トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.1

テクノロジーは過疎を救うのか?

東京一極集中と過疎問題。地方都市が消滅するとも言われる。他方、自動運転車が過疎地域の人々を運ぶ足となり、ECで何でも注文でき、無人ドローンが荷物を運ぶ。5G普及で遠隔地勤務も容易になり、様々な働き方が生まれる。再生エネルギーにとって代わり、大量生産の優位性が薄れ、非中央集約型の分散型経済に。Society5.0において本当に地方は消滅するのか、逆に地方へ人口が回帰する、そんな可能性はないか。テクノロジーの可能性から、「過疎」を再定義していく。

Angle B

前編

ロボットが隣人になる社会

公開日:2018/12/4

ロボット工学者

(大阪大学教授)

石黒 浩

人工知能(AI)やロボットをはじめとする技術の急速な進展の一方で、人口減少や地方の過疎化といった構造的な課題に直面する日本―。50年、100年先を見据えた未来社会の姿をさまざまな視点で掘り下げる。第2弾は、哲学者のような感性で開発に挑むロボット工学者、石黒浩氏。ロボットと人間が共生する未来社会の姿とは。

自身を精巧に再現したアンドロイド登場は社会に衝撃を与えました。一貫して「人間らしさ」を追求したロボット開発に挑む背景には、「人間とは何か」という根源的な問いがあるそうですね。

  「研究の原点に『人の気持ちを考える』ことはどういうことなのかを解き明かしたいとの思いがあります。人間に酷似したロボット『エリカ』や柔らかいヒト型クッションを抱きしめながら遠隔地の相手と会話できる『ハグビー』をはじめ、これまでさまざまなロボットを開発してきました。その過程で、人間の関わりの中でロボットに求められる要素が浮き彫りになってきました」
 「例えばアンドロイドは、見る人にあえて想像の余地を残すことが人間に受容されるポイントです。例えば通信用ロボット『テレノイド』は人間として最低限の見かけと動きしか備えていないにも関わらず、むしろ生身の人間より話しやすいと言った反応があるといった発見もありました。適切な関係を保ちながらコミュニケーションができるロボットが開発されれば、人間社会の中でなくてはならない存在になるはずです」

人口減少社会においては、その「コミュニケーション」のあり方も変化してくると思います。まず、少子高齢化や人口減といった構造的な課題がいち早く顕在化する「地方の過疎化」の問題にはどんなイメージを抱きますか。

 「僕の田舎も人口は減る一方ですし、小学校も廃校になりましたが、悪いことばかりではありません。街全体がコンパクトに整い、以前より小ぎれいになった印象です。交通網の整備をはじめ移動手段さえ確保されれば逆に暮らしやすいとさえ感じますね。しかもコミュニケーションの問題は、『過疎化が進めば地域住民の交流が希薄なる』といった短絡的な話ではありません。都市部でソーシャルメディアにどっぷり漬かっていても孤独を感じる人は少なくないでしょう」

【過疎地の高齢者の生活支援にも挑む】

研究室で語る、石黒教授

過疎地の高齢者の生活支援という課題にはロボットと別のアプローチでも取り組んでいますね。

 「研究室の技術を基に開発された高齢者の生活支援アプリを提供するベンチャー企業エルブズに、非常勤取締役として参加してます。タブレット端末やスマートフォンの画面にキャラクターが登場し、高齢者が会話しながら、タクシーを呼んだり宅配弁当を注文できる『御用聞きAI』と呼ばれるものですが、僕の研究室と共同開発した対話ソフトが組み込まれています。京都府で唯一の村である南山城村や京丹後市、徳島県三好市などで地元自治体と組んで実証実験を行っています。事業として軌道に乗せるには乗り越えなければならない課題がまだあるのは事実です。例えば利用者からさまざまな要望が寄せられた時、果たして現状の予算やマンパワーで対応できるのか。サービスのインターフェース向上に比例して、行政側の業務改革も必要になってくるでしょう」

インターネットやスマートフォンが私たちの暮らしを大きく変えたように、情報化社会の先に「ロボット社会」が到来するのでしょうか。

 「人間とロボットが共生する社会を築くうえで乗り越えられなければならないハードルはふたつあります。安くて高性能なロボットを普及させることと、対話機能を持つロボットの開発です。先日、ある外国人記者から『日本は機械や産業用ロボットで高い技術を持つのに、なぜ街にはサービスを担う人があふれているんだ』と問われ、あらためて考えました。僕の答えは次の通りです。ひとつは就ける職種が限定される階級社会が色濃いようなところでは、特定の職種の無人化が一気に進みますが、日本はそうではない。あらゆる場面で高いホスピタリティを求める日本人の国民性も無縁でないでしょう。ゆえに日本は文化的な背景から、ロボットに対する受容性は他国よりも高いのですが、一方でロボットには最初から人間にホスピタリティのあるサービスを提供することが求められるのです」

対話型ロボットと言えば、石黒さんが企業と開発した「コミューとソータ」は音声認識なしに会話が成立していると知って驚きました。

 「『対話とは何か』という問題を考え直した結果、『会話している感』を与えればいいという発想に至りました。ロボット同士で勝手に話しているところに人間が加わると、あたかも一緒に会話しているような感覚になるのです。ロボットは人間に『どう思う』と尋ねますが、何を答えても『そっか』と言い、またロボット同士の会話に戻る。つまり相手の話を理解していないんですね。会議の席などで相手の話がよく分からなくても適当に相づちを打つことがありますよね。それと同じです」
 「新たな技術は常に、社会的受容性の問題を伴います。しかし、すでにロボットが人間以上の価値を発揮する場面は増えています。一方で、ロボットと共生する社会は『人間とは何か』という本質をあぶり出すのです」

いしぐろ・ひろし 1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。工学博士。大阪大学大学院基礎工学研究科教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究を通じ、「人間とは何か?」という基本問題を探求する。主な著書に「ロボットとは何か」(講談社)、「アンドロイドは人間になれるか」(文藝春秋)、「人間とロボットの法則」(日刊工業新聞社)など多数。
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