トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.1
テクノロジーは過疎を救うのか?
東京一極集中と過疎問題。地方都市が消滅するとも言われる。他方、自動運転車が過疎地域の人々を運ぶ足となり、ECで何でも注文でき、無人ドローンが荷物を運ぶ。5G普及で遠隔地勤務も容易になり、様々な働き方が生まれる。再生エネルギーにとって代わり、大量生産の優位性が薄れ、非中央集約型の分散型経済に。Society5.0において本当に地方は消滅するのか、逆に地方へ人口が回帰する、そんな可能性はないか。テクノロジーの可能性から、「過疎」を再定義していく。
後編
2020年、離島に荷物を届けるカモメの旅
公開日:2018/11/30
株式会社かもめや
代表取締役社長
小野 正人
後編
日本は人口減少時代に入るともに、都市への人口集中の流れの中で、過疎化は全国各地へ広がっている。過疎による大きな問題はライフラインの断絶だ。香川県高松市のベンチャー企業かもめやは、瀬戸内海の離島で2020年に無人物流システムの一部実用化を目指す。このスピードは大手企業にひけを取らない。代表取締役社長の小野正人氏に、離島のリアルと未来を聞いた。
2020年の瀬戸内海の離島での無人物流の実用化に向けて、具体的な計画を教えてください。
「ヘルスケア関係では、2018年秋-冬にメロディ・インターナショナル(高松市)などと共同で、医薬品をドローンで運ぶ実証実験を始めます。島に住む人がタブレット端末を使って診察を受け、電子処方箋を発行して、医薬品を輸送します。香川県は遠隔医療システムを活用する特区のため、こうしたことを始めやすいです。一方、ドローンが医薬品を島に運んだ後、空のドローンが市街地に帰ってくるのはもったいない。島の診療所で採血検体などを帰りのドローンに載せ、輸送コストを下げることも考えていきます」
過疎地域では買い物に困っている高齢者も多いと聞きます。
「今冬から離島で買い物支援の実験を始めます。押すだけでコールセンターのオペレーターにつながるボタンを家庭に置きます。高齢者がボタンを押すと、オペレーターが『買い物ですか?』『診察ですか?』などと用件を聞き、買い物の注文を聞いたり、医師に回線をつないだりします。大手のEコマースは、注文にタブレット端末を使うことが多いですが、高齢者には使い方を覚えるのが大変です。使い方を覚える前に諦めてしまいます」
大手Eコマースとは、どんな関係になるのでしょうか。
「大手Eコマースは離島に商品を売りたいと思っているため、一緒にやっていきます。かもめやは物流に必要な運行管理システムのプロバイダーの位置づけです。スマートフォンのアプリで簡単に操作できるものを考えています。これをEコマースが自社でやる必要はありません。物流はロボットに最適な業務です。島の人が我慢している生菓子や好きな銘柄のたばこ、生鮮食品も届けていきたいですね」
【テックは空気のように】
新しいテクノロジーをどんどん取り入れたい人もいれば、そうでない人もいます。高齢者はなおさらです。テクノロジーと人が良い関係をつくるには、何が必要でしょうか。
「テックは、空気のように使えることが大事です。かもめやの無人物流システムは、スマートフォンのアプリケーションのボタンを押すだけでドローンを飛ばせるなど、ユーザーエクスペリエンス(UX)に力を入れます。買い物支援のために高齢者の家に置く機器を、シンプルなボタン操作のみにするのもこのためです」
「また、それぞれの島の事情を知ることが重要です。陸・海・空のどの手段を組み合わせると良いかは、島によって違います。当社の場合、協力者の『かもめーず』のメンバーが島を一つずつ回り、ドローンの離着陸場所や荷物の集配所はどこがいいかなど、調べてくれています。本年度中に瀬戸内海の9割の島を回り終える予定です」
男木島や伊吹島でドローンの飛行実験を行いました。また、たくさんの島々を調査してみて、島の人たちの反応はどうですか。
「島によって違います。実験をしていると、『寿司は運べるの?』と積極的に話しかけてくれる島もあれば、過去に無理な地域開発をされて、テクノロジーというよりも外の人に対して閉鎖的になった島もあります。ごり押しはしません。興味のある島からきちんとやれば、他の島の人たちも『ちゃんとやってるようだ』や『便利になったようだ』と見てくれ、いずれ目を向けてもらえます」
カモメに似たカモメコプターや、大きな桃を載せた船のドンブラコなど、親しみやすいデザインも、多くの人が興味を持つきっかけになりそうです。
「デザインは、島の人が見たことあるモノに似せるようにこだわっています。例えば、通常のVTOL型ドローンは尾翼が2本ありますが、カモメに見えるように尾翼は1本にしています。島にとって異質なものや、風景になじまないものは入れません」
「こうしたことは、机の上だけで考えていては、本当に役立つものは創れません。今は技術的に無理のないところから始めていますが、やりたいことはまだまだたくさんあります。一つずつ進めて、将来は人の移動手段も提供したいです」
瀬戸内海で開発したシステムは他の地域でも使えますか。
「国内の他の離島や、山間部にある陸の孤島のような地域から問い合わせが来ています。今冬には長崎県の五島列島へ行く予定です。無人物流は、もともと海外展開したいと考えて開発しました。人口減少の進む瀬戸内海の離島は日本の10年後の問題を先取りしています。インドネシアなどのように、海外も都市の10キロメートル圏内に島を持つ国は多いです」
今後、日本では人口減少が進み、過疎地域は増えていきます。テクノロジーや地域活性化施策で、過疎は救えますか。
「無理に人口を増やせないし、消滅集落は仕方がありません。ただ、現状では行政に登録した人口がゼロになった時点で電気やガスなど全てのインフラが止まり、二度と復活しません。それを止めたいです。最近では人口が10人を切って限界の来た島に『無人島にしたくない』という思いで戻ってくる人に会います。無人物流やオンデマンドの移動手段があれば、行政登録がゼロになっても畑の手入れや仏壇の掃除のために島へ行き来し、ふるさとを残すことはできるのではないでしょうか」
では、離島の島々のどんな良さを残し、どんな島になってほしいですか。
「島に来て交流する人や島と関係を持つ人を増やし、島の出身でない人にも第二の田舎になってもらいたいです。例えば、今、高松市の市街地と離島で音楽イベントを行う場合、島の集客数は大幅に少なくなると思います。それは島への心理的な距離です。テックでこの差をなくし、陸と離島の物理的な距離だけではなく、心理的な距離もゼロにしたいです。そして、島それぞれが持つ風景や歌、祭り、文化が残っていってほしいと思います」(了)
後編