トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.39

デジタルは日本の救世主足り得るか?

コロナ禍以降、日本でも急速に進み始めたデジタル化。今やキャッシュレスオンリーの店舗もあり、テレワークが基本の企業も続々と増えています。こうした流れを受け、国土づくりの指針となる新たな国土形成計画の検討を進めており、今年7月に公表した中間とりまとめでは、東京一極集中の是正や地方から全国へのボトムアップの成長に向け、「デジタルの徹底活用」を挙げています。とはいえ、具体的にどう活用すれば良いのか、悩んでいる人も少なくないはず。そこで、一足早くさまざまな課題にデジタルを用いて取り組んでいる方たちにお話をうかがいました。

Angle B

後編

災害情報の一元化・可視化で早期対応を可能に

公開日:2022/11/18

高松市役所

都市OS※を用いた災害対応にも積極的に取り組んでいる高松市。水位観測所に設置した水位・潮位センサーとカメラでリアルタイムに状況を把握し、各種の防災情報とあわせて地図上に一元化・可視化する仕組みなどで早期の対応を目指しています。ここでは、そうした防災分野での先進的な取組を中心に話をうかがいました。
 ※スマートシティにおいて防災、医療、物流などのサービスを提供するための基盤。

<写真向かって左から>
中川 瑛(総務局 デジタル推進部長)
金川 邦広(総務局 デジタル推進部 デジタル戦略課長)
伊賀 大介(都市整備局 都市計画課主幹 兼 都市整備局 都市計画課 デジタル社会基盤整備室長)

都市OSを活用した災害対応に取り組まれた経緯を教えてください。

中川:高松市は大規模な自然災害があまり起きない地域と言われますが、それは市職員の災害対応の経験が少ないことも意味します。本市の中心街は海から近く、いくつかの条件が重なれば高潮や洪水などの水害が起こる恐れもあります。そのため、「スマートシティたかまつ」では、施策の一つとしてICTを活用した災害対応に取り組んでいます。

具体的には、どのようなことをされているのでしょうか。

中川:高松市内13カ所の水位観測所に水位・潮位センサーを配置してリアルタイムに、都市OS上にデータを収集している他、香川県が「かがわ防災Webポータル」で公開している水位・潮位といった防災情報や、土砂災害危険区域図をはじめとした地図情報も連携して分析しています。また、避難所にはスマートメーターを置き、施設の通電情報から避難所の開設可否などが判断できるようになっています。さらに、ダッシュボード※をネットワーク上に設け、必要に応じて各種データを一元化・可視化できるようにするなど、市職員が早期の災害対応を適切に行える環境を整えました。
 ※IoT共通プラットフォーム上に集めたさまざまなデータを一元的に表示するもの。

金川:災害時には本市は水防本部を設置し、大画面に映したダッシュボードを集まった職員が確認しながら対応を進めます。水位・潮位センサーに付けたカメラからの映像も都市OSと連携しているため、本部で現地のリアルタイムの映像を見られるのは大きなメリットです。これまでは、降雨量から各地の状況を推測し、河川から水があふれそうなタイミングで職員を現地に派遣してカメラで状況を撮影するやり方でしたから、状況把握の早さや職員の安全確保などの面がかなり改善されました。

高松市の水防本部の様子。正面は各種データを一元化・可視化できるダッシュボード。

それらの防災情報は、市民も閲覧できるのですか。

中川:防災情報のうち、市民にも有用な情報については、本市サイトに設けた「オープンデータたかまつ」のダッシュボードで一般公開しています。そのため、市民の皆さんにも地図上から水位・潮位の状況、避難所の開設状況などを確認し、避難に役立てていただくことができます。実際、台風の時などはアクセスが増加しますから、市民の皆さんの活用も進んでいると考えられます。

金川:「オープンデータたかまつ」では災害情報以外にも、市民向けに多様な情報を提供しています。ダッシュボードの地図上には、教育・子育て関連の施設や保健・医療・福祉施設なども表示でき、複数分野のデータを組み合わせた表示も可能です。このほか人口に関連する各種統計情報のグラフ表示もできます。こうした情報の集約と管理にも都市OSを活用しています。

