トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.46
命を守る第一歩!すぐにでも自分でできる地震への備えとは?
世界有数の地震多発国・日本。マグニチュード6.0以上の地震の約20%は日本周辺で発生しており、ここ30年の間だけでも「阪神・淡路大震災」「東日本大震災」などの大きな地震が起こっています。その上、マグニチュード7~9と予測される「首都直下地震」「南海トラフ地震」の今後30年以内の発生確率はいずれも70%以上。1923年9月1日に起きた「関東大震災」から100年目となる今年、来るべき大震災から命を守るために、今私たちができること、すべきことは何かを、専門家や被災経験者の方のインタビューを通して考えます。
前編
「誰かが何とかしてくれる」は、災害時には通用しない
公開日:2023/9/5
気象予報士・防災士
蓬莱 大介
前編
関東から九州の広い範囲に被害が及ぶと想定される南海トラフ地震、東京都を含む南関東地域を震源として発生する首都直下地震は、いずれも今後30年以内に発生する確率が約70%とされています。地震多発国・日本では、被災後の適切な行動によって被害を軽減させることが重要です。そこで、ご自身も阪神・淡路大震災を経験され、防災士の資格をお持ちの気象予報士・蓬莱大介さんに、こうした地震がもたらす被害や地震後にとるべき行動をうかがいました。
蓬莱さんは気象予報士と防災士の資格をお持ちです。なぜ、取得しようと思われたのでしょうか。
もともとタレント活動をしていたのですが、アピールポイントのひとつになればと、最初は軽い気持ちで気象予報士の勉強を始めました。でも、学ぶほどに気象予報は生活に密着した情報であり、人の命にも関わる重要な情報だと気づきました。とてもタレント業の片手間にはできないと感じ、気象予報士を本格的に目指すことにしたのです。勉強を続けるうちに、どうしたら災害時に被害を抑えられるか、適切に情報を伝えられるかなども知る必要があると考えるようになり、防災士の資格も目指すようになりました。
2009年に気象予報士に合格した後、すぐに防災士の資格も取得しましたが、取得後10年を機に災害に関する知識をアップデートしたいと考え、防災士の資格は一度返上しています。2020年に再受験して合格しましたが、10年の間に災害に関する法律も変わり、防災の考え方も更新されていましたので、取得し直してよかったと思います。
気象予報士に合格後、テレビ番組の裏方の仕事を経て、2011年に読売テレビの気象キャスターに就任されたとか。
2011年3月28日に前任者から気象キャスターを引き継ぎました。3月11日の東北地方太平洋沖地震、いわゆる東日本大震災から2週間ほど後でしたので、地震が起きてしばらくの間は、これほど大きな災害に対して、気象キャスターとして、また防災士として何ができるのだろうと考えさせられました。
震度3~4程度の地震なら1週間と間を置かずに起き、世界のマグニチュード6.0以上の地震の約2割が起こっているとされる国、それが日本です。自然の脅威に対して謙虚になり、視聴者の方に「日本は世界有数の地震多発国」という意識を持って地震に備えてもらえるような、少しでも減災につながるような報道をしていきたいと思います。
災害報道において、特に気を付けていらっしゃることはありますか。
災害について危ないことは危ないときちんと伝える一方で、番組の演出が過剰だと感じたり、優先順位が低い情報を求められたりしたときは、それに安易に乗らないよう注意しています。災害後の報道で優先すべきは被災地にとっての情報で、例えば、雨が降りそうなら土砂崩れに対する注意喚起や降るタイミング、暑くなるときは熱中症のリスクなどだと思うのです。テレビを観ている皆さんに、「普段はくだけた感じで番組をやっているけど、いざというときは頼りになるな」と思っていただけるとうれしいです。
蓬莱さんは1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災を経験されたそうですが、どのような状況だったのでしょう。
