トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.16-1

総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしを守る防災減災~

 激甚災害が頻発している状況の中、災害から国民の命と暮らしを守るべく、今年1月に国土交通省はその総力を挙げて、抜本的かつ総合的な防災・減災対策を目指す「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」を立ち上げた。国土交通大臣を本部長とする「国土交通省防災・減災対策本部」を設置し、防災意識社会の実現に向けた検討を進めるなどプロジェクトを強力かつ総合的に推進していく考えだ。今回は特集として、基本テーマの取りまとめ役を担う4名の幹部に話を聞く。

Angle A

前編

垣根を越えた協力で防災・減災

公開日:2020/3/24

国土交通省

技監

山田 邦博

2018年の「平成30年7月豪雨」や台風第21号、北海道胆振東部地震、2019年の「令和元年房総半島台風」、「令和元年東日本台風」による浸水被害や土砂災害など、毎年のように大規模な自然災害が発生している。気候変動や切迫する地震災害などに対応したハード、ソフト対策はどうあるべきか。山田邦博技監に話を聞いた。

近年の自然災害の激甚化・頻発化にはどのような対応が必要でしょうか。

 近年、自然災害の規模が広範囲で、大きくなり、数も増えています。今後も地球温暖化による気候変動の影響で、災害がさらに激甚化するのは確実なことだと思います。気温が2度上昇すると、降雨量は1.1倍、川の流量は1.2倍になるという試算があります。ダムや堤防などは、過去の降雨実績を基に設計されていますが、今は防ぐことができても、温暖化により計画よりも水量が増えるとあふれてしまいます。また、気温が2度上昇すると、洪水の発生頻度は2倍になると見込まれています。これまではハードの整備もソフトの運用も降雨実績が変わらないことを前提としてきましたが、これからは過去の経験にない降り方をすることが当たり前になる、ということを考慮しなくてはいけません。
 防災のためのハード整備は以前から行われていますが、過去にないような記録的豪雨に遭うと、被害を避けられないこともあります。ですが、たとえ被害が出たとしても、それを最小限に抑える「減災」の考え方が重要です。たとえば、堤防をかさ上げするだけではなく、堤防を強化して、決壊するまでの時間を遅らせるようにすると、逃げるための時間を増やすことができます。そして、ハザードマップや避難ルートを確認したり、地域住民が声をかけあったり、といったソフト面の備えが欠かせません。また、情報をどのように提供するかという課題もあります。その情報がどのような意味を持つのか、住民の方一人ひとりがきちんと理解できるように、分かりやすく伝えなくてはいけません。

【災害の頻発化・激甚化による被害は深刻なものとなっている】

※画像は令和元年東日本台風による洪水で被災した長野市の様子

どのように防災・減災に取り組むのでしょうか。

 「手段」「主体」「時間軸」の三つの総力を挙げて取り組む、ということが今回のプロジェクトの狙いです。「手段」としてはダムや堤防などのハードを作っただけで完結するのでなく、ハードとソフトを連携させて防災・減災に取り組まなくてはいけません。また、「主体」は、国だけではなく、都道府県も市町村も民間も、そして個人個人もすべての人たちが主体となり、協力し対策にあたる必要があります。特にソフト面は自治体や地域住民の方々が重要な担い手となりますので、しっかりと連携しなくてはいけません。国が上から号令をかけるのではなく、あくまでも住民目線に沿って、総合的に対応していきます。工場などの地下に貯水できる設備を設けてもらうなど、災害に備えて民間事業者に協力してもらうことも考えられます。「時間軸」の総力とは、事前の備えから被災したときの緊急対応、被災後の復旧までのすべての時間軸で災害に対応していく、ということです。
※後編に続きます。
【国土交通省では「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」を立ち上げ、全部局が連携し、国民の視点に立った対策を夏ごろまでにまとめ、防災・減災が主流となる安全・安心な社会の実現に全力で取り組みます。】

やまだ・くにひろ 1958年愛知県出身。84年建設省入省。関東地方整備局河川部長、国土交通省水管理・国土保全局治水課長、大臣官房技術審議官、近畿地方整備局長、国土交通省水管理・国土保全局長、内閣官房国土強靱化推進室次長を経て、2019年7月より現職。
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