トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.49

日本を支える豊かな大地!共に北海道の未来を創る!

雄大な自然に絶品グルメと、国内外のツーリストから高い人気を誇る北海道。観光立国・日本を牽引する存在といえますが、北海道の日本での役割はこれだけにとどまりません。たとえば、食料の安定的な供給を確保する食料安全保障、2050年を目標としたカーボンニュートラルなど、実現のカギは北海道にあるのです!北海道の資源や特性を活かして我が国の課題解決を図るため、国は1951年から「北海道総合開発計画」を策定し、さまざまな取組を進めてきました。令和6年度から新たに「第9期北海道総合開発計画」がスタートします。豊かな資源に恵まれた北海道が、私たちの暮らしにどう関わっているのか、この機会にぜひチェックしてみてください。

Angle B

後編

グリーン×デジタルで、持続可能な社会を実現!

公開日:2024/3/19

北海道知事

鈴木 直道

「ゼロカーボン北海道」はカーボンニュートラルの実現のみならず、経済の活性化を両輪とする持続可能な社会づくりへの挑戦です。経済発展の起爆剤として、2022年11月に鈴木知事が打ち出したのが「北海道データセンターパーク」です。後編では、その内容等についてお話しいただくともに、「ゼロカーボン北海道」の実現がどのように我が国の発展につながるのかをうかがいました。

「北海道データセンターパーク」とはどのようなものでしょうか。

 北海道の豊富な再生可能エネルギーを活用して、省エネ・カーボンニュートラルのデータセンター、そのデータセンターを利用するデジタル関連企業、デジタル関連人材、以上3つの集積を目指すものです。
 我が国が直面する少子高齢化にともなう生産人口の減少、産業の生産性・賃金水準の長期的な低迷、地方の過疎化、といった社会課題の解決のみならず、国際競争力の強化や経済安全保障の観点からもデジタル技術の活用は必要不可欠です。特に社会課題に関しては、北海道は全国より10年早い人口減少、過疎化などの問題を抱える「課題先進地」です。デジタルによる社会課題の解決の余地が大きいことが、この「北海道データセンターパーク」を打ち出すに至った理由のひとつです。
 豊富な再生可能エネルギーに加え、冷涼な気候や首都圏等との同時被災リスクの低さといった優位性もあり、それらを最大限活かしながらデジタル関連産業の一大拠点を形成することは、道内経済の活性化と雇用創出、さらには我が国の経済安全保障の貢献につながると考えています。

■デジタル関連産業の集積に向けた推進方向

出典:北海道庁

何か具体的な取組は始まっていますか。

 2023年7月に、データセンター、国際海底通信ケーブルなどのデジタルインフラを核として、それらを活用するAIやクラウドサービス、自動運転やドローン、スマート農林水産業、スマートインフラといった、多様で革新的なデジタル関連産業の集積に向けた「推進方向」を取りまとめました。まず石狩・札幌・千歳・苫小牧といった道央エリアを軸にデータセンター等のデジタルインフラを面的に整備し、それをハブに全道にデジタルインフラを拡大していきたいと考えています。
 また、政府が国家プロジェクトとして進める次世代半導体の量産製造を目指すラピダス社(Rapidus株式会社)の工場の建設地が、2023年2月に千歳市に決定しました。ラピダス社は、次世代半導体の自国量産をめざし、国内トップの技術者を結集して設立された会社です。すでに工事は始まっており、2025年にはパイロット(試作)ラインが稼働予定です。コロナ禍において、半導体の供給不足により、日本の基幹産業である自動車産業が大打撃を受けたことは記憶に新しいですが、半導体はスマホやパソコン、家電など私たちの身近にある電気を使うあらゆる製品に使われています。そのため、半導体の自国生産による安定確保を図ることが、経済の安全保障に不可欠です。