神戸市の西にある明石市に住んでいたのですが、自宅が半壊する等の被害を受けました。小学5年生だった私にとっては、「この地域で大地震が起きるなんて」と、全く想定外の出来事でした。後日、神戸市から明石市に避難してきた方のお話をうかがう機会があり、「倒壊した家屋に挟まれた親御さんが、火の手が迫る中、お子さんに逃げるよう必死に叫んでいて、お子さんだけ助かった」など、当時の神戸市内の凄まじい状況を知りました。実際、阪神・淡路大震災で亡くなった方の8割以上は、家屋の倒壊が原因とされています(※)。こうした話などから痛感したのは、「災害が大きくなるほど、公的な助けは遅くなる」という現実です。救助すべき人が増える一方で、道路の寸断等で支援は届きにくくなってしまう。災害時に自分の身を自分で守れるようにしておくことの必要性、近所の人同士で助け合うことの重要性を実感しました。
※内閣府『平成16年版 防災白書』(図4 阪神・淡路大震災の犠牲者8割が窒息死圧死 : 防災情報のページ - 内閣府)
他の震災でも、建物の倒壊による被害が多かったのでしょうか。
2016年の熊本地震は、「起きると思われていなかった地域で起きた」という点で、阪神・淡路大震災と似ているかもしれません。しかし、被災者が亡くなられた主な原因が大きく違い、熊本地震では多くが災害関連死でした(※)。地震直後ではなく、避難所でのストレスや持病の悪化、車中泊によるエコノミークラス症候群などの要因で亡くなられていて、防災士の資格を持つキャスターとして、お伝えする内容によって防げたケースもあったのではないかと今も考えてしまいます。
※熊本県 熊本災害デジタルアーカイブ 熊本地震の経験・教訓 あなたの暮らしを守るために ー「平成28年熊本地震」の検証からー
先ほど蓬莱さんは「自分の身を自分で守れるようにしておく」とおっしゃいましたが、災害対策は自分で備える「自助」が前提になるということでしょうか。
テレビなどで、自衛隊の給水活動や自治体による避難所での食料配布などを見ているせいか、「地震が起きても誰かが何とかしてくれる」と思う方は多いかもしれません。しかし、そうした支援が自分が住む地域ですぐに行われるとは限りませんから、自分の身は自分で守れるよう備えておくことが大切です。
また、地震が起きた後にどう行動するかは、確かな情報をもとに、自分または家族で考えて決めることになります。「皆が避難しないから、自分たちも避難しなくて大丈夫」というものではありません。自分が危ないと感じたなら避難する。行動の自主性や迅速さが生命を救うことにつながります。
ただ、できれば被災した方同士の助け合いも大切にしてほしいです。阪神・淡路大震災では、生き埋めになった人を助けたのは、ほとんどが家族や友人、近所の方でした(※)。できれば普段から近所の方、同じマンションの方とあいさつを交わし、顔見知りになっておきたいもの。そうすれば、万一の時も迅速に声をかけ合い、助け合うことができると思います。
※内閣府『平成30年版 防災白書』(平成30年版 防災白書|図表1-1-1 阪神・淡路大震災における生き埋めや閉じ込められた際の救助主体等 : 防災情報のページ - 内閣府 )
地震が起きた後、行動の指針となるような「確かな情報」はどうすれば入手できますか。
停電することを前提に考えると、リアルタイムで情報が得られるのはポータブルラジオかスマートフォンでしょう。地震後は、SNSによる情報提供・情報共有が一気に増えると思いますが、その中にはフェイクニュースも混じっていることに注意しなければなりません。情報を拡散した人は善意や正義感で行ったとしても、元の情報が誤っていることも考えられます。たとえ著名人や研究者、大学教授などからの情報だったとしても、その方が地震や防災の専門家ではないのでしたら、鵜吞みにしないようにしたいもの。地震など災害関連の情報はむやみに拡散しないことをおすすめします。
地震後のSNSからの情報は、正確な情報を発信するところからだけ得るようにしましょう。具体的には「内閣府防災」、「首相官邸(災害・危機管理情報)」、「総務省消防庁」、「気象庁防災情報」などの公式アカウントです。また、お住まいの自治体が持つ防災関係のSNSアカウントが、避難所の開設状況など地域の情報を知らせてくれますので、情報源は必要以上に増やす必要はありません。
他には、NHKのニュースサイトの「気象・災害」カテゴリーに情報がまとまっており、防災の知識を学ぶページも充実しています。Yahoo!Japanの「天気・災害」カテゴリーも情報がまとまっていて活用しやすいと思います。
※国土交通省「防災ポータル」
https://www.mlit.go.jp/river/bousai/olympic/
※後編は9月12日(火)配信予定
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