トリ・アングル INTERVIEW
俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ
vol.50-1
「2024年問題」を契機に、より魅力ある業界へ -物流サービス編-
2019年4月から、会社の規模や業種により順次適用が進められてきた「働き方改革関連法」。時間外労働の上限規制に5年間の猶予期間が設けられていた業種でも2024年4月1日に適用開始となり、誰もが安心して働き続けられるワークライフバランスがとれた社会の実現に、また一歩近づいたといえます。しかし、その一方で新たな課題として浮上してきたのが、いわゆる「2024年問題」です。国民生活や経済活動を支える物流業界、建設業界が、将来にわたってその役割を果たしていけるよう、企業や私たち消費者にはどのような取組、変化が求められているのでしょうか。
後編
「競争は商品で、物流は共同で」という理念で一致団結!
公開日:2024/5/29
F-LINE株式会社
物流未来研究所
後編
2019年4月、「F-LINE株式会社」の誕生と時を同じくして、政府の働き方改革がスタートしました。その中で浮かび上がってきたのが、輸送力低下を懸念する物流の「2024年問題」です。日本の物流を支えてきたトラックドライバーの労働環境改善と安定した輸送力とが両立する未来の食品物流を実現するため、新たな挑戦に着手したF-LINE株式会社 物流未来研究所の平智章さん、坂本卓哉さんにお話をうかがいました。
<写真向かって左から>
F-LINE株式会社 物流未来研究所 所長 平 智章
F-LINE株式会社 物流未来研究所 次長 坂本 卓哉
働き方改革というと、やはり時間外労働にはっきりとした上限が設けられたことが大きいと思います。ただ、トラックドライバー、建設業など一部の業種は、上限規制が適用されるまで5年間の猶予期間がありました。
坂本:そうですね。それも2024年3月で終了し、4月1日からトラックドライバーの時間外労働が年960時間に制限されました。ドライバー1人あたりの輸送距離が減ることになりますから、従来の環境のままでは物流が滞ってしまう可能性が高いです。
しかも、トラックドライバーは長年人手不足状態で、他産業と比べても高齢化が進んでいます。「どうすれば若い世代がドライバーになってくれるのか」「ドライバーが安心して働き続けられる環境にするには何をすればいいのか」を考えていくことは、私たち物流会社だけでなく、日本にとっても急務だと思います。荷主企業様とも課題を共有し、物流の在り方というものを見直していかなくてはなりません。
働き方改革が浮き彫りにした物流業界の課題、いわゆる「2024年問題」に対処するために、「F-LINEプロジェクト」および「F-LINE株式会社」ではどのような取組を行ってきたのでしょうか。
平:2021年10月に、F-LINE株式会社の出資5社の経営陣が一堂に会する「F-LINEプロジェクト社長会」で、2024年問題の解決へ向けた「第2期 F-LINEプロジェクト」を始動するという意志決定が行われました。第2期では、従来から行ってきたワーキングチームでの取組をさらに進化させ、「前工程(中長距離輸送)」「中心工程(配送、配送拠点)」「後工程(製・配・販物流整流化)」をそれぞれ担当する3チームに、「全行程横断」で標準化・効率化を推進する1チームを加えた計4チーム編成で課題の解決へ向けた協議を実施することとなりました。現在、各チームが月1~2回のペースで会議を実施しています。
また、2023年4月にはF-LINE株式会社の物流改革のメインエンジンとなる組織体「物流未来研究所」が発足しました。幹線輸送、配送、拠点政策、営業部門等のノウハウを持つメンバーから成る社長直轄の組織で、メンバーは各ワーキングチームにも参加して情報を共有。荷主企業様と物流会社が一体となった「F-LINEプロジェクトだからこそ実現できる」ユニークで魅力的な戦略や施策について議論し、食品業界の物流改革の推進を目指します。
「第2期F-LINEプロジェクト」における具体的な取組や成果について教えてください。
