トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.48

気象データを制すものがビジネスを制す!?

「気温25度以上になるとビールやアイスクリームが売れる」「鍋が食べたくなるのは気温18度以下」。そんな話を聞いたことはありませんか。普段の生活でも、天気予報をチェックして服装を考えたり、傘などの持ち物を決めたりと、私たちの行動は思っている以上に天気や気温などに影響され、気象データに頼っている部分があります。2021年には、こうした気象データを分析し、ビジネスに活用するスキルを修得する「気象データアナリスト育成講座認定制度」がスタート。今回は、気象がどのように私たちの生活に関係し、気象データがどのようにビジネスに貢献できるのかを紹介したいと思います。

Angle A

前編

服装、手荷物、レジャーなど、天候で変わる私たちの生活

公開日:2024/1/23

タレント・俳優

武藤 十夢

晴れや雨、暑さ、寒さなど天候の変化は、食事や服装など、私たちの生活にさまざまな影響を与えています。そこで天気を予測し、人々がよりよい生活を送るためのナビゲーター役を務めているのが気象予報士。AKB48で活躍中に気象予報士の資格を取得した武藤十夢さんに、気象と生活との深い関係についてうかがいました。

武藤様は2019年に気象予報士の資格を取得されました。資格を取ろうと思われたきっかけを教えてください。

 高校生のときからAKB48で活動していましたが、当時は本当に自分に自信が持てませんでした。メンバーは歌、ダンス、トーク、演技と、いろいろなことができる人ばかり。じゃあ自分には何ができるだろうと悩んだ末、勉強系なら競合する人も少ないし、自分の武器になるのではないかと考えて資格取得を目指しました。
 気象予報士については「難易度が高い」と漠然と知っていた程度で、天気に興味があったというより、何か次の仕事につながればと思って選んだというのが正直なところです。参考書は買ったものの試験勉強のやり方がわからず、出演していたテレビ番組のスタッフに相談して、番組の1企画として資格取得に取り組ませていただくことになりました。気象予報士試験のための専門の塾に通わせていただいたり、個別指導の先生をつけてもらったりと、手厚くサポートしていただき本当に有難かったです。

当時は大学にも進学され、とても忙しい日々だったと思います。新たに資格の勉強まで加わることに不安はなかったのでしょうか。

 「自分には何もない」という不安や焦りの方が大きく、忙しくなることは気になりませんでした。勉強を始めたときはまだ10代で、「大学卒業までに取得できたら」くらいの気持ちでした。結局、取得できたのは大学ではなく、大学院を修了する直前になってしまいましたが。
 気象予報士試験は年2回実施されていて、学科試験と、気象データをもとに天気を予想する実技試験から成っています。学科試験に合格すると、1年間は学科試験が免除になりますが、その間に実技試験に合格しなければ、また一からやり直しになってしまうんです。

気象予報士試験の合格率がわずか5%前後というのも納得です。勉強は相当大変だったのではないですか。

 気象にまつわる多様な分野を学ぶのに加え、数学や物理など理系の知識も必要で、正直、難しかったです。私は数学は割と得意な方ですが、物理になじみがなくて苦労しました。
 その一方で、新しいことを学ぶ楽しさも感じていました。できなかった問題が解けるようになる達成感はもちろん、天気図に風の強さや台風の動きを描き込んだり、テレビの天気予報ではまず見ない高度1500m付近の高層天気図などをもとに、ここでなぜ雨が降っているのかを考えたり。情報を見ながら自分で天気を予測する面白さを知るとともに、気象予報士とはこれを一般の人にわかりやすく伝える仕事なのだと改めて理解できました。
 とはいえ、勉強するのがすごく好きだったわけではないんです。高校時代の私を知る友人は、私が資格を取って「インテリ枠」のような扱いでメディアに出ているのを見て不思議に思っているかもしれません(笑)。

8度目のチャレンジとなる2019年4月の試験で合格されました。諦めずに勉強を続けられた理由をお聞かせください。

 ポジティブに諦めずがんばったというより、「これを取得できないと、私には何もない」とネガティブな気持ちの方が近かったように思います。また、8度目の試験の後は長期にわたる仕事の予定がいくつもあり、すぐに9度目の試験を受けられない状況でした。お世話になった番組のスタッフや個別指導の先生のためにも、何とかここで形にしたいという気持ちも強かったです。
 この頃にはテレビ番組の企画自体は終わっていて、私は個人的に気象予報士試験のための塾に週4回くらいのペースで通っていました。友人と遊ぶのも控え、食事の誘いを「この2時間の勉強が足りずに試験に落ちたら」と、断ったことが何度もあります。
 塾と並行して参考書を読んだり、問題集を解いたりと、ひたすら地道に勉強し続けました。過去問は10年分くらいを繰り返し解きました。90分あれば、過去問を1問解いて解答の確認までできるんです。仕事中に待ち時間がある時は、学科の試験時間60分に合わせて問題を解き、答え合わせをしてレッスンに戻るということもよくしました。小さい頃から多くの習い事をしていましたし、ずっと仕事と勉強を両立させてきたことで、意識の切り替えに慣れていたのがよかったのかもしれません。

資格を取得したことで、何か変化はありましたか。

 自分で勉強を始めるまでは、「気象予報士とはテレビで天気を伝える人」というイメージしかありませんでした。でも実際は、気象庁が提供する専門的な天気図などを参考に天気を予測し、番組などで伝えるための原稿も書く、業務範囲の広い、責任の重い仕事だとわかりました。
 また、「今日は寒くなる? どんな服を着たらいい?」「紅葉が見頃の時期を教えて」など、友人から天気に関わることを質問されるようにもなりました。私の回答次第では、紅葉を見に行く予定が変更されたりするわけで、天気が人の行動に与える影響の大きさを改めて感じています。私自身も「今日は風が強くなるからスカートはやめておこう」「にわか雨の予想だけど降る時間帯は屋内にいるから大丈夫」というように、自分の行動と天気の予想を重ねて考えることが増えました。

気象予報士の資格を取得して良かったことを教えてください。

 気象は世界中の人が興味を持つテーマで、それに関連した情報を広く発信できる立場になれたことで自分に少し自信を持てるようになりました。ニュース番組のお天気コーナーも担当させていただき、自分の努力で仕事が生まれたり、仕事の幅を広げたりできるということを体験できたのも嬉しかったです。知らなかった知識を身に付け、それが新たな仕事やこれまでとは違う分野の仕事につながっていくことが、今は楽しくて仕方ありません。

むとう・とむ タレント・俳優。東京都出身。2011年にAKB48研究生となり、2015年からチームKメンバーとして活動。2023年3月にAKB48を卒業する。芸能活動と並行して成城大学経済学部で学び、同大学大学院経済学修士課程に進学。2020年修了。2019年に気象予報士の資格を取得し、その後、防災士、ファイナンシャル・プランニング技能士2級(国家資格)、AFP資格(日本FP協会認定)、SDGs検定などの試験にも合格する。現在はテレビの情報番組でコメンテーターを務めるほか、CM・広告、テレビドラマ、映画、舞台など幅広く活躍。資格に関連して気象や投資、SDGsについての講演会やシンポジウムに呼ばれることも多い。
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