トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.49

日本を支える豊かな大地!共に北海道の未来を創る!

雄大な自然に絶品グルメと、国内外のツーリストから高い人気を誇る北海道。観光立国・日本を牽引する存在といえますが、北海道の日本での役割はこれだけにとどまりません。たとえば、食料の安定的な供給を確保する食料安全保障、2050年を目標としたカーボンニュートラルなど、実現のカギは北海道にあるのです!北海道の資源や特性を活かして我が国の課題解決を図るため、国は1951年から「北海道総合開発計画」を策定し、さまざまな取組を進めてきました。令和6年度から新たに「第9期北海道総合開発計画」がスタートします。豊かな資源に恵まれた北海道が、私たちの暮らしにどう関わっているのか、この機会にぜひチェックしてみてください。

Angle B

前編

全国に先駆け、めざせ! ゼロカーボン北海道

公開日:2024/3/13

北海道知事

鈴木 直道

地球温暖化への対応として、CO2などの温室効果ガス排出量を実質ゼロにする、カーボンニュートラルの実現に向けた動きが世界的に加速しています。日本政府は2020年10月、「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロをめざす」と宣言していますが、これに先駆けて2020年3月、「ゼロカーボン北海道」を打ち出したのが鈴木直道北海道知事です。「ゼロカーボン北海道」の実現に向けた取組についてお話をうかがいました。

国に先駆けて「ゼロカーボン北海道」を宣言された意図や背景を教えてください。

 カーボンニュートラル実現のための取組は、国も都道府県も一体となって日本全体で行うことであり、他の都府県もそれぞれに推進されていると思います。北海道は国土の約22%を占める広大な面積を有しており、またCO2の吸収源として大きな役割を果たしている森林の面積は全国の森林面積の約22%を占めています。カーボンニュートラルの実現において、北海道の森林資源をどう展開していくのかは国全体で見ても非常に重要な要素になります。
 また、北海道は再生可能エネルギーを創り出すポテンシャルも全国随一です。風力発電や太陽光発電、中小水力発電の導入ポテンシャルは全国1位、地熱発電は2位に評価されています(※1)。
 政府は、温室効果ガスの排出量を、まずは2030年度に2013年度比で46%に削減する目標を掲げていますが、その下敷きとなっているのが「エネルギー基本計画」(※2)です。実は、この計画では、そもそも吸収源対策や再生可能エネルギーの活用において北海道がその役割を果たす、という前提のもとで達成目標が組まれています。つまり、「北海道が何もやらなかったら日本は目標を達成できなくなる」ということです。それならいち早く取り組むべきだと、「北海道では2050年度までに温室効果ガスを実質ゼロとすることをめざす」と国に先駆けて表明しました。
 ※1 導入ポテンシャルとは、賦存量ふぞんりょう(ある資源について、面積などから理論的に導き出された存在量)からエネルギーの採取・利用に関する種々の制約要因を考慮した実現可能性の高いエネルギー資源量。
 ※2 エネルギー政策の基本的な方向性を示すために政府が策定する計画。

■北海道の再生可能エネルギーのポテンシャル

風力発電、太陽光発電、中水力発電、地熱発電は「再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)」(環境省)。バイオマス産業都市は2023年1月12日現在(農林水産省)。森林面積は森林・林業統計要覧2022(林野庁)。

日本のカーボンニュートラル実現において、北海道の果たす役割は大きいのですね。取組を進める上で気を付けていることはありますか。

 単に脱炭素化をめざしたのでは、取組自体が経済的な制約につながりかねません。環境は守れたとしても社会経済が衰退してしまっては、政策としては問題です。カーボンニュートラルを実現しながら社会・経済を良くしていかないと、持続可能性は高められません。
 こうした考え方は世界的な潮流であり、「ゼロカーボン北海道」も脱炭素化と同時に、経済の活性化や持続可能な地域づくりを推進しています。2021年3月には「第三次北海道地球温暖化対策推進計画(ゼロカーボン北海道推進計画)」を策定し、環境・経済・社会が調和しながら成長を続けるための取組を開始しています。

具体的にどんな取組を行っているのですか。

 ゼロカーボン北海道推進計画のロードマップでは、第三次の計画期間である2021年から2030年を「2030年以降の土台を築く重要な期間」と位置付けました。その上で、前半の2025年までを、道民の皆さまや民間事業者の方々と、カーボンニュートラルの実現に向けた認識共有、機運醸成、行動喚起を図る時期としています。具体的には、脱炭素型のライフスタイル・ビジネススタイルの転換につながる取組を広く呼びかけ、実践していただく「ゼロカーボン北海道チャレンジ!」を展開しています。身近なテーマを衣食住や教育、ビジネスなどの9つのカテゴリーに分類し、それぞれにおいて「服をレンタル・サブスクしてみよう」「地元の食品や旬の食材を食べよう」「家電の買い替え時に省エネ家電を選ぼう」といった合計32の取組を呼び掛けています。
 多くの道民の皆さまに実践していただくため、例えば、CO2排出量を可視化するアプリ「北海道ゼロチャレ! 家計簿」を開発・公開しました。家庭の排出量をご自身で把握していただくことで脱炭素化への行動の意識付けを図ろうというもので、さらなる利用者の拡大や、継続的に利用していただく取組も検討中です。また、高校生をはじめとする若年世代のカーボンニュートラルへの理解促進を図るため、道内の先進的な取組を視察するバスツアーの開催やSNS等を活用した啓発動画なども作成しています。こうした取組は、「ゼロカーボン北海道」の実現に向けて、道民一人ひとりの参加や当事者意識を高めるためにも欠かせないことと考えています。 

■ゼロカーボン北海道チャレンジ!

