トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.35-2

ワーケーション&ブレジャーで発見!私のワークスタイル

働き方改革や新しい生活様式に対応した、柔軟な働き方として注目される「ワーケーション&ブレジャー」。新たな旅のスタイルとしても、地方創生の一助としても、普及への期待が高まっています。オフィスを離れ、旅先で働くことで得られるものとは。実践者たちの声を通して、働き方や旅との付き合い方のヒントを探ります。

Angle A

後編

ワーケーションから生まれた縁

公開日:2022/6/29

株式会社野村総合研究所

2017年というかなり早い段階から、「業務型」のワーケーション――通称「三好キャンプ」を取り入れてきた野村総合研究所。サテライトオフィスを構える徳島県三好市とは、どのように関係を深めてきたのでしょうか。後編では、人材開発部の池上英次さんも交え、三好市でのワーケーションをきっかけに始まった、他社を巻き込んだ人材育成プログラムについても伺います。

三好市の方々とはどのように関係性を深めてきましたか。

福元:市役所へ出向していた社員がコーディネーターを務めてくれたおかげで、地域のみなさんとは本当に良い関係を築けていると思います。週末のアクティビティは、みなさんの協力なしでは成り立ちません。狩猟や阿波踊りの体験、地元のお祭りへの参加など、都会ではなかなか体験できないアクティビティを通じて、社員もリフレッシュできているようです。
 これほどお世話になっているみなさんへ、何か恩返しをできないか…ということで始まったのが出前授業です。NRIのオリジナル教育プログラムを使い、高校と小学校でこれまでに8回授業を行いました。講師を務めた社員からは、「人に教えることで自分にもたくさんの学びがあった」「直接感謝されるという経験が新鮮だった」という声が上がっています。授業をした私たちの方こそ、むしろたくさんのものを得ることができました。
 市役所の方々が出前授業を見学していたことがあったのですが、「とても刺激になりました」とおっしゃっていただけました。その後、市役所でも出前授業を行うようになったそうです。私たちの活動が、地域のみなさんに何か少しでも刺激になり、そこから何か新しいことが始まったなら、こんなにうれしいことはありません。

「三好共創ベースキャンプ」はどのように始まったのですか。

池上:「三好キャンプ」を通じて、様々な形で地域交流を行い、行政・地域企業とのつながりを深めることができたことをあるきっかけで福元さんから伺いました。そこで、三好市で得たものを生かした研修プログラムを提供できないかと考えており、企画したのが人材育成プログラム「三好共創ベースキャンプ」です。自社だけでなく、三好市にゆかりのある異業種のメンバーと“共創”することで、新たな形の課題解決が期待できるのではないかと考えています。
 2021年11月〜2022年1月に、トライアルを実施しました。NRI、三好市市役所、地域企業のメンバーが参加し、4名ずつ2チームを編成して、三好市が抱える課題解決策を探っていくものです。レビュアーとしてNRIのコンサルタントが入ったり、市役所や地域起業家が特別講演を行ったりと、会社と地域をあげた取り組みとなりました。
 今回の地域課題のテーマは「三好市を『持続可能なまち』とするために、多様な形で地域に貢献する人材を、5年で150人輩出せよ」と設定しました。現実的な提案となるよう、「河川敷を活用する」「各社の特色を生かす」などといった条件付けも行い、最終的には市長や観光課へのプレゼンを行いました。
 オンラインと三好市での活動とを並行し、3ヶ月をかけたプログラムでした。コロナの影響で、残念ながら一部はオンライン開催に変更し、三好市での活動は実質1週間ほどとなりました。しかし、現地を周って地域の課題や実情を知り、チームワークを深めるためのアクティビティに参加し、地元企業の講演を聞き…と、かなり充実したものとなったと自負しています。オンラインで実施した最終プレゼンは、各社から約50人が参加するかなり盛大なものでした。市長も交えてかなり議論が白熱し、2チームの提案内容については、三好市から「今後の活動の参考にしたい」というご意見をいただいています。
 3ヶ月という短期間のプログラムでしたが、プログラム全体を通した狙いであるリーダーシップの育成という意味でも社員の成長を肌で感じることができました。プログラムの中で高校生への出前授業を実施したのですが、生徒の真剣な様子に、講師役の社員は感動していたようです。「情報システムを扱うというのは、こんなにやり甲斐のある仕事なんだ」という感想もいただき、NRIの業務への理解も深められたのではないでしょうか。
 何より、お世話になっている三好市で、地域の人材育成や、地域課題解決に関するお手伝いができたことが本当にうれしく思います。「ぜひこのプログラムを継続してほしい」という声をいただいていますので、本格的な活動を始める予定です。
 私たちは、このプログラムを地域において「テレワーク」で仕事をしながら、課題解決のための「フィールドワーク」を同時に行う「ワーク&ワーク」と名付けて、新しいスタイルの人材育成プログラムへのチャレンジと捉えて取り組んでいます。

今後の貴社のワーケーションの展開について教えてください。

池上:まず、「三好共創ベースキャンプ」のような地域密着型の取り組みを進めていきます。地元の方とチームを組んだ研修は、NRIと地域企業にとっては社員教育という側面が、そして三好市にとっては地域課題の解決のヒントという側面があり、それぞれにメリットが多数あります。トライアルでは1週間の滞在でしたが、テレワークを活用すれば通常業務と並行することができますから、より長期間の滞在も可能でしょう。これまで以上に深く三好市と関わっていくつもりです。

福元:「三好キャンプ」はまだ限られた部署での実施なので、全社へとどう展開していくかが課題です。社内でのワーケーションの仕組みを見直していく必要があるでしょう。業務によってテレワークが難しいこともあるので、その辺りの不公平感をなくしていかなくてはなりません。また、「子どもを連れて行きたい」という声もありますが、「出張」という扱いでは難しいのが現状です。社員の状況に合わせたフレキシブルな対応ができるよう、制度を整えていかなくてはなりません。

ワーケーションの導入を考えている企業へのアドバイスがあれば教えてください。

福元:まず、活動の目的を明確にすることが重要だと思います。私たちは仕事へのモチベーションを高める一環として、「業務型」ワーケーションという形を取りました。保養や福利厚生など、目的によって様々な形のワーケーションがあると思います。コロナ禍だから、他社がやっているから、というのではなく、自社の課題解決の一環としてワーケーションを捉えるのが良いのではないでしょうか。
 ワーケーションの目的によって、サテライトオフィスの場所も変わってきます。観光地かオフィス街か、交通の便が良い場所か人里離れた場所か…。実際に足を運んで、検証してみることをおすすめします。また、何かしらつながりのある場所が良いと思います。見知らぬ土地で、一から関係性を築いていくのは難しいかもしれません。私たちの場合は行政への出向社員がコーディネーターを務めてくれたことが本当に助けになりました。そうしたつながりがない場合は、サテライトオフィスの誘致に力を入れている地域も良いのではないでしょうか。

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

池上:ワーケーションを行っていなければ、「三好共創ベースキャンプ」という発想は生まれませんでした。都会を離れた三好市だからこそできるプログラムを作ることができました。仕事の環境を変えることで、本当にさまざまな刺激になるのだと実感しています。人材育成プログラムに限らず、これからもたくさんのサービスが「三好キャンプ」から生まれることを願っています。

福元:視察も含め、何度も三好市に足を運んでいます。この「三好キャンプ」を通じて、数え切れない人とのつながりが生まれました。故郷でもない場所に知人がたくさんできるというのは、素晴らしいことだと思います。イノベーションは、人と人との関わりから生まれるものだと思います。ぜひ前向きにワーケーションを検討してみてください。

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