トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.9

天気予報は「ニッポンの未来予報」!

誰もが気にする天気予報。今、天気予報に熱い視線が注がれている。観測技術の発達や人工知能(AI)、データ分析技術の進化とともに、天気予報をはじめとする気象データの利用が広がる。産業の3分の1が天候に左右されるといわれ、気象データは、幅広い業種に新たな価値を生み出す可能性を持つ。気象データの活用などに向けて気象庁は、気象ビジネス推進コンソーシアムを立ち上げた。気象データからどんな未来が開けるのか。ニッポンの天気の最前線を追う。

Angle C

後編

AI技術を活用 天候を私たちの財産に

公開日:2019/8/30

気象庁

長官

関田 康雄

今後、成長が期待される日本の「気象ビジネス市場」。気象データのビジネス利用の可能性を広げるため産学官の連携も生まれている。気象庁長官の関田康雄氏に気象データから始まるビジネスの未来を聞く。

日本の気象ビジネス市場の新たな動きとは。

 気象ビジネス市場の創出に向けて、気象庁は2017年3月に「気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)」を設立しました。産業界や学界と連携し、気象データの高度利用を進めるうえでの課題解決に取り組んでいます。また、気象データを提供する企業、気象データをビジネスに活用したい企業、データ分析やシステム構築が得意な企業などが集結し、気象データを活用した新たなビジネスの共創を目指しています。
 WXBCでは、まず気象情報にはどのようなデータがあるかを知ってもらい、気象データを活用したビジネスの先進事例を紹介しているほか、独特なデータ形式でも扱えるように人材育成にも注力し、各地でセミナーを行っています。「気象データを使ったビジネスがしたい企業」といったニーズ側と、「気象やデータ分析の専門家」といったシーズ側はもともと接点が少ないことから、ニーズ側とシーズ側をつないで新たなビジネスが生まれる環境も整えていきます。WXBCの会員数は設立当初の215から現在661と大きく伸び、産業界の気象データに対する期待の大きさを実感しています。

【気象データを活用したビジネス市場の創出に期待が高まる】

気象データのビジネス活用のねらいとは。

 気象データを活用した気象ビジネス市場の創出は、国土交通省の「生産性革命プロジェクト」の一環でもあります。IoTやAIといった技術が進展し、気象データの利用が幅広い産業の生産性の向上につながるとされているのです。「気象データをビジネスに応用することで生産性が上がる」という認識を広めていきたいと考えています。
 気象庁も精度の高い気象データを生産できるようになりました。気象データをフルに活用するためには、ビッグデータやAIにかかわる専門の情報処理技術がとても重要です。WXBCには、大学や研究機関などこうした分野の先端技術に詳しい方々に参加してもらっています。こうした方々と、気象データを扱っていなかった事業者の方々とがコラボレーションして、新たなアイデアが生まれ、気象データの新たな活用や発展にもつながると考えています。

気象データの活用で注目されるのは。

 米IBMはAIの「ワトソン」を気象予測に利用しています。IBMは、2016年初めには、米民間気象予報会社のザ・ウェザー・カンパニーからデータ事業部門などを買収しました。気象予報データと顧客が保有する多様な業務データを掛け合わせることで、顧客の事業と気象との相関を解析するため、「ワトソン」に気象データを学習させることがねらいです。
 実際、アメリカの気象会社の売り上げは日本に比べてケタ違いに大きく、日本の市場規模はまだまだ小さいと言わざるを得ません。また、特殊なケースとしては、英国気象局では日本における民間気象事業者の役割の一部を担う部門があり、気象予報だけでなく、気象予報を使ったコンサルティング事業を行っています。気象の現象予測にとどまらず、気象の予測に基づいて、例えば航空会社に対して航空機の運航についてアドバイスをするなど、気象データのさまざまな活用法を示しているのです。もちろん、英国気象局の組織形態は日本の気象庁とは違うため、単純比較はできませんが、気象データを活用する分野で、気象庁も民間事業者も、まだまだできることがあるのではないかと感じています。

産業界で気象データへの関心が高まっている理由とは。

 やはりキーワードは、AIではないかと思います。これまでいろいろな気象データを活用してきましたが、人間が普通に想像できる範囲での活用以上のことはできませんでした。それがAIで用いられるディープラーニングなどを活用することによって、大きな成果が期待できるようになってきたのです。これにより、ビジネス界からも「気象データを使ったらもっと生産性が上がるのではないか」「効率的にいろいろな業務ができるのではないか」という機運が高まってきたのではないかとみています。気象庁としてもまさにそうした意識、認識を持っています。
 AIを活用することによって、気象庁が行っている気象業務自体も、より高度化できると思います。理化学研究所革新知能統合研究センターとも連携して、気象観測データの効率的な品質管理や台風の急発達予測へのAIの活用について、共同研究を進めています。また、コンピューターが計算した予測結果を最終的に天気予報に反映させるという作業についても、最新のAI技術によってより高度化することができると考えています。そうした中で、気象庁内部でもAIに長けた人材の育成を図ることができると考えています。(了)

 大ヒット中の映画『天気の子』の新海誠監督は、「四季の移り変わりや天気は、情緒というより人間が備えるべきものになってきた」と日本の気候変化を語る。同時に、「人間のテクノロジーで(気象において)もう一つの地球を再現できることになる」と気象AIの可能性に思いを巡らせた。ルグランの泉浩人代表取締役CEOは、気象ビッグデータとAIを活用することで新たなビジネスが生まれ、個人の生活も変わるという。キーワードは、気象ビッグデータとAIだ。気象庁の関田康雄長官は「天気、気象が人間にとってプラス要因、恵みとなる社会を築いていきたい」と締めくくった。それぞれの立場から、天気と気象への思いは尽きない。
 次号のテーマは、若者の海外旅行です。海外から旅行で日本を訪れる外国人が増加する一方で、日本の若者の海外旅行者数は横ばい基調から抜け切れていません。その理由や背景を考察します。(Grasp編集部)

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