トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.46
命を守る第一歩!すぐにでも自分でできる地震への備えとは?
世界有数の地震多発国・日本。マグニチュード6.0以上の地震の約20%は日本周辺で発生しており、ここ30年の間だけでも「阪神・淡路大震災」「東日本大震災」などの大きな地震が起こっています。その上、マグニチュード7~9と予測される「首都直下地震」「南海トラフ地震」の今後30年以内の発生確率はいずれも70%以上。1923年9月1日に起きた「関東大震災」から100年目となる今年、来るべき大震災から命を守るために、今私たちができること、すべきことは何かを、専門家や被災経験者の方のインタビューを通して考えます。
後編
絶対に必要な地震への備え。今すぐ始めるコツとは?
公開日:2023/9/12
気象予報士・防災士
蓬莱 大介
後編
地震に対する備えの必要性を感じつつも、「まだ大丈夫だろう」と先延ばしにしたり、何をどう備えればいいのか分からなかったりと、防災対策が不十分な人は少なくないと思います。なかには「いざとなったら公的支援がある」と考えている人もいるかもしれませんが、地震で交通網が麻痺したら物資の到着まで何日もかかることもあります。そこで、防災・減災に関する講演も精力的に行っている蓬莱大介さんに、必要な備えや防災対策のコツについてうかがいました。
地震への備えは必要と感じながら、なかなか準備ができない人も多いと思います。防災対策に着手するにはどうしたらいいでしょうか。
私も防災士の勉強をするまで防災対策を怠っていましたから、なかなか着手できない方の気持ちもわかります。大地震が明日にでも起こり得るなんて聞いてもピンときませんし、もし起きても「自分1人なら何とかなる」と考えがちでしょう。そんな「自分の身に大変なことは起きない」「起きても自分なら大丈夫」といった正常性バイアスが、防災対策を始められない原因の1つです。
そこで、家族がいる方は、自分のためではなく、「家族のためにどうするか」を考えてみるのがおすすめです。例えば、自分なら1日くらい食事を我慢できても、小さなお子さんには難しいでしょうし、地震で水道が止まったら粉ミルクの水を手に入れるのも苦労します。「家族を守るために備えよう」という気持ちになるのではないでしょうか。
食料や水は何日分くらい備えておけばいいですか。
大地震の後、止まったライフラインの復旧や物流の回復まで、だいたい1週間くらいかかることが多いです。そのため、食料や水の備蓄は1週間分が目安とされています。
備蓄する食料は、「防災用」を謳っている商品である必要はありません。普段の買い物の中で、缶詰やカップラーメン、フリーズドライ、レトルトなど、日持ちのするものを少し多めに買って、ストックしておけば大丈夫です。収納スペースがなくて1週間分は置けないなら、まずは数日分でも構いません。乳幼児がいるご家庭は、ミルクやベビーフードの備えも必要です。
水は1人につき1日3リットルが必要といわれ、家族4人で1週間分を計算してみると84リットル。2リットルのペットボトルを40本以上まとめて置く場所はないでしょうから、例えば6本入りの箱を玄関先に1箱、寝室のクローゼットに2箱くらい置くことから始めてはどうでしょうか。
すべてを完璧にそろえようとすると、面倒くささや難しさで、結局は手つかずになりがちです。まずは自分や家族が、地震のときに「あったら便利・安心」と思うものから少しずつそろえていけばいいと思います。
食料や水のほかに備えておくといいものは何でしょう。
懐中電灯、履きやすいスリッパやスニーカー、カセットコンロとガスボンベ、スマホなどの充電用のバッテリー、携帯用トイレといったグッズは、誰にとっても「あったら便利・安心」だと思います。
懐中電灯は仕舞い込んだりしないで、寝るときは枕元に置くこと。すぐ手が届く場所にないと、就寝中に地震が起きた時に対応できません。また、スリッパやスニーカーは割れたガラス・食器などが散乱した床を歩くときに必要です。カセットコンロとガスボンベがあるとお湯を沸かせますから、ミルクを作ったり、インスタント食品を温めたりできます。災害時のスマホは重要な情報源なので、充電用のバッテリーは必須といえます。ただ、停電している可能性も高いので、乾電池を使って充電できるタイプだと使いやすいと思います。