再生可能エネルギー活用の取組についてもお聞かせください。

 風車による発電を海の上で行う洋上風力発電の導入を積極的に進めています。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、国は洋上風力発電の大規模な導入を目指しています。そして、北海道の発電電力を首都圏などの遠隔地に送電するため、北海道と本州を結ぶ新たな海底直流送電ケーブルの整備計画策定に向けた検討が行われています。北海道としては、2030年度までの運用開始をめざし、送電設備の早期増強や、道内港の基地港湾(※1)の早期指定などについて国に働きかけているところです。
 ただ、洋上風力発電の占用許可を得るには、「再エネ海域利用法」(※2)に基づく「促進区域」に指定される必要があります。北海道は2023年5月に日本海側の5区域が早期に「促進区域」に指定できる見込みがあり、より具体的な検討を進めるべき区域である「有望な区域」に選ばれ、10月には浮体式で2区域が将来的に「有望な区域」となり得ることが期待できる「準備区域」に選定されました。他の地域も含め、早期に「促進区域」の指定を受けられるよう、引き続き地域と丁寧な調整を行うとともに、道内企業の参入促進や、人材の育成・確保に努めていきます。
 他にも、地域特性を活かした再生可能エネルギーの地産地消も進めています。たとえば、新エネルギーの導入拡大に向け、事業計画の策定や導入等に関するコーディネーターの派遣や地熱発電のための熱源となる地熱井ちねつせいの掘削調査などを通して市町村の事業計画を支援しています。再生可能エネルギーの地産地消で地域経済を活性化させることは、将来的な国力の底上げにもつながります。そのためにポテンシャルの高い北海道が先駆けて頑張らねばと、強い思いで取り組んでいます。
 ※1 洋上風力発電設備の設置及び維持管理に利用可能な条件の揃った、港湾法において海洋再生可能エネルギー発電設備等拠点港湾として指定された港湾。
 ※2 洋上風力発電をめぐる問題を解決し、海洋再生可能エネルギーのための海域利用を促進するための法律。条件を満たした海域は「促進区域」に指定され、その海域で洋上風力発電を行う事業者は最大30年間の占用許可が得られる。

森林などの吸収源対策については、今後どのような展開をお考えですか。

 森林吸収源対策では、植林や間伐といった森林整備などの推進が重要です。森林吸収量を将来にわたり確保するためには、森林の若返りを進める必要があることから、森林所有者が計画的に実施する植林を支援するほか、成長の早い優良種苗であるクリーンラーチの新たな育苗技術の検証や、生産者の育苗技術の向上による増産体制の構築を図っています。
 今後も計画的な伐採と植林、手入れが行われていない森林の整備など、森林づくりを推進していきます。また、森林のほかにも農地土壌の吸収源対策、都市緑化の推進、さらにはCO2の吸収源としても期待される藻場や干潟等の保全活動を支援するなど、多岐にわたり取り組んでいきます。

「ゼロカーボン北海道」実現のためには、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料から作られたエネルギーもゼロに近づけなければなりませんね。

 再生可能エネルギーのほか、水素やアンモニア、合成燃料、さらにはCO2を回収・貯留するCCS技術(※)などの活用が必要不可欠と認識しています。そのため、今後、水素・アンモニアの供給拠点の整備をはじめ、CCS事業ならびに合成燃料を製造していくためのカーボンリサイクル技術の導入などを推進していきます。
 ※発電所や化学工場などから排出されたCO2を分離・回収し、地中深くに貯留・圧入する一連の技術。カーボンニュートラル実現の一助とされる。

現在、「ゼロカーボン北海道」の進捗状況はいかがでしょうか。

 最新の2021年度のデータでは、温室効果ガス排出量から吸収量を差し引いた実質排出量の推計値は5,209万トンです。基準年である2013年度(7,369万トン)と比べて29.3%、約3割減少しています。国が2030年の削減目標を46%としているのに対し、北海道では48%としているのですが、目標達成に向けて減少傾向にあります。
 引き続き「2050年までに道内の温室効果ガス排出量を実質ゼロとする」という目標を道民の皆さまや事業者と共有するとともに、社会システムの脱炭素化を着実に推進し、環境と経済・社会が好循環を描きながら成長する北海道の未来に向けて全力で取り組んでいきます。

すずき・なおみち 第19代・20代北海道知事。埼玉県出身。高校卒業後、東京都庁に入庁し、働きながら進学費用を貯めて法政大学法学部に進学。2008年、東京都から北海道・夕張市に派遣され再生計画の策定に携わる。2010年、内閣府地域主権戦略室に出向後、夕張市行政参与に就任。夕張市長選挙出馬の決意を固めて東京都庁を退職し、2011年から2019年の2期8年夕張市市長を務める。2019年4月、全国最年少の38歳で北海道知事に就任。現在2期目を迎えている。
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