トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.13
未来都市が現実に? スマートシティ発進
AIやビッグデータ、次世代送電網(スマートグリッド)技術などを活用し、渋滞解消や省エネなどを目指す先進都市「スマートシティ」。日本では国家戦略特区などの枠組みで導入が進んでおり、今年8月には、約600の自治体や企業、中央省庁、研究機関が参加して先行事例を共有する官民連携協議会も設立された。スマートシティが現実のものとなることで、私たちのくらしはどう変わるのか。
前編
「地方都市と高齢者」こそデジタルが必要
公開日:2019/12/20
アクセンチュア・イノベーションセンター福島
センター長
中村 彰二朗
前編
前回登場の隈研吾氏は自然の素材を生かしたスマートシティ作りについて語った。地方の現場では、試行錯誤が始まっている。福島県会津若松市で、健康や福祉、教育、防災、交通、環境など様々な分野でデジタル技術や環境技術を活用したスマートシティへの取り組みが活発だ。人口約12万人の地方都市だが、2011年3月の東日本大震災を契機に地方創生を掲げ「産官学」が連携して地方発のスマートシティ化を推し進めている。この取り組みに主体的な役割を果たしているアクセンチュア・イノベーションセンター福島のセンター長を務める中村彰二朗氏に話を聞いた。
会津若松市でスマートシティに取り組み始めたきっかけは?
2011年3月11日の東日本大震災が契機です。この翌年はアクセンチュアの日本事業開始から50年に当たる年ということもあり、日本社会に貢献できるプロジェクトを模索していました。そんな折に震災があり、中でも福島県は原発事故による被害が大きかったので、福島での復興支援として、会津での事業に踏み切りました。
具体的には2011年4月に経済産業省の復興関連の場で、会津若松市の関係者で「ボランティアや義援金はありがたいが、ぜひ事業をしに会津に来てほしい」と訴えた方がいて、心が動かされました。当時私も、東京で際立つ一極集中に対する問題意識を持っていたので、経営層に掛け合い、2011年8月には会津若松市内に拠点を開設することになりました。私自身もその後まもなく会津に移住しました。
スマートシティの取り組みを具体的にお聞かせください。
まず、この街はスマートシティ化に向けた取り組みを行ううえで、適度の人口規模をもった地域だと思いました。自動車で高台へ行くと、街が一望できる場所があるのですが、会津盆地に会津若松市を中心とした市町村が集まっている様子が見渡せます。
震災復興をきっかけに取り組みが始まり、ビジネスを通した産業振興と雇用創出を目指しました。特に、私たちの専門分野であるデジタルを使った街づくりと雇用創出プランについて、地元の人たちと話をするようになりました。当時は昼も夜も連日のように議論していたものです。また、会津若松市と会津大学とアクセンチュアの3者は、週1回の定例会議を設け、街の将来像について議論を積み重ねました。長いときで1回に5時間程度かけることもありました。そこでできたのが「会津復興・創生8策」です。後にこれが会津若松市でスマートシティ化に取り組む上での基本的な考え方につながっていきました。
地方都市がスマートシティ化に取り組む意義とは何でしょうか。
スマートシティ化とはデジタル技術、そしてデータを駆使して、街の問題に取り組み、魅力的な街づくりを行うということですが、まず強調したいのは「デジタルは高齢者や地方にこそ、有効なツールだ」ということです。例えば、移動手段をモノではなくサービスとして考える「MaaS(Mobility as a Service)」という構想があり、デジタルが前提となった考え方として認識されています。しかしこれは、公共交通機関が整った都心部で今すぐに必要かというと、必ずしもそうではないように思われます。しかし地方都市には今すぐにでも必要なことです。限界集落地域では、バス路線の廃止が進む一方で、自動車免許を返納する高齢者が増えています。そういう地域では、自動運転車とそれを支える仕組みが明日からでも欲しいわけです。
しかし、日本では「デジタルは若者のもの、都会のもの」という意識が根強くあります。これは勘違いですよね。会津若松市は、2013年以降、市長を中心に「デジタルがないと地方はやっていけない」という姿勢を鮮明にしていますが、本来、地方都市はこのことをもっと強く認識しなければならないと思います。
【2011年12月に策定した「会津復興・創生8策」。会津若松のスマートシティ計画の軸となった】
スマートシティ事業の取り組みを進めていて、感じた課題とは何でしょうか。
会津若松市には、市民に地域情報を発信するポータルサイト「会津若松+(プラス)」があり、生活に必要な多様な情報の提供を目指しています。今、このサイトを利用しているのは全市民の約20%ですが、これを30%ぐらいまで引き上げたいと思っています。
日本では全市区町村が、「市政便り」のような広報誌を全戸配布しており、会津若松市にもあるのですが、これを中身までしっかり読んでいる割合は、推定でおよそ3~5%程度だと思われます。また公聴会などに参加する市民も限定的です。それらと比べると、「会津若松+」の20%はかなり高いと言えます。一般的に広報誌は、住民全体を対象に行政の情報を発信しているものですが、市民一人ひとりの目線で考えたとき、広報誌に掲載されている情報の大半は、自分たちにとってはあまり関わりのないものなのかもしれません。「会津若松+」では、自分の趣味嗜好や家族情報などのパーソナルデータを入力することで、年齢や属性などから、関心のありそうな市政情報を表示することができます。スマートシティはデータに基づいて市民生活を便利にすることができるのです。
なお、国とも内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省が共同で設立しているスマートシティ官民連携プラットフォームの中で、事業実施に当たっての課題や展望に関して、意見交換を行っています。
【市民向けサイトの会津若松+(プラス)とは】
個人データの収集は情報の保護という点で問題にならないでしょうか。
自分の個人情報が活用されているサービスから脱退することを「オプトアウト」と呼び、他方、本人が自発的に情報を提供し、サービス提供を受けることを「オプトイン」と呼んでいます。会津若松市では「データは市民のもの」という考え方のもと、「オプトイン」方式をとっています。市民がデータを自発的に提供することで、個人ニーズに寄り添った利便性の高いサービスが得られるようになり、まちづくりにも活かされるということを、様々な集会などで地道に説明しています。こうして作り上げた信頼関係が、「会津若松+」の20%の参加率につながっていると思います。市民のデータ提供は、市民・社会・企業の「三方良し」の社会作りに必要だということを訴えていきたいと思います。
※後編に続きます。
前編