トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.48

気象データを制すものがビジネスを制す!?

「気温25度以上になるとビールやアイスクリームが売れる」「鍋が食べたくなるのは気温18度以下」。そんな話を聞いたことはありませんか。普段の生活でも、天気予報をチェックして服装を考えたり、傘などの持ち物を決めたりと、私たちの行動は思っている以上に天気や気温などに影響され、気象データに頼っている部分があります。2021年には、こうした気象データを分析し、ビジネスに活用するスキルを修得する「気象データアナリスト育成講座認定制度」がスタート。今回は、気象がどのように私たちの生活に関係し、気象データがどのようにビジネスに貢献できるのかを紹介したいと思います。

Angle A

後編

企業の成長、リスクなど、気象の知識からビジネスを読む

公開日:2024/1/26

タレント・俳優

武藤 十夢

気象予報士の資格取得後、気象キャスターを経て、現在はテレビの情報番組でコメンテーターも務めるなど、活躍の場をどんどん広げている武藤十夢さん。金融関係の資格も取得し、投資の観点から気象と企業の業績をつなぐ糸口を見つけたいと思ったそうです。気象データをビジネスに活用しようという気象庁の動きともリンクする、そのユニークな考えが生まれた経緯をうかがいました。

気象予報士の資格取得後、インターネットテレビ局の「ABEMA Morning」で金曜日のお天気コーナーのキャスターを担当されました。当時のご経験についてお聞かせください。

 気象予報士の勉強を始めたときから気象キャスターをやってみたいと思っていたので、ABEMAのスタッフからのお誘いはうれしかったです。AKB48の番組で私の個別指導を最初に担当された先生がABEMAの番組に出演されていて、私のことを話していただいていたようなんです。先生には「ABEMA Morning」のお天気コーナーが始まる数週間前から、改めて原稿の構成や書き方、読み方などを教わることができ、とても感謝しています。
 番組は朝7時のスタートですが、私は早朝3時過ぎに局に入り、5時頃までに天気図を参考に当日の天気を検討し、原稿を書くなど準備していました。その後、メイクや着替えを済ませてリハーサル、本番という流れで、忙しかったですがとても充実していました。

番組で気象予報士として天気の情報を伝えるときは、どんな点に注意されていましたか。

 大雨や大雪をはじめ、災害を引き起こしかねない警報情報は丁寧にしっかり伝えようと意識していました。実は、警報が出ても実際にはあまり降らないこともあるため、警報を強調して伝えるのは何となく苦手でした。しかし、先生から「警報の通りにならないこともあるけれど、本当に危険なことが起こる場合を考えて、毎回きちんと伝えないといけない」とアドバイスいただき、以降、心掛けるようになりました。
 警報に限らず、晴れや雨、暑さや寒さなど、天候の変化によって人々の行動は変わるため、天気の予測をわかりやすく伝える気象予報士の仕事は本当に重要だと感じています。資格を取得したばかりの頃は正直、「なぜ、服装のことまで紹介しないといけないのか」と思いましたが、気象キャスターを務める中で、桜の開花や紅葉の時期、花粉症への警戒、気温と服装の関係といった生活情報も大切だとわかり、積極的に取り上げるようになりました。

「ABEMA Morning」のお天気コーナーは終わりましたが、Xでは天気予報を毎日投稿されています。

 2019年に気象予報士の資格を取った後、2020年には新型コロナウイルスが広がり、行動が制限されるようになりました。自分から発信する機会が減るのは寂しいと思って、毎日の天気について投稿したのが始まりです。私の投稿で天気を確認される方もいらっしゃるようで、うれしいです。それに、体調を崩したりして天気図をしばらく見ないでいると、次に見たときにブランクを感じるというか、前からの流れがつかめずパッと理解できないことがあります。Xでの情報発信は、天気の変化を切れ目なく追うという意味で、自分にもすごく役立ってます。

武藤十夢さんのXでの天気予報

気象予報士として、今後の目標を教えてください。

 いずれどこかの番組で天気コーナーを持つのが目標です。天気図を読んで原稿をつくり、今日は雨雲の動きを説明しよう、服装のことを話そうなど内容も自分で決めて、コーナーの最初から最後まで1人で担当できたら楽しいですね。また、最近は講演会に呼んでいただくことも増えたので、「来場された方に気象のことをわかりやすく伝えられる気象予報士」も目標になりました。もっと予想の精度を高め、いろいろなところで天気の情報を発信したいです。

コロナ禍の間に、ファイナンシャル・プランナーや防災士の資格も取得されたそうですね。

 2020年3月に大学院を修了し、「さあ、仕事を頑張ろう」というタイミングでコロナ禍になりました。時間を無駄にしたくなく、資格取得にチャレンジすることにしました。
 防災士は気象予報士が取ることも多い資格です。ファイナンシャル・プランナーは一見、気象とはあまり関係が無いように見えるかもしれません。しかし、勉強してみると、金融や経済の知識も思った以上に気象との親和性が高くて面白い分野でした。例えば、災害で家が半壊・全壊したら建て直す資金はどうするのか、どこまでが損害保険の補償の範囲かなどを理解するには金融の知識が役立ちます。また、近年は地球温暖化の影響でドカ雪が増えましたが、それにより業績が伸びる企業はないか、再生可能エネルギーの分野で注目の企業はどこかなど、投資の観点から気象と企業を結びつけて考えるようにもなりました。

気象のビジネス活用ということで、気象庁では「気象データアナリスト(※)」育成のための「気象データアナリスト育成講座」の認定制度を2021年からスタートさせました。

 私も気象データを活かした企業の業績見通しなどに興味がありますから、その講座は気になります。気象は日ごと年ごとに違ってきますし、企業は気候変動リスクへの対応が欠かせないため、気象データアナリストのような人材はこれから重要になると思います。
 ※気象データアナリストとは、企業におけるビジネス創出や課題解決ができるよう、気象データの知識とデータ分析の知識を兼ね備え、気象データとビジネスデータを分析できる人材のこと。資格制度ではなく、気象庁が認定した「気象データアナリスト育成講座」を受講することで必要なスキルを修得できる。

武藤様は仕事と学業、資格の勉強を並行して進め、成果を残されました。そうした経験をもとに「気象データアナリスト」を目指す方にアドバイスをお願いします。

 忙しい仕事や生活に試験勉強まで加わると、自分の自由な時間やゆっくり休む時間がなくなって大変だと思います。でも、そうやってチャレンジすることが自分のキャパシティを大きくしてくれますし、仕事や人間関係がさらに広がる可能性も生まれます。私自身、気象予報士を取得して気象キャスターになり、気象関係の仕事をする人の集まりにも参加して新たな人脈を作ることができました。
 もし「もうやりたくない」と感じたら、勉強を続けた自分と途中でやめてしまった自分とを想像してください。きっと勉強して目標をつかんだ自分の方に惹かれると思います。小さな目標をいくつも設定して、ひとつ達成するたびに自分にご褒美をあげるのもいいですね。私は美味しいスイーツをいつもご褒美にしていました(笑)。
 これからも私はきっといろいろな勉強を続けていきますから、一緒に頑張りましょう。応援しています。

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