トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.42

ドローンで変わる!? 日本社会の未来像

2022年12月5日、ドローンの国家資格制度がスタートするとともに「レベル4」飛行が解禁となりました。これは、人がいる場所でも操縦者の目視外での飛行が可能ということ。今まで認められていなかった市街地上空を通るルートでの長距離飛行もできるようになり、運送業界をはじめ、さまざまな業界からの注目度が高まっています。そんなドローンの開発・活用の最前線にいらっしゃる方々に、日本におけるドローンの現状、今後の課題などについてお話をうかがいました。
無人航空機(ドローン)の新制度についての詳細はこちらをご参照ください。
(国土交通省無人航空機総合窓口サイト https://www.mlit.go.jp/koku/info/index.html)

Angle A

後編

進化する戦術に対応できる選手の育成にドローンが貢献

公開日:2023/2/10

公益財団法人 日本ラグビーフットボール協会

アナリスト

浜野 俊平

浜野俊平さんがアナリストを務める男子15人制ラグビーの日本代表チームは、2019年のラグビーワールドカップ(RWC)日本大会で初のベスト8進出を果たしました。めざましい躍進を支えたもののひとつが、ドローン映像を駆使した情報収集や分析。「キックを多用する現代ラグビーにドローンによる映像は欠かせない」という浜野さんに、ドローンの練習での生かし方や、ドローンに対する今後の期待などをうかがいました。

男子15人制の日本代表チームにおけるアナリストの活動を教えてください。

 現在の15人制チームには、私を含めアナリストが3人いますが、私が参加した2016年はまだ2人体制でした。当時のもう1人のアナリストは、ニュージーランドのプロチームでも分析を担当していた方。アナリスト同士で綿密にコミュニケーションをとり、私はその方に学びながら分析を進めてきました。やろうと思えば選手の一挙手一投足について細かく分析できますが、コーチが何を求めているかによって切り口は変わってきます。
 ドローンを使い始めたのも男子15人制の日本代表チームに参加してからです。現在、練習はほとんど毎回ドローンで撮影をしています。ほかに、横から撮るカメラが数台あり、常に複数のカメラで練習を録画するようにしています。映像だけでは分からないこともありますが、選手が何回タックルにいったか、倒れて何秒後に立ち上がったかなどのデータは映像をもとに集計するため、映像は重要な情報源となっています。

練習では、事前に何をどう撮影するのか決まっているのですか。

 日本代表が活動している時期は、毎朝7時にコーチを含めたスタッフミーティングで当日の練習メニューや取り組みたいテーマを確認し、「この日はチーム全体の動きが知りたいから高い位置から撮影」「この日は少人数に分かれて練習するので比較的アップの映像を撮る」など、目的に応じて撮影プランを練っていきます。
 こうした目的に沿った撮影も、ドローンのおかげで作業がラクになりました。高い位置から撮影するために足場を組んだり、スタンドの近くで練習してもらったりする必要がなくなり、アップで撮る際も撮影側で調整して高度を下げるだけで済みます。特に海外遠征では、高い位置から撮れる場所で練習するとは限りませんから、ドローンで常に安定した撮影環境が得られるのはありがたいです。

ドローンで撮影した画面はパソコンに転送される。

撮影した映像はどう使うのですか。

 ドローンが写した映像は、私の手元にあるパソコンに転送され、そのまま自動録画されます。練習中の映像がほぼリアルタイムに録画されるため、コーチから「今のプレーをもう一度見てみよう」と指示があればすぐに確認でき、当日の練習テーマに沿った動きができていないなどの反省点もその場で選手に伝えることができます。
 課題が見つかった時点で改善できるのは効率的かつ効果的ですし、選手も映像を見ながら説明を受けるので理解しやすいと思います。たとえば、右サイドで味方が抜かれたとしても、左サイドにいる選手には何が起きたのか分からないことがあります。その点、ドローンで撮った俯瞰の映像があれば、「ここのプレーで選手の位置取りが悪くなり、スペースが生まれていたことが原因」といった分析結果を選手全員が理解し、共通の課題とすることができますから、チーム全体の成長につながると考えています。

