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トリ・アングルINTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.22仮想空間に広がる新たな可能性!

公開日:2020/10/30

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[ 後編 ]

誰でも成長を実感できる未来に

東京大学先端科学技術研究センター教授稲見 昌彦

仮想空間は新型コロナウイルスの影響で物理空間を補完する手段として広がった。また、距離やスピードなど物理的な制約を取り除く特徴をうまく活用し、人間の可能性を飛躍的に広げることもできる。VRなどの技術を使って、私たちはどんなことができるようになるのだろうか。

仮想空間を活用することで、人間の活動範囲の可能性はどう広がりますか。

 まず、物理空間に存在する制約から、解放されます。例えば、「覆水盆に返らず」という言葉の通り時間は取り戻せませんが、コンピューター上では操作を取り消す「アンドゥ」が可能です。また、本棚や書類など物体は片付けが必要になりますが、検索機能があれば必要ありません。インターネットは当初、物理空間のように情報が整理されたポータル(玄関)サイトが先行しましたが、今では検索サイトが主流になりました。
 また、身体を仮想化していくことで能力を広げることもできます。障害によって車いすで移動している人も、オンラインミーティングならば移動の不自由を気にせずにいくつもの会議に参加できます。研究室のオンラインミーティングは自動の同時通訳システムを活用し、ディスプレーに英語が表示されますが、能力や言語の壁は仮想空間に行くことで、結果的に支援されます。これも人間拡張(人間の能力を技術で拡張する)の一つの方法です。

理想形は何でしょうか。

 自由に空を飛んでみたいというのは個人的にはありますが、大切なことは誰でもチャレンジできて成果を感じられる。つまり技術の力を活用したとしても、自分の成長が実感できることだと思います。スポーツやゲームで、いままでできなかった技ができるようになったり、強敵に勝てるようになったりすることが”喜び”につながると思うんです。でも、残念ながら年齢とともに身体は衰え、走ると息切れしたり物覚えが悪くなったりしますが、技術やツールを活用してできることが増えたら、未来に希望を持つことができるのではないでしょうか。

企業ともコラボして商品の開発に携わっていると聞きましたが。

 眼鏡チェーンと共同開発したメガネ型ウエアラブルデバイス「JINS MEME」は、学生時代に自作した眼球の動きを計測するシステムが原型です。眼の周辺に電位を図るセンサーを付け、動きを計測して集中力の高さを可視化します。そこで計測されたデータを振り返ることで、集中状態に入りやすいパターンやルーティンの発見を手助けするデバイスです。最初は「頭が良くなる眼鏡」という相談を受けたのですが、そこまでできなくても学習を手助けすることはできるかもしれないと思って開発に携わりました。
 また、「光学迷彩」という技術もありますが、これを使ったマントを着ると背景と同じ映像を投射することで、透明人間のように環境に溶け込んでいるように見えます。入射した光を漏らさずに真っすぐ戻す「再帰性反射材」という素材を使って、生物学的に細胞を透明にする代わりに光学的な手法で実現しました。
 もともと博士論文の研究の一環として始めたのですが、当時はVRやAR(拡張現実)が話題になっていて、物理的空間にAR画像などが重ねていき、情報を”足す”ことで人間をアシストする発想でした。しかし、情報が増えるとかえって混乱したり、集中が遮られたりします。そこで情報を引き算する発想が必要だと考え、透明にしてしまおうと思ったのが原点です。例えば、医療現場で手術前の患者の身体を透かし、MRI画像を重ねることで計画を立てやすくするなどの活用を期待しています。

【光学迷彩のマントを着る稲見教授】撮影:Ken Straiton

※東京大学提供

海外と比べて、国内の仮想空間を利用したコンテンツやビジネスの現状をどう受け止めていますか。

 (アプリやシステムなど)プラットフォームは海外が先行していると思います。国内ではソニーの「プレイステーションVR」以外は目立ったものが出てきていないのが現状ですが、その一方で、「あつまれ どうぶつの森」や、キズナアイが先駆けとなったバーチャルYouTuber(Vチューバー)などコンテンツやコミュニティーに関連する分野は依然として発信力があります。
 研究分野でも、日本はゼロベースから組み立てることはできていますが、1を10にする、もしくは100にするという加速する体力がなくなってきたのかなと感じます。

最後に読者にメッセージをお願いします。

 これからは「この指とまれ」の力が大切です。組織など従来の結びつきが弱まる中で、人をつなげるのは理念やビジョンしかない時代が訪れると思います。一定の人の心に響くコンセプトを発信し、仲間を集める。いろいろとトライする人が表れれば、社会の多様性も生まれるし、なかにはとても成長するビジネスやコンテンツにつながるかもしれない。先行事例をまねするよりも、自分が居ても立ってもいられないくらい作りたいものを仲間と一緒に挑戦すれば結果として、新たな価値を生み出すのではないでしょうか。

編集後記

 バーチャルYouTuber(Vチューバ―)のキズナアイちゃんは、「私を通して新しい発見や、希望をもって」とかわいく訴えながらも、「AIやVRが進化していくと、時間を有意義に使える人と、流されていく人との間で思考や知識、経験、技量に差がついてくる」と核心を突く発言もあった。
 IGN JAPANのダニエル・ロブソン編集長は、ゲームにおける仮想空間ビジネスが「今後も拡大する」との見方を示したが、Vチューバーについては、「欧米では仮想人物の発言を信じられない」と海外展開の課題を指摘した。
 また、東大先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授は「今後、衣食住のうち食以外のファッションや住居の選択は仮想空間が主流になるかも」との見解を示した。
 次号のテーマは「半島は日本の台所」。三方を海に囲まれた半島は漁業や農業が盛んで、日本の食料供給拠点として、食卓に美味しい食材を届けている。コロナ渦により、ライフスタイルが多様化する中で、食や自然の豊かさなど、その暮らしが再評価されている半島の魅力に迫る。(Grasp編集部)