防災では、近隣の自治体との協力も重要になりますね。

伊賀:本市の都市OSを、隣接する綾川町、観音寺市が共同利用する連携協定を2020年に締結し、防災分野での活用を進めています。現在は高松市、綾川町、観音寺市の各自治体で収集した水位・潮位データ、気象や道路の通行実績情報などを、都市OS上に一元的に表示できるようになっています。
 また、防災分野以外でも、近隣の自治体との連携が進んでいます。瀬戸・高松広域連携中枢都市圏という本市を含む3市5町の連携においては、バタクスのような取組を含めた地域公共交通計画や都市移転計画での技術協力が始まっています。

防災情報の充実を図る上で、現在の課題は何でしょう。

金川:現在、本市が防災分野で使用する地図には二次元の情報しかなく、災害対応を考えると高低差や地盤の強弱などの情報も必要と考えています。水は高いところから低いところに流れますし、地盤によって浸水による被害は異なります。本市でも地域別、洪水・高潮・土砂災害・ため池といった災害種別にハザードマップを作成していますが、災害の状況は刻々と変化します。都市OSで連携した地図に高低差や地盤の情報を加え、水位・潮位などのリアルタイム情報を組み合わせることで、より適切な災害対応が可能になります。

伊賀:金川が言うような地図情報は、都市OSの活用に向けた民間との協業でも重要になるでしょう。ただ、新たに情報を収集するコストと手間は避けたいため、すでに本市の各部署で作成している地図の利用を検討しています。法令、条例などで自治体に作成が義務づけられた地図は、都市計画図、道路台帳図、下水道台帳図、水道施設台帳図、住居表示台帳など多岐にわたります。これらをデジタル化して都市OSと連携できれば、民間によるデータ利用も進み、民間からの多様なデータ提供にもつながると考えています。

高松市のように都市OSをうまく活用するポイントを教えてください。

伊賀:意外かもしれませんが、無理に都市OSを使おうとしないことが、うまく使っていくポイントだと思います。連携するデータの対象を広げ、多様なデータを都市OS上に取り込んでサーバー的に使おうとすると、コストがかさんで運用にも支障が出てきます。データは外部に置き、必要なときに取りにいく方法もありますし、本当に都市OSが必要な業務に集中して利用することも重要です。また、民間事業者が都市OS上のデータに自由にアクセスできる点も長く使われるポイントのひとつでしょう。

金川:民間のクラウドサービスの方が安価で高性能という場合もあります。そのため、本市では自治体の都市OSでないと難しい防災分野から着手し、データ連携やサービス提供を進めてきました。規模の差はあっても、台風などの自然災害は毎年起こりますから、防災情報は職員も市民も継続して活用するサービスになっていると思います。

伊賀:最近はデジタル人材の不足が言われていますが、私自身はデジタルアーキテクトの視点だけでは不十分で、フィジカルアーキテクト、現実の社会をどうデザインするかという視点が必要と考えています。都市OSにしても、デジタル化は手段に過ぎず、今後の課題解決に向けて社会構造を無理なく変えていく制度設計を行うことが重要になります。

「スマートシティたかまつ」により、今後、市民生活はどう変わると思われますか。

中川:スマートシティが実現する未来の高松市の姿を、本市は「フリーアドレスシティたかまつ(FACT)」と表現しています。これは、デジタル技術で人々を時間や場所の制約から解放し、人間らしく生活するために必要な出会いや交流を生みだす街のことです。
 新たな交通モードの創出を目指すバタクスも「FACT」の重要な取組のひとつです。ほかにも、天候やその日の気分にあわせて移動手段を提案するアプリ「コンシェルジュ for モビリティ」、離島の環境を活用して子どもたちに学びの場を提供する「せとうちちょいスクール」などさまざまなサービスの実現を目指しています。今後も本市では、デジタルをツールに、市民の生活をより良く、豊かにできるような新たな取組に挑戦し続けます。

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