ドローンが撮影した俯瞰映像だからこそのメリットについてもう少し詳しく教えてください。

 戦術の分析や立案に使う戦術ボードは、フィールドを真上から見たボードに選手を配置して、狙いや動き方を説明していきます。ドローンの映像はそれと同じアングルで実際の試合や練習を見ることができるため、戦略やプレーの成功・失敗の理由が分析しやすくなります。たとえば、ある選手が蹴ったボールを別の選手が受け取れず、相手チームに奪われたような場面も、上空から撮った映像なら、「ボールを受ける選手がやや後ろに位置取りしていたため、味方の選手との間にスペースが空きすぎていた」ということが分かります。
 ルールとしてパスを横か後ろにしか出せないラグビーでは、横にいる選手との距離が非常に重要ですが、ドローンが撮影した俯瞰映像なら、試合中にパスが届く距離にいたかどうか分かります。相手チームに抜かれた時も位置関係が分かりますから、「相手の真正面ではなく、少し横にずれていた」というように改善点を見つけやすく、具体的な目標を立てて練習できるようになります。

ドローンが撮影した俯瞰映像であれば、試合の流れとその原因を把握しやすく、改善点も見つけやすい。

ドローンの導入はラグビーに何か影響を与えましたか。

 ラグビーの試合の進め方が昔と変わり、それによってドローンの映像がさらに重要になっていると思います。現代ラグビーでは密集を避け、ボールを効率よく前に運べるように、キックを多く使う傾向が見られます。手で投げるパスよりキックは遠くまでボールを運ぶことができ、数十m飛ぶことも珍しくありません。横から撮った映像ではボールを追い切れませんが、ドローンでフィールド全体を俯瞰で撮っておけば、ボールの位置や受け取った選手の動きが見え、キックがその後の戦況にどう影響したかも分かります。選手にとっても、キックを多用した戦術や、数十m離れた選手の動きを考えていかに有利に動くかを理解する上で、ドローン映像は役に立つはずです。

現代のラグビー選手には、フィールド全体を俯瞰して捉えるセンスが必要なのですね。

 フィールド全体を意識して動けているかは、選手起用の際のポイントにもなると思います。
 フィールドにいる自分の視界と、そのときのフィールド全体の状況をマッチさせることができれば、完全ではなくてもある程度俯瞰する感覚を得られるようになると私は考えています。そのため、選手に映像を見せる時も、ドローンで撮った俯瞰映像と横から撮った映像を必要に応じて切り替え、状況をマッチしやすいようにしています。多くの選手が俯瞰映像を意識できるようになれば、フィールドをより広く使ったプレーにつながると思います。

逆に、ドローン導入によるデメリットはあるのでしょうか。

 安全に注意して事故を起こさないように操縦すれば、ラグビーについては、ドローンで安定した映像が得られることはメリットしかないと感じています。ただ、ラグビーはゴールの両脇に高いポールがありますし、急に強い風が吹いたりするとドローンの体勢が不安定になります。そのため、操作には、パソコンに送られた映像で必要な場面が撮れているかを確認しつつ、上空のドローンの位置にも気を配って飛ばすという高い集中力が求められます。
 また、安全性の面などから、試合ではドローンを飛ばせないことも多いです。その場合は、横から撮るカメラの台数を増やしたり、試合を中継するテレビ局に上空からの映像を配信してもらったりして、何とかリアルタイムで全体の状況が分かるように工夫しています。正直、「もし試合中でもドローンを飛ばせたら、こことここのカメラは要らないのに」と残念に思うこともあります(笑)。

ドローンに対する今後の期待をお聞かせください。

 適度な性能で手に入れやすい価格のドローンが販売されて、ホビーとして手軽に楽しむなど、もっと一般的に使えるものになってほしいと思います。並行して、ドローンがより安全に飛行するための法整備、社会の仕組みづくりにも期待したいです。
 仕事で使う立場からの期待としては、現在は30分ほどしか持たないバッテリーをもっと長くしてほしいことと、軽量、防水性能、2つ以上のカメラが搭載可能といった高性能なドローンが手の届く価格になることです。防水のドローンなら雨の日の練習でも使えますし、2つのカメラでフィールド全体とアップの映像を同時に撮れると効率的です。また、落としても安全なドローンがあれば、より使いやすくなります。ドローンの能力の進化はアナリストの分析の幅を広げてくれると思いますから、それが今後の大きな楽しみです。
 今年の秋には「ラグビーワールドカップ2023フランス大会」が開催されます。アナリストとしても前回からの経験を活かしてベストを出しながら学び、成長もできるような大会、一年にしていきたいと思います。

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