坂本:一例を挙げますと、幹線輸送の効率化に向けて、全6社の幹線輸送データを共有しました。全国の生産拠点から「どんな荷物を」「どこへ」「どういうルートで」「どんな頻度で配送しているのか」といった実態や、各配送拠点での困りごとなどをヒアリングし、それらの情報をデータベース化していったのです。すると、様々な課題が見えてきました。例えば、関東・中部間といった中距離輸送はトラックでの陸送に頼るケースが多いのですが、1台のトラックが関東・中部間を往復するにはどうしても1泊2日程度の時間がかかります。つまり、トラックドライバーの拘束時間が長くなってしまうのです。そこで考えたのが、拠点間の中間地点でトラックの乗り換えを行う「中継リレー輸送」です。関東から中部へ向かうトラックと中部から関東へ向かうトラックとが、中継点の静岡県で落ち合いトラックを交換。ドライバーはそれぞれ元のエリアへ戻り納品するというわけです。この仕組みを導入したことで、ドライバーは日帰りできるようになり、輸送効率もぐんと高まりました。
■中継リレー輸送の例(カゴメ株式会社・株式会社日清製粉ウェルナ)
これまで1泊2日かかったルートを日帰りで運行できるようになれば、トラックドライバーの拘束時間を大きく短縮することができますね。
平:先ほども申し上げたとおり、トラックドライバーの「労働時間の上限が削減される」というのは「運転時間が削減される」ことでもあり、トラック1台あたりの移動できる距離が短くなるということです。配送について各地の出荷拠点にリサーチしたところ、往復の時間を考えると、拠点から200km以上離れた場所にトラックで今までと同じように荷物を届けることは今後、難しくなるとのことでした。幹線輸送については今までは片道500km以上というケースもありましたが、これからはかなり厳しくなります。そのため、「中継リレー輸送」やトラック以外の輸送手段を利用する「モーダルシフト」などの導入が必要で、場合によっては配送拠点の再構築なども検討していくべきだと考えています。最終的に目指すのは、データにより業界全体のサプライチェーン(※)の最適化を図るスマート物流の実現です。まずは「納品伝票」「コード体系」「外装サイズ」など各種要素の標準化を荷主企業様と共に進めていきたいと思います。
※「サプライチェーン」は、原材料の調達から製造、流通などを経て、販売により消費者に提供されるまでの一連の流れ。
■出荷拠点と配送距離リスク・配送密度(配送の頻度)リスク該当エリア
今まで当たり前に届いていたものが届かなくなるかもしれないわけですね。私たち消費者もまた、物流の在り方を見直す必要がありそうです。
平:トラックドライバーをはじめ、物流に関わる方々というのは、非常に強い使命感を持って「届ける」という仕事に取り組んでくださっています。特に食品は人々が生きていくために必要不可欠ですから、震災のような大きなイレギュラーに直面しても、「自分が届けなければ」とトラックを出そうとしてくださる方が少なくありません。そういう真摯な思いにお応えしていくためにも、私たちは「持続可能な物流体制の構築」に取り組んでいかなければならないと考えています。
加工食品メーカーによって誕生したF-LINE株式会社ですが、最近では加工食品メーカー以外の荷主企業様の輸送も手掛けていらっしゃるとか。
坂本:2023年11月に、サッポロビールの酒類とハウス食品のスナック菓子を同じトラックに積み、北関東・大阪間を運ぶ共同輸送をスタートさせました。酒類は重いため、サッポロビールでは積載制限の関係でトラックの荷台の上半分は空いている状態でした。一方、スナック菓子は軽いので、ハウス食品ではトラックの容積いっぱいに積み込んでも積載重量の上限に満たない。双方ともに無駄が発生していましたので、これらを一緒に運ぶことで積載効率の向上を図りました。結果として、必要なトラック台数が減り、CO2の排出量も削減できました。今後はさらに様々な業界とつながっていき、多くの「Win-Win」の関係を生み出していきたいと考えています。
より広いフィールドで「競争は商品で、物流は共同で」を実現していくということですね。
平:まさにそういうことです。F-LINEプロジェクトおよびF-LINE株式会社というのは、ライバル企業に所属していたメンバーが結集して進めてきたプロジェクトであり、企業体です。一人ひとりが自らのルーツである企業が蓄積してきたノウハウに自信と自負を持っていますから、時には意見がぶつかることもあります。しかし、基本理念の「競争は商品で、物流は共同で」を全員が共通認識として持っているため、本来の目的、目標を見失うことはありません。それに、本音で話し合うからこそ見えてくるものがありますし、新しい気づきを獲得するチャンスにもなっています。
今後はより幅広い業界の方々に向けて私たちのノウハウを発信するとともに、私たちも様々なノウハウを積極的に吸収していきたいと考えています。物流会社だけでなく、荷主企業様や、国土交通省をはじめとする省庁の方々とも力を合わせて、未来の物流というものを考えていけたら嬉しいです。
後編