トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.42

ドローンで変わる!? 日本社会の未来像

2022年12月5日、ドローンの国家資格制度がスタートするとともに「レベル4」飛行が解禁となりました。これは、人がいる場所でも操縦者の目視外での飛行が可能ということ。今まで認められていなかった市街地上空を通るルートでの長距離飛行もできるようになり、運送業界をはじめ、さまざまな業界からの注目度が高まっています。そんなドローンの開発・活用の最前線にいらっしゃる方々に、日本におけるドローンの現状、今後の課題などについてお話をうかがいました。
無人航空機(ドローン)の新制度についての詳細はこちらをご参照ください。
(国土交通省無人航空機総合窓口サイト https://www.mlit.go.jp/koku/info/index.html)

Angle B

後編

レベル4飛行で始まる空の産業革命

公開日:2023/2/24

一般財団法人 先端ロボティクス財団 理事長/千葉大学名誉教授

野波 健蔵

2022年12月、改正航空法によりドローンに国家資格が導入されました。その肝は、条件付きながらも有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行ができる「レベル4飛行」の解禁。今回の改正を「ドローン新時代への突入」と評価する野波さんに、レベル4飛行の内容や現状、そして未来のドローンの姿について語っていただきました。

ドローンの「レベル4飛行」について教えてください。

 「レベル1飛行」は操縦者の目視内、つまり目で見える範囲内で人が操縦してドローンを飛ばすことです。「レベル2飛行」は、目視内だけど人は操縦せず、コンピュータ制御された自律飛行。「レベル3飛行」は人の目で捉えきれないはるか遠くへも飛ばせる目視外飛行です。ただし、飛ばせるのは人がいないところに限られます。
 2022年12月5日から認められた「レベル4飛行」は第三者上空、つまりまったく関係のない人の上でも補助者なし目視外飛行が可能です。人の財産や生命に関わる可能性があることから、機体の安全性に関する認証と操縦者の技能に関する証明、つまり国家資格が必須になりました。レベル3飛行までとは決定的に違い、まさにドローンは新時代に突入したと言えます。

レベル4飛行では都市の上空を飛べるということですか。

 さすがに、いきなり東京都心の街中を飛ぶようなことは想定していません。まずは人口密集地ではない地方の中・小都市で、かつ、飛行ルートは河川の上空などをメインに設定します。ただ、目的地にたどり着くには道路や鉄道など人がいる場所も横切らざるを得ませんから、「その場合は有人でも認めましょう」という感じです。

レベル4飛行には国家資格が必須とのことですが、機体にも条件があるのでしょうか。

 機体の条件は、重さが25kg以下で機体認証書の交付を受けている、つまり、万一の際の安全基準を満たしていることになります。たとえば、異常を検知できるセンサーなどのセキュリティ機能を持ち、いざという時にはパラシュート等を展開して落下時の衝撃を抑えることができる。オートパイロットシステム内に独立した2系統を持つなど、冗長化(※)により1つが故障しても飛行を継続することができる……といった備えです。賠償リスクを負うことになりますから、保険に入ることも大切です。
 ※システムや設備の故障に備えて同一のスペアを用意しておくこと。

そのパラシュートというのは、ドローンが自ら判断して展開するのですか。

 ドローン自身で判断する場合もあるし、オペレーターが指令を出す場合もあります。自ら障害物を回避して飛ぶことも、今のドローンはできますよ。でも、「このまま飛んだら危険だから安全なあそこに着陸しよう」と判断できるほどの知性は、現状ではありません。自律性への道はまだ半ばです。
 海外はその状態でドローンを飛ばしていて、すでに物流に活用しているところもあります。今回のレベル4飛行の解禁は、そうした世界の趨勢(すうせい)を見極めてのものです。まずは世の中のニーズに応えることを目指し、問題があればそこでもう一回考えようというフレキシブルなやり方で、日本もドローンの活用を進めようとしているのです。

確かに、実際に使うことで見えてくるリスクや課題もありますね。

 だいたい技術とルールとでは、技術が先を行くものなのです。車の自動運転も電気自動車もドローンも、早い者勝ちでどんどん世の中に出て行って、ヒットして、皆が使用するようになると課題が出てきて、そろそろルールを厳密にしなくては……となる。もちろん、これまでは不可だった有人地帯での目視外飛行のリスクを決して軽く考えてはいけないと思います。しかし、さらなる進化を実現するためにも、一歩を踏み出す時がきたのだと思います。