ラピダス社は、2027年に次世代半導体の量産化をめざしているとうかがいました。従来の半導体とどこが違うのですか。

 ラピダス社が作ろうとしているのは回路線幅が2ナノメートル以下の半導体です(1ナノメートル=10億分の1メートル、髪の毛の太さの5万分の1)。現在、世界でもごく一部の企業が製造に成功している7ナノメートル半導体と比較して、エネルギー使用効率を最大75%向上できると試算されています。
 実は、カーボンニュートラルを実現しつつ経済成長を図る上で、大きな問題になるのがデータと電力の関係です。いまは動画も4K対応など本当にクリアになりましたが、それは爆発的にデータ使用量が増えたということでもあります。国内のデータの流通量は今後10年で30倍以上に増えると予測されていますが(※)、さらに100倍、1000倍となった時、発電した電力すべてをデータセンターで消費したとしても電力が足りなくなるでしょう。その時のポイントとなるのが省エネで高性能の次世代半導体であり、電力の使用量を抑制しながら、進化するデジタル技術を社会実装するために不可欠のピースなのです。
 ※出典:経済産業省「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合第1回資料」

千歳市に建設中のラピダス社の半導体工場(イメージ)

次世代半導体は、「ゼロカーボン北海道」実現のキーテクノロジーということですね。他にはどのような取組をお考えでしょうか。

 GX投資(※1)も積極的に呼び込んでいく考えです。そのために、2023年6月に産学官金のコンソーシアム(共同事業体)「Team Sapporo-Hokkaido」を設立しました。札幌市と北海道が中心になり、官公庁や金融機関、大学、エネルギー事業者などの21機関で構成されています。国内随一の再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に活用して、世界中からGXに関する資金・人材・情報が集積する「アジア・世界の金融センター」をめざし、今後、40兆円規模のGX投資を目標としています。
 直近では、「北海道・札幌 GX・金融特区」の設立に向けた支援や、GX推進機構(※2)の一部機能の札幌移転などを、札幌市の秋元克広市長とともに岸田総理に要望したところです。引き続きコンソーシアムのメンバーと意見交換を重ね、その知見も活かしながら、北海道にできる限り多くのGX投資を呼び込み、「ゼロカーボン北海道」の実現や本道経済の発展につなげていきたいと考えています。
 ※1 GXはグリーントランスフォーメーションの略。化石燃料中心の産業や社会構造を、クリーンエネルギー中心の社会へと転換するための官民による投資のことで、今後10年間で150兆円との試算がある。
 ※2 民間企業のGX投資の支援などを目的として、GX推進法に基づき経済産業大臣の認可により設立される認可法人。

北海道の意気込みを改めて感じています。

 「ゼロカーボン北海道」は2021年6月に閣議決定された国の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2022)に明記されています。これに伴い、「ゼロカーボン北海道」の取組を一元的に推進するため、国においてタスクフォースが設置されました。
 北海道としても、国と連携しカーボンニュートラルに向けた国や北海道のさまざまな支援措置等について、市町村や関係団体への情報提供を行うとともに、相談窓口を設置するなど、支援を強化しています。今後、北海道が脱炭素エネルギーの基地として存在感を増すとともに、持続可能な環境と経済・社会の好循環を実現することにより、我が国のみならず世界に貢献していきたいと考えています。

国が策定する「北海道総合開発計画」には、北海道の産業振興施策が盛り込まれています。

 「北海道総合開発計画」の策定においては、私も、議論の場である国土審議会北海道開発分科会に特別委員として参画しているほか、国に要望を行いつつ協力しています。
 私は「エネルギー」、「デジタル」、「食」の観点で、北海道の役割が今後、より重要になってくるとよく話をしますが、これは北海道のためだけに限りません。環境・経済・社会の好循環を日本で実現する上で、北海道は先導役を期待されていると感じています。脱炭素化に取り組みながらもこれまでの暮らしを守り、かつ利便性を高めていく。半導体の安定確保を基盤に経済を維持・活性化させ、生産性を向上させる。デジタル技術を実装するためにGX投資を呼び込んでいく。47都道府県がカーボンニュートラル実現に向けて取り組む中で、「ゼロカーボン北海道」だけが骨太の方針に記載されている意義は、こうした施策の波及効果にあると私は理解しています。

最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

 カーボンニュートラル実現のために私たちが今すぐできることは、マイボトルを持ち歩いてプラスチックごみを減らす、服を長く大切に着る、地元の旬の食材を食べる、といった行動です。一つひとつは小さなことですが、その積み重ねが環境を守り、持続可能な社会づくりにつながっていきます。ぜひ一緒に取り組んでいきましょう。

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