トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.8
“地下”を攻める! 新たな挑戦
狭い狭いと言われ続けた日本の国土にあって、利用しつくされていないのが地下空間だ。外部から完全に隔離できるという、地球上のほかの空間にはない特長を持つ。これまでは、道路や鉄道など交通網の敷設や、豪雨時に水をためる防災施設などとして使われてきたが、活用法はこれにはとどまらない。香港では地下都市の建設も進んでいるが、日本でも工場などで排出されるCO2の封じ込めや、地下工場の建設など様々なアイデアが実用段階に入っている。いっそうの利用に向けた課題を探る。
後編
地下に「もう一つの街」出現も
公開日:2019/7/26
日本大学
理工学部土木工学科特任教授
岸井 隆幸
後編
世界の都市開発では、地下空間は、貴重な資源として注目度が高まっている。岸井隆幸さんは「地下空間の開発で、これまでとは違った発想が生まれている」と変化を語る。今後の地下空間の可能性を聞いた。
地下空間で注目している新しい動きとは?
従来、日本ではあまり例がありませんでしたが、地下鉄の駅と周辺の地上空間を連携させようという新しい動きが出てきています。東京・虎ノ門地区に開業予定の地下鉄日比谷線の新駅では、新駅と隣接する施設の都市開発を一体的に計画しており、地下鉄が走るのが見える大きな空間が出現します。地下鉄の建設は、これまで幹線道路の下の空間を使って行うという考え方で進められ、駅周辺の地下は、主に「通路」という交通の動線として使われてきました。しかし、周辺地区の開発と一体的に計画することで、「交通結節の機能を強化する」、「憩いの空間を用意する」などさまざまな可能性が広がるようになります。
さらに地下と地上を上手につなぐ工夫を施すことで、地下も地上もそれぞれが魅力的な空間になります。例えば、地上の光が差し込んだり、風が入ってきたりする「サンクンガーデン」のようなものがいくつかあると気持ちよく過ごしやすいでしょう。虎ノ門地区の新駅のように、駅周辺の開発と交通機関の整備が一体となって行われると、さまざまなアイデアが実現するでしょう。
【虎ノ門地区 日比谷線新駅のイメージ】
都心部では再開発とともに、新たな地下空間が誕生しています。
現在、高度成長期に建設されたビルが順番に建て替え時期を迎えています。防災の面からも、エリア全体で地下の在り方を考えることが必要です。特に、都市の発展とともに形成されてきた「地下街」と呼ばれる「道路の下にある商業空間」が各地にありますが、こうした空間をいかにメンテナンスし、質の高いものにしていくかは非常に重要な課題です。
再開発などで地下利用がますます進んでくるエリアでは、地域として地下に関する開発方針を共有したり、利用のガイドラインを設けたりしておくと、ビルの建て替え時期が違っても、いずれ地下でビル間をつなぐことができます。そして気が付くと、「地下に便利な空間が出現している」ということになるでしょう。それぞれの地下空間をつないでネットワーク化することで、全体の利用価値が高まるとともに、さらなる可能性が広がるのです。
地下空間のネットワークが広がると、どんなサービスが生まれるのでしょうか。
例えば、今、ホテルや店舗の駐車場を利用する際、入り口で専門スタッフが車とその鍵を預かり、駐車場まで車を運び、帰るときには同じ場所まで車を運転してきてくれる「バレーパーキング」と呼ばれるサービスがあります。今後、コンピューターが車を制御して走行する自動運転システムが整備されれば、こうしたサービスは極めて容易になります。建物のロビー空間まで運転すると、降りた後は車が自動で地下の駐車スペースまで走行することが可能になるでしょう。
物流面では、トラックが高速道路から自動運転でビルの地下の駐車スペースまで到着すると、ロボットが荷さばきをしてビルの目的場所に運ぶといった新たな物流システムの構築が可能になるでしょう。地下空間のネットワークができている地域では、遠くない将来、自動運転と地下空間ネットワークを組み合わせた新たな面的な交通システムが生まれてくるでしょう。
都市が魅力を持ち続けるために、地下空間の開発に必要な視点とは。
それぞれのエリアについて、地上と地下を合わせた将来図を描き、共有することが大切です。実際、東京の都心では、こうした発想による開発が複数の地域で動き出しています。例えば、東京駅周辺ではビルの再開発に合わせて地下の歩行者ネットワークが広がっています。今、開発途上にあるのが渋谷駅周辺で、駅前広場地下にゲリラ豪雨対策として雨水貯留槽を整備しています。今後は新宿など他の地区でも動きが出てくるでしょう。
都市開発では、「地上の空間をよくするために、いかに地下をうまく使うか」という発想が大切です。今後も、新しい技術とともに、地下の使い方がさらに進化していくでしょう。
土地が狭い香港では、下水処理場や貯水池、倉庫などを地下に移設しようとしています。必ずしも地上に設置する必要のないものは地下に設けて、地上空間をより多くの人が楽しめる場所にする、地下と地上をともに有効に使っていくという流れができてほしいですね。
地下は地震に強く、気温も一定で、いろんな意味でコントロールがしやすい空間です。これからも、こうした地下の特性を生かしたチャレンジングな動きが増えてくると面白いと思います。(了)
【渋谷駅東口地下広場】
後編
「地下空間」と聞いて、みなさんは何を思い浮かるだろうか。無限に広がるまだ見ぬ空間に思いをめぐらせるとワクワクした気持ちになる。地下に設置する「植物工場」は、「気象条件に左右されず最高の条件で栽培できる」と語る伊東電機の伊東一夫氏。深さ40メートル以上の「大深度」の地下空間に巨大な水路を作る構想を打ち出すなど、新しい東京の可能性を探る大林組の葛西秀樹氏。日本大学の岸井隆幸氏は、都市計画の観点から「地上空間をより良くするために地下をどう使うかが大切」と指摘する。
遠くない将来、巨大水路を含めて、都心の地下に新たな交通や物流ネットワークが出現しているかもしれない。
次回のテーマは「気象ビジネス」です。天気や気象データを活用すると、一体、どんなビジネスが生まれるのでしょうか。誰もが気になる「天気」に関係の深い方々にご登場いただきます。(Grasp編集部)