野波さんはレベル4飛行を想定したドローン物流の実証実験も行ってきました。

 交通渋滞や自動車によるCO2排出といった課題を軽減するツールとして、政府もドローン物流の推進を提言しています。レベル4飛行でその実現に近づけるということで、2021年と2022年、東京湾上の超低空域にドローン物流ハイウェイを構築することを想定して、横浜市から千葉市への約 50kmでレベル3飛行による実証実験を行いました。2021年の実証実験では、都市部における目視外、補助者なしの長距離飛行に初めて成功。2022年の実証実験では、準天頂衛星「みちびき」の高精度な位置情報を利用することで、離陸から着陸まで人の手を介さない自律飛行に成功し、誰でも安全に利用できるドローン物流の実現に一歩近づきました。

2021年6月21日に行われた物流ドローンによる実証実験風景。横浜市を飛び立ってから1時間程度で約50㎞先の千葉市に到着。

ドローン物流を本格化する上での課題について教えてください。

 ひとつは採算性です。現在、国内の物流におけるドローン活用例は、離島や山間部で行われる行政主導や助成金を使ったプロジェクトがほとんどです。それを否定はしませんが、やはり産業とは、民間企業が自立して展開させ、税金が行政に入るという循環で育てるべきものだと思います。ちゃんと採算が取れて環境負荷も少ないドローン物流の成功例を首都圏で作り、ドローン産業の足がかりにしたい。その信念で実証実験に取り組み、ビジネスモデルを考えています。
 また、実証実験でドローンステーション(※)に自律飛行で着陸させることはできましたが、その先にどうやって届けるかも問題です。車を使わず、ドア to ドアで届けるためにはまた別のドローンステーションを作る必要があるでしょうし、課題はまだまだあります。
 ※あらゆるドローンが利用可能な離発着地。

2022年3月24日に行われた実証実験において、箱型のドローンステーションに着陸した物流ドローン。この時の実験では、箱の中に運んできた荷物を入れて一時保管、自動運転車両が集荷に来て配送する流れを想定。

今後、ドローンはどのように展開していくとお考えですか。

 注目度が高いのは「空飛ぶクルマ eVTOL(イーヴイトール)」です。パッセンジャードローンとも呼びます。最大7~8人を乗せて電動で垂直に離発着し、300kmから500km程度の移動に運用することが想定されています。
 なぜこの距離かというと、飛行機のコストパフォーマンスが高いのは1000km以上の移動で、500kmだと効率が悪い。ドライブは300kmでも相当疲れます。車だと遠すぎる、けれど飛行機だと近すぎる、その空白地帯を埋めるのがドローンというわけです。日本は狭い国で鉄道も発達していますが、隣町まで100km以上という状態が珍しくないアメリカなどではニーズがあり、都市向けの航空サービスとして現実味を帯びています。
 当然、これは小型ではなく大型です。産業用の大型無人航空機としてクリアすべきハードルは高いですが、実は、海外ではすでに実証実験を行っており、実用化目前です。2025年の大阪万博で、欧米や中国の世界的なドローン企業が初飛行をお披露目するのではと言われています。大阪万博で世界に紹介して、このビジネスを加速していこうというプランなのだと思います。

「空飛ぶクルマ」のイメージ(©SkyDrive)

ドローンビジネスは日々刻々と進化中なのですね。最後に、ドローンが当たり前になる時代を担う若い方たちにメッセージをお願いします。

 私たちが初めてドローンの自律飛行に成功した2001年8月1日は、蝉の声が響く暑い日でした。私たちが息を詰めて見つめる中、小型無人ヘリはエンジンスタートして約10m上昇、1辺10mの四角形を経路通りに飛行し、元の離陸地点に着陸しました。完璧な自律飛行を遂げたその瞬間、私は学問への畏敬の念に打たれました。理論的アプローチが正しければ物理現象は予想通りになる、そのことにあらためて感動したのです。困難があろうとも自分のテーマを追求し続ければ、強烈な体験や幸せな瞬間はきっと訪れます。
 今の日本の若い人は、私の若い頃と違って比較的恵まれていますから、渇望する経験を持ちにくいかもしれません。それでも、現状に満足せず、好奇心を持って冒険に出かけてほしいと思います。

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