トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.37

航空機の道先案内人。空の安全を守る航空管制官

1日数千機の航空機が飛び交い、「過密」と言われて久しい日本の空。航空管制官は、地上からいわばその交通整理をし、パイロットと共に安全なフライトを実現する“空の番人”です。2022年7月放送開始のドラマ『NICE FLIGHT!』では、そんな航空管制官とパイロットの恋愛模様とともに、プロフェッショナリズムや仕事の醍醐味が描写されています。今回はドラマの視点を借りて航空管制官の仕事に迫るとともに、現職の方からよりリアルなお話についてうかがいます。

Angle A

前編

ヒロインは航空管制官

公開日:2022/8/26

俳優
ドラマ『NICE FLIGHT!』プロデューサー

中村 アン
神田 エミイ 亜希子

2022年7月から放送中のテレビ朝日系 金曜ナイトドラマ『NICE FLIGHT!』。空と空港を舞台に、パイロットと航空管制官というプロフェッショナルな職種の主人公たちの仕事と恋を描くオリジナルドラマです。航空管制官は、国土交通省職員。その役を務める俳優の中村アンさんと、パイロットや航空管制官が登場するドラマを作ることが念願だったというプロデューサーの神田エミイ亜希子さんに、企画意図や航空管制官の印象を聞きました。

現在より少し先の未来が描かれているそうですが、どんなドラマなのでしょう。

神田 : 『NICE FLIGHT!』は、世界的な新型コロナウイルス感染拡大で海外旅行や自由に飛行機に乗って空を飛ぶことすらできなかった日々が過ぎ、明るい日常が戻ってきた少し未来の空港を舞台にしました。日本航空さんの協力でパイロット、整備士など空港で働く人々をリアルに描き、国土交通省航空局さんに取材した航空管制官も登場します。玉森裕太さん扮する航空会社の副操縦士、倉田粋(くらた すい)と、中村アンさん演じる羽田空港の女性管制官・渋谷真夢(しぶや まゆ)が、まず “声”で出会い、次に“生身の人”として再会して動き出す、働く大人の“仕事と恋”が詰まったドラマです。

なぜ今、空港を舞台としたドラマを企画されたのですか。

神田 : コロナ禍で制限されたことはたくさんあり、それによって私たちは多くのことに気づきました。空を飛んで好きな時に好きな場所に行けるのはかけがえのないこと、という実感もその一つです。飛行機でいつでも移動できることは自由や平和の証でもあります。みんなが空を自由に飛べる世界でありますようにという思いと、空の旅のとびきりの高揚感や期待感を、空港で働く人たちのドラマに込めて、視聴者の皆さんにお届けしたいと思いました。そして、ドラマを観終わった後には、明るい気持ちになって頂きたいと思っています。

中村さんは、飛行機や空港にまつわる思い出はありますか。

中村 : 初めて飛行機に乗ったのは、中学校3年の夏休みに学校のプログラムで3週間カナダに行った時です。私は両親が新潟県の佐渡島出身で、幼い頃の旅行といえば新幹線と船で祖父母の家に行くこと。飛行機は遠い存在だった上に海外に行くのも初めてでしたから、とてもうれしくて日付まで覚えています。大勢の生徒でギュッとエコノミーに乗ってはしゃいで、楽しかった。カナダでは出されたものを全部食べていたら7kgも太ってしまって、帰国後、空港に迎えに来た母に気づいてもらえませんでした(笑)。忘れられない初フライトの思い出ですね。

神田さんはなぜヒロインの職業を航空管制官にしたのでしょうか。

神田 : もともと、航空管制官は空の仕事の花形職の一つだと思っていました。空は刻一刻と変わっていきます。二度と同じ空はないので、自然を相手にするすごい仕事だなと。それに、空港という場所は、ちょっと夢と現実の中継地点のようなイメージがありますよね。そこで飛行機を導く仕事だなんてワクワクします。いつかドラマの中でかっこいい管制官を描きたいと心に留めていました。女性の航空管制官も多いと聞き、パイロットが会ったことのない管制官の声に恋したら、という発想が浮かびました。「この人いい声だな、どんな人なんだろう」と“ひと聞き惚れ”するところから始まるラブストーリーを作ろう、それが企画のスタートです。

そこで、国土交通省に航空管制官に関する取材申請をされたのだとか。

神田 : 航空管制官を描くには、国土交通省さんに取材しなくてはと思いました。ドキドキしながら代表番号に電話して、「あのう、テレビ局の者ですがこういう企画がありまして」と。それが最初でした。すると、恐縮するほど親切に対応していただいて、管制官の方や仕事の現場も取材させていただけました。取材前は、もっとお堅い、ルールに厳格な方たちを想像していましたが、実際にお目にかかると皆さんとても気さくで明るい。やはりチームワークが大事な仕事なので、コミュニケーションが上手な楽しい方が多いという印象でした。皆さんが仕事に誇りを持っている、そのプラスの空気が職場にも満ちていると感じました。

中村さんは今回の航空管制官という役柄をどう受けとめましたか。

中村 : 次の役は航空管制官と聞いたのはクランクインの半年ほど前でしたが、その時は目の前の仕事に集中していて、頭の片隅に職種名を置いただけでした。気が引き締まったのは、この作品の初めての打ち合わせで神田さんから熱意あふれるお手紙をいただいた時。そこには、今取材を重ねていること、航空管制官とパイロットは声でしか繋がってないけれど、一緒に飛んでいるような気持ちになれる管制官を信頼していることなど、私を役に近づけてくれる言葉が書かれていました。初めて演じるこの職業の輪郭がつかめましたし、責任ある職業だから私も責任を持って取り組もう、覚悟を決めて航空管制官を4ヶ月間演じ切るぞ、と気合が入りました。そして、まさにスイッチが入ったのが、撮影開始の1週間前に管制塔に上らせていただいた時です。あの景色と働いている方々を実際に見たことで、どんなたたずまいで演じればいいかを真剣に考え始めることができました。

航空管制官をはじめ空港の仕事はチームワークですね。『NICE FLIGHT!』のチームはどんな雰囲気ですか。

神田 : 楽しいチームだと思います。等身大のキャラクターを描きたくてリアリティを追求して作ってきた結果、現場に漂う空気もリアリティたっぷりというか、等身大の登場人物本人たちがいる感じです。パイロットや航空管制官など資格も含めて特殊な仕事ですが、演じている役者さんたちの素の部分ともちょっとずつリンクしていい雰囲気です。

中村 : みんな無理をしてない、穏やかなチームです。それでいて、それぞれ役に責任感を持ち、自立している。一人ひとりが飛行機を守る気持ちになっていますね。私も、自分はヒロインだからと気負うことなく作品に入り込み、プロフェッショナルな仕事や劇中で出会う人たちと、いい意味で距離を縮められています。これからラストに向かって盛り上がる時、お芝居だけどお芝居にならない、リアルな感情が出せたらなと、そこを目標にしています。

(向かって左から)

なかむら・あん  1987年、東京都出身。俳優。ドラマ「SUITS/スーツ」、「グランメゾン東京」「日本沈没-希望のひと-」「DCU~手錠を持ったダイバー~」や映画「マスカレードナイト」など多くの話題作に出演。自然体の演技が多くのファンを惹きつけている。

かんだ・えみい・あきこ テレビ朝日コンテンツ編成局ストーリー制作部。上智大学外国語学部卒業後、東京藝術大学大学院映像研究科修了。「特捜9」「津田梅子〜お札になった留学生〜」など多くのドラマ作品をプロデュース。戦後初の客室乗務員を描いたドラマ「エアガール」でもプロデューサーを務めた。
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