トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.4
公共インフラは、財政圧迫要因か? 新たな社会資産か?
高度成長期に大量に建設された道路、橋梁、トンネル、ダム、堤防、上下水道などのインフラの更新期が迫っている。今後、老朽インフラの維持管理更新費は増加すると見込まれており、現状の予算水準では、新規投資が一切できなくなる将来も遠くない。他方、空港にはじまり、上下水道、高速道路とコンセッション方式による民営化が拡大している。今後、必要な維持管理費をまかないつつ、必要な投資を行っていくためには、どうしたらよいか。受益者負担、有料化、民営化、インフラ集約化など、今後の方策を識者に聞く。
後編
“喜び”がある社会資産を
公開日:2019/2/26
株式会社ディー・エヌ・エー
代表取締役会長
南場 智子
後編
DeNAの創業者で会長の南場智子氏は、社会インフラなどのリアルな世界とITとの融合に勝機があると説く。勝つためには利益が出ないといけない。その具体的な方策は、野球以外の公共的な事業でも参考になるのではないか。
インフラについてお聞きします。DeNAは横浜スタジアムを子会社化し、大幅に拡張する計画を進めていますね。
「球場運営権の取得は悲願でした。ただ公共施設なので、自分たちから『売って下さい』とは、なかなか言えない。非常に良いタイミングで、地元財界の方が声をかけてくれました」
悲願だったのはなぜでしょう。
「プロ野球の球団運営は三位一体で成り立ちます。チームと、それを運営する企業。そして試合という場を盛り立て、ファンを喜ばせるための施設です。その施設を違う組織が運営していました。もちろん、チームに対しては十分な協力を頂いていました。でも盛り上げるための施設の使い方、施設での広告の出し方など、状況に応じて臨機応変に対応するには、部隊が分かれていたら難しい面があります。一体的な経営が必要でした」
「横浜の場合、球場は市の所有だけれど施設としての運営は横浜スタジアムという企業です。球場運営会社は黒字で、球団は赤字でした。合算してようやく黒字になります。野球ビジネス全体では利益は出ているのですが、その分配を会社同士で話し合わなければならなかった。そこに時間を使うよりも、もっとお客さんに向き合いたいと思いました。その点は旧横浜スタジアム幹部の皆さんも同じ思いでした」
球場のような公共インフラを企業が所有して、うまくいくのでしょうか。赤字運営の施設を税金で維持している例が少なくないと思います。
「そこはやりようです。インフラとしてスポーツ施設を運営する人に伝えたいのは、しっかりやれば利益が出るということです。中身、つまりコンテンツによって入場や広告の収入も増やせます。公共施設だから利益が出ないということはないはずです」
具体的に何をすべきなのでしょうか?
「どれだけファンに向けてサービスを充実できるかです。お客さんは、どんなシーン、目的で来るのか。デートなのか仕事終わりの息抜きなのか。それぞれに合わせた施策で、たとえホームチームが負けてもリピートしたくなるようにする。普通のマーケティングと全く一緒です。公共事業だからと言い訳せず、スポーツと利益を切り離して考えないこと。ファンに向き合い、マーケティング用語でいうペルソナ(典型的なユーザー像)を見極めて備えます。事業として利益が出ればチームの補強にもつながります」
「普通のマーケティングにとことん、必死になることです。野球のようなメジャースポーツなら黒字にできるはずです。親会社が儲かっているから、フィランソロピー(社会貢献)で赤字のスポーツをやりますというのは限界がある。親会社の浮沈に関わらず、事業が回るようにすることがスポーツ産業への本当の貢献だと思っています」
【施設はコンテンツから】
横浜のような大都市、あるいは野球のようなメジャースポーツ以外でも可能ですか。
「新潟や広島など他の都市でも成功例はあるように思います。スポーツはすべて感動があります。野球だけでなく、サッカーやバスケットボールも国民的人気があります。DeNAが川崎でバスケットボールに挑戦するのも、そのためです。野球だけではありません」
「スポーツの領域には、まだやれてないことがたくさんあります。私たちも2割程度しかできていません。例えば横浜スタジアムの客席を拡張するのは、満席でチケットが取れないからだけではないんです。ヘビーユーザー以外にすそ野を拡大するには、キャパシティーに余裕があり、ふらっと来て入れるようにした方がいい。そういう狙いです」
全国には遊休施設となっている公共インフラや、ダムやトンネルなど観客のいない施設もあります。維持・運営に助言できることはありますか。
「勉強不足で発言できる立場ではないですが、あくまでコンテンツから出発するのが正しい発想だと思います。顧客志向が最優先です。『AKB48』は、東京・秋葉原に余った施設があるから生まれたわけではないでしょう」
DeNAは今年、創業20周年だそうですが、今後、南場さんが公共インフラやリアルの世界で興味があることがあれば、お聞かせ下さい。
「時代の変化の要になる部分は、やってみたい。例えば電力が再生可能エネルギーにシフトしていき、需給によって価格がダイナミックに変動する時代が来るでしょう。横浜スタジアムでもダイナミックプライシングを導入していますが、電力もそうなるし、鉄道も利用時間によって運賃が変わったり、道路の利用方法も変わるでしょう。そういう利用者データの活用の仕方もいろいろあるのかなと思います」
「人の移動もそうです。狭い日本の道路で法律そのままに自動運転を導入するのは困難です。私は素人で全くの夢物語ですが、空があいているから使えないかなと。そうやってレイヤー(階層)を増やしてみるのが面白そう。そう思って空を見ていると、カラスが飛んでいる。あいつら何の役にも立たっていないけど、何か使えないかな。そんなことを(米ペイバルやスペースXの創業者である)イーロン・マスクが言えば、みんなが興味を持つ。でも日本のベンチャー創業者ではイマイチですね。それでも、虎視眈々と狙っています(笑)」(了)
後編