携帯用トイレは忘れられがちですが、絶対にあった方がいいグッズです。水道の水が出なくなったら水洗トイレも使えなくなります。近くに仮設トイレが設けられたとしても、毎回そこまで行くのは大変ですし、トイレを無理に我慢すると体調不良になることも考えられます。携帯用トイレは、収納時はそれほど場所も取らないので、1人につき1日数回分×数日分を用意しておくと安心です。
携帯用トイレも備えておくべきということは、災害時は自宅避難が基本なのでしょうか。
自宅が倒壊した方、地震による土砂災害が懸念される場所に住んでいる方、自治体から避難所への移動が求められた方などは、もろちん避難所に行くことが最優先です。
しかし、そういった状況に当てはまらず、自宅でも安全と考えられる場合は、多くの方が自宅避難を選ぶことになると思います。熊本地震では避難所での生活を原因とする災害関連死の方が多かったことを考えると、自宅避難でも困らない準備をしておくことが大切です。食料、水、その他の備品をストックしておくだけでなく、固定具等で家具などが倒れないようにしたり、棚の中のものが飛び散ったりしないようにしたり、家の中の安全対策も忘れないようにしましょう。
自宅の安全性という意味では、住んでいる地域が大地震でどれだけ被害を受けそうなのかを知っておくことも大切です。国土交通省では、インターネット上のハザードマップポータルサイトで各地域の自然災害のリスクを公開していますし、大地震で想定される被害状況をホームページや冊子で情報提供する各自治体も多いですから、ぜひ確認しておいてください。
改めて地震多発国・日本で暮らす心構えをお聞かせください。
1923年の関東大震災から今年で100年が経ちましたが、ここ30年ほどの間でも1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災と、複数の大地震が起きています。さらに、今後は南海トラフ地震や首都直下地震が「今後30年以内に発生する確率が70%」とされています。
今後30年以内というのは、10年後かもしれないし、明日かもしれません。いずれにしても、私たちが生きている間に、日本という国の存続まで脅かしかねない、そんな巨大地震に高い確率で遭うという意味です。今の時代は「大地震と大地震のはざま」ということを認識すべきだと思います。
しかも、日本にはわかっているだけでも約2000の活断層があり、南海トラフ地震と首都直下地震以外にも注意が必要です。多数の活断層のうち、政府の地震本部が定めた114の主要活断層帯で地震発生確率の評価が行われていますが、発生確率が低い断層で起きた熊本地震の例もあり、発生確率が低いから安全とはいえないのです。日本のどこに住んでいても、地震への備えが必要なことは間違いありません。
前編で、災害対策の基本は「自助」だとうかがいました。「共助」や「公助」はどのように考えればいいでしょうか。
一般的に、災害時に助けとなるのは自分や家族で備える「自助」が7割、近所で助け合う「共助」が2割、国や自治体などからの「公助」が1割といわれています。自分や家族の命を守るには、誰かが助けてくれるのを待つのではなく、自分で守れるように備えをする、つまり自助が大事です。さらに「命を守る」エリアを広げたのが共助で、避難時の隣人への声掛けなど、互いに助け合って地域の人の命を守ります。
公助の割合が少ないと思われるかもしれませんが、そもそも災害の規模が大きくなるほど、公助は対応が遅くなります。それに、私は「公のお金」は、例えば老朽化したインフラの整備、甚大化する自然災害に対する防災設備など、国や地域全体を強靱化する防災対策に活用した方がいいと思います。そうやって基盤になる部分を整備してもらうことで、個人個人の防災対策がより効力を発揮するのではないでしょうか。
※国土交通省「防災ポータル」
https://www.mlit.go.jp/river/bousai/olympic/
後編