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トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考える
インタビューシリーズ

vol.3自動運転時代、移動はどう定義されるのか?

公開日:2019/1/22

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[ 前編 ]

自動運転が進むべき道

東京大学生産技術研究所教授大口 敬

自動運転はバラ色の未来のように語られがちだ。しかし最初は従来の車との混在が必要など、十分に機能を果たせないことも考えられる。専門家はどう見ているのだろうか。東京大学生産技術研究所教授で交通制御工学を担当する大口敬氏は、政府の審議会等で活躍する一方、2018年7月にモビリティ・イノベーション連携研究機構の立ち上げにも深く関わって学際的な研究にも着手した。自動運転が交通システムにもたらすイノベーションの可能性について聞いた。

自動運転の未来について、どう考えますか。

 「同じ『自動運転』でも、人によって意味がまるで違うんですよ。物流だったり、シェアリングが絡んだり。ドライバーはいるのか、それともハンドルのない車なのか。低速のモビリティーサービスから、奇想天外な“空飛ぶクルマ”みたいなものまであります。ここでは話を絞って、現在の乗用車に自動機能がついて人の移動をする一般的なものを前提にしましょう」
 「自動運転が世間にもてはやされるようになって5年ぐらいでしょうか。しかしメーカーや、先端的なサービス事業者にとっては、一つの技術進歩に過ぎません。それに、例えば自動運転車が今の乗用車の数倍もする価格で発売されて、どれだけの人が買うでしょうか。それだけのステータスがあるか。そうした社会的制約もあります。技術が進んだからといって世の中が激変するわけではありません」

実用化には時間がかかるということでしょうか。

 「高速道路向けにオートクルーズが登場したのは1990年代。これだって自動運転の一種です。当時は使い勝手が良くなかったが、この数年、ブラッシュアップされて利用しやすくなりました。そうやって技術は段階的に進みます。オートマチック・トランスミッション(自動変速)とか、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)なども実に高度な自動化で、運転しやすさと搭乗者の安全に貢献してきました」
 「人の移動を考えるとき、『戦略』となるのは『どこを目的地とするか』『どんなルートを使うか』です。その自動化したツールがカーナビゲーション・システムであり、すでに実用化されています。いま話題にしている自動運転は『どうやって安全に走らせるか』という『戦術』ツールです。自動運転のレベルは5段階に分けることが多いですが、このうち『レベル4』とか、『レベル5』の完全自動運転を実現するには、戦術と戦略の双方の自動化を統合する必要があります」
 「大げさに言えば自動車というものは、誕生した時から人の移動を自動化するのが目的でした。今の戦術的ツールである自動運転も、そうした長いステップの途中にあります。しかも自動運転は、まだ群雄割拠の時代にすらなっていません」

【技術進展=効率化ではない】

自動運転車のレベル分け(国土交通省自動運転戦略本部第4回会議参考資料8ページを基に作成)

ただ、実用化されれば車の新しい使い方が生まれますよね。

 「スイッチひとつで、あらかじめ登録した目的地に自動的に強制的に連れて行くシステムが出来たとします。そんな車を、人々は本当に望んでいるかよく考えてみる必要があります。買い物に行く途中で忘れていた別の店に寄ったり、おいしそうな店を見つけて食事に入ったり、知人と会って家まで送ったり。運転の途中で行き先を変更するのは、人間にとって当たり前ですが、自動化で混まない経路に全ての車を最適化したのに、そんな気まぐれに行き先を変えられては、完全に最適な効率化は不可能です。オートマチックは万能ではありません」
 「これは大げさな話ではなくて、最近はカーナビに最新の道路工事情報が登録されていないと、通行止めの標識の前で途方に暮れるドライバーがいるそうです。『おいおい、自分で運転しろよ』と思ってしまいます(笑)。そのうちトイレ休憩もカーナビにセットしないとできなくなるんでしょうか」

技術が進めば効率化や渋滞解消に役立つという意見もあります。

 「そうとは限らないんですよ。道路の能力を示す『交通容量』という概念があります。私が研究を始めた1980年代は、高速道路の交通容量はおおよそ1時間に2000台程度でした。この数字は昔から今までほとんど変わらないと考えられていましたが、最近の調査で、近年は年を経るごとに減少しているようなのです。これは道路の混雑具合には関係がなく、さまざまな技術が開発され、自動車の性能が格段に上がっているはずなのに、かえって人の輸送効率は悪化しているのです」

それはショッキングですね。なぜでしょう。

 「原因のひとつは大型車の速度規制でしょうね。それ以外で私の仮説は『人間が運転に熱心でなくなった』ことです。スピードを出すには運転に集中しないといけませんが、エンジンをめいっぱい回すような走り方はしなくなりました。一方、交通容量の減少と同時に搭乗者の死亡事故は明らかに減っていて、自動車の技術進歩は安全面に効果的だったことが分かります」
 「私が言いたいのは、自動運転は確かに自動車にとって重要な進歩だけれど、今の交通の仕組みの中に自動化をそのまま入れるだけでは、イノベーションにならないということです」 

プロフィール

おおぐち・たかし 1964年東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻博士課程修了。日産自動車総合研究所交通研究所を経て、95年東京都立大学工学部土木工学科講師。2000年同大学院助教授。首都大学東京准教授、教授を経て、11年より東京大学生産技術研究所次世代モビリティ研究センター教授、18年同センター長。専門は交通制御工学、交通容量、道路・街路計画設計、交通挙動解析、交通運用影響評価、モビリティシステムなどの研究に従事。警察庁規制速度決定の在り方に関する調査研究委員会など各種委員を多数務める。14年、高速道路サグ部等交通円滑化システムの開発で、国土技術総合政策研究所などとともに、内閣府第12回産学官連携功労者表彰国土交通大臣賞を受賞。主な著作に『平面交差の計画と設計 基礎編 -計画・設計・交通信号制御の手引-』(担当委員会・委員長)『交通渋滞徹底解剖』(編著・前著ともに丸善)『コンパクトシティ再考』(分担執筆・学芸出版社)などがある。