左右します。社会受容性が高まることでドローンの利用が普及します。かつてスマホなしで当たり前に生活していた人も、今やスマホを手放せない場面が増えています。便利だからです。お財布にお金を入れて買い物にいくのが当たり前でしたけど、スマホ決済に切り替わっています。便利だからです。
 私はCtoC(消費者間)物流が増えると思っています。例えば、お弁当を忘れた子供にドローンで届けるような、日常の物流です。今はお母さんやお父さんが出勤の途中に学校に立ち寄って届けたりしていますが、格安の追加料金でドローンが運んでくれれば、家族内物流、友達間物流の用途が増えるとみています。「メルカリ」のような消費者間で売買できるフリマアプリにも使えます。落札したものをすぐに欲しいときに、追加料金のドローン便を選べば落札者まで届けてくれる。出荷も決済もできることになると思います。

千葉さんはご自身が自家用機の操縦士です。空を利用して分かったこととは?

 日常的に空を飛ぶようになってドローン物流が必ず来る未来であることを確信しました。空は空いています。移動は直線です。渋滞も迂回も必要ない。あまりにシンプルかもしれないですけれど、それが実感です。一度知ってしまってから、飛行機は手放せない。多くの人は空の利用というとエアラインを想像します。決まった時間に飛ぶ路線の利用で、ハブアンドスポークの路線のどれかを選ぶ。広いターミナルをかなり歩くし、国内便だと30分前には空港にいなくてはいけないですね。時期によっては長い行列に並ぶ。それが空の利用だと思っているかもしれないですが、違います。自家用機だとそれがない。空港について5分後には離陸できます。空の利用イコールエアラインの利用ではありません。エアラインも大切ですが、もっと自由な空の利用方法がある。一部の富裕層しか使えない方法と思われがちですが、私がやろうとしていることは、ドローンやエアモビリティを使って、誰でも空を物流や移動に使える社会を作ることです。そのためには価格も重要です。格安で提供できる仕組みを作りたい。一方で物流コストの価値の見直しも必要です。15分後に届くとか、24時間いつでも届くといった価値に対価を支払うことを定着させたい。そのために、多くの人が思っている以上に空の利用が便利であることを伝えていきます。物流という言葉も特定のサービスをイメージされがちですが、空の利用が定着することで変わっていくと思っています。

【航空パイロットライセンスを有する千葉さんは日常的に自家用機で移動する。小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」の国内での顧客第1号としても話題になった】

最後に読者へメッセージをお願いします。

 繰り返しになりますが、空は空いています。そして空は直線です。多くのみなさまがまだ触れていない「便利さ」が、空にはあります。その便利さは地上での想像をはるかに超えます。その便利さを誰もが使え、日常生活の当たり前となる未来社会が、DRONE FUNDが目指す「ドローン・エアモビリティ前提社会」です。私はそれを作ろうとしています。みなさまにもこの取り組みを応援して頂けましたら大変心強いですし、大きな力になります。便利な未来社会をつくる取り組みを加速させて参りますのでよろしくお願いします。(了)

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