トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.4

公共インフラは、財政圧迫要因か? 新たな社会資産か?

高度成長期に大量に建設された道路、橋梁、トンネル、ダム、堤防、上下水道などのインフラの更新期が迫っている。今後、老朽インフラの維持管理更新費は増加すると見込まれており、現状の予算水準では、新規投資が一切できなくなる将来も遠くない。他方、空港にはじまり、上下水道、高速道路とコンセッション方式による民営化が拡大している。今後、必要な維持管理費をまかないつつ、必要な投資を行っていくためには、どうしたらよいか。受益者負担、有料化、民営化、インフラ集約化など、今後の方策を識者に聞く。

Angle C

後編

インフラは社会を支え続ける

公開日:2019/3/12

国土交通省

技監

菊地 身智雄

財政が厳しい中で、インフラの整備や維持管理のコストは抑制する必要がある。その方法を国土交通省の菊地身智雄技監に聞いた。

コスト削減の具体的なやり方は?

 「国土交通省はいま『i-Construction(アイ-コンストラクション)』を推進しています。情報通信技術(ICT)を活用して建設産業の生産性を上げようという取り組みです。インフラの整備や維持・管理でも当然、導入していかなければいけない考え方のひとつです。人口減少社会の中では必ず実現しなければなりません」

多くの企業が、センサーやロボットを使ったメンテナンス効率化技術を開発しています。

 「基本的には『やれる事は全て取り入れる』ということだと思います。これはダメだとかいいとかって言っている余裕はない。生産性を上げるために、いろいろなことを考えて、いろいろなものを組み合わせてやってみるのがいい。ドローンのような無人航空機(UAV)を点検にもっと活用するとか、やれることはたくさんあると思います。ICTをもっと進化させて、建設プロセス全体をデジタル化していきたい。3次元データで測量・調査・設計・施工・維持管理すべてのプロセスを処理できればコストが下がります」

建設業者に投資の負担がかかりそうですね。

 「『i-Construction』のために、どうしても必要な投資は発生します。しかし、長い目で見れば効果があります。建設会社の皆さんに積極的に設備投資をしてもらい、生産性を上げていく。そうした好循環を作っていくことが大事ですので、国としても支援していきます」

コンセッション方式(公共施設等運営権を活用した民間委託)のような新たな方法も始まっています。

 「非常に賢いやり方だと思っています。空港などのインフラの運営権を事業者に買っていただいて、新しいビジネスを展開してもらうやり方です。運営権を買った事業者には維持管理の責任を果たしていただく。国や自治体にすれば、公共インフラの維持管理コストを外部化できるメリットがあります。施設を運営する事業者は、バランスの取れた維持管理方法を考えて実施する」
 「大事なことは、コンセッション事業が、事業として継続していくことです。全ての事業がコンセッションに向いているわけではありません。空港について言えば、離島の空港は乗客数も限られます。事業として成り立つかどうかは個々に判断されるべきものです。また民間の力を活用する方法としては、PFI(民間資金活用)やPPP(官民連携)のようなやり方もあります。プロジェクトの性格によって馴染むかどうかが決まるので、様々な選択肢の中からしっかり考えていかなければいけません」

【フレキシブルな対応が役目】

写真手前にあるのが、完成当時(供用前)の羽田空港の第4滑走路[D滑走路](平成22年7月撮影)

インフラの維持管理コストという面では、どんな効果がありますか。

 「私が昔、手がけたプロジェクトに羽田空港の第4滑走路(D滑走路)があります。滑走路の半分が埋め立て、半分が桟橋でできているのですが、あれは『デザインビルド』という設計・施工一括発注方式で整備されました。なおかつオプション契約で、完成から15年間の維持管理も施工者が責任を持ちます。ですから受注した企業は、最も効率的に維持管理できるように設計できるわけです。例えば、桟橋の杭の部分にはステンレスを巻いて錆びないようにしたり、桁の部分にはチタンを貼り付けたカバープレートで覆っています。これによりほぼメンテナンスフリーになっています。最初から100年の供用期間で設計しています。このように設計段階でメンテナンスコストを安くする工夫を取り入れることが重要になってきます」

インフラを維持するか、更新するか、それとも民間に任せるか。どんな基準で判断するのでしょう。

 「基本的には長くもたせるために予防保全型で維持管理していく。作り替えるのは著しく劣化が進行した場合や、社会的な要請が大きく変わった場合になります」
 「港湾の例になりますが、終戦直後の日本には岸壁が足りませんでした。その後の高度経済成長期では、加工貿易で外貨を稼ぐ仕組みを作りましたよね。それに対応して臨海工業地帯ができました。安定成長に移行すると、都市の再開発に港湾のスペースが活用されました。今はコンテナ輸送の時代で、信じられないような大きなコンテナ船が走っています。それを受け入れられないと、日本は世界の幹線物流のネットワークから外れて、国際競争力を失うでしょう。だから、それに応じた港を用意する。社会の求めにフレキシブルに対応していくのがインフラの役目です。その一環として維持管理があります」

いま日本の港では、外国人観光客用のクルーズ船の停泊設備を増やしていますね。

 「この5年くらいで、クルーズ船で訪日する外国人客は10数倍になりました。既存の貨物岸壁の延長を延ばしたり、防舷材をつけかえたりして、クルーズ船をつけられるように対応を急いでいます。新しく岸壁を作るところは少ないです。コストも抑えられるし、第一、今から港を作るのでは間に合いません」

今後のインフラの整備や維持管理はどうすべきでしょう。

 「昨年、いろいろな災害がありましたね。例えば台風で関西空港が浸水したり連絡橋に船が衝突したりしたことで、関西圏の訪日外国人客にも大きな影響が出ました。単なるインフラ復旧ではなく、こうした自然災害による被害を繰り返さないようにしなくてはなりません。災害がいつ来るか分からないという恐れや不安を抱えている中で、経済活動が活発になるでしょうか。経済成長のためにも、防災・減災、国土強靭化をしっかり進めていくべきです」(了)

 少子化を止め、経済成長力を高めてインフラのための費用を生み出せという出口治明氏の主張は、遠回りなようだが実は王道。 徹底したマーケティングで収益の可能性を探るべきだという南場智子氏の考え方は、インフラの種類にもよるが、新たな可能性を秘める。専門家である菊地身智雄氏は、社会の変化によってインフラの役割が変わると説く。インフラマネジメントに対する発想やアプローチが今大きく変わろうとしている。
 次回のテーマは「“データ大流通時代”、オープンデータは起爆剤となるか?」。地理空間情報をはじめ、政府の持つさまざまなデータがオープン化されると、社会にどのようなインパクトがあるかを探ります。

(Grasp編集部)

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