トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.45

誰もが気軽に「おでかけ」できる。パーソナルモビリティがある未来

電動キックボード、電動アシスト自転車、電動車椅子など、近年、街中で見かける機会がグンと増えた「パーソナルモビリティ」。
若者の手軽な移動手段としてはもちろん、高齢者や身体の不自由な方、子育て世代の方の移動支援、過疎地における交通手段、さらには環境負荷の低減など、さまざまな社会課題を解決するアイテムとしても注目されています。
パーソナルモビリティとはそもそもどういうものなのか、今後どんな展開が期待されるのか。インタビューを通して未来のモビリティの在り方を探ります。

Angle C

後編

誰にでも便利な街をパーソナルモビリティが実現する

公開日:2023/8/22

株式会社ストリーモ

代表取締役CEO

森 庸太朗

都市部のコンパクトシティ化、脱炭素の街づくり、過疎地における移動課題の解消など、今後、日本社会におけるパーソナルモビリティの活躍の場はどんどん広がっていくと思われます。「将来はパーソナルモビリティが標準実装された街を作りたい」と語る株式会社ストリーモ代表取締役CEOの森庸太朗さんに、パーソナルモビリティが与える社会や人々の暮らしへの影響、想定される今後の課題等についてうかがいました。

一口に「パーソナルモビリティ」と言っても、貴社の製品や電動キックボードのような立ち乗りタイプ、電動車椅子のような座り乗りタイプなど、さまざまなタイプのものがあります。

 そのときの気分や必要性に応じてユーザーが移動に使用したいモビリティを選べるように、パーソナルモビリティが多様化することはとても大事だと思います。当社の製品や電動キックボードは徒歩から自転車くらいの速さですが、それより遅く、あるいは速く移動したい時、立ち乗りではなく座って乗りたい時、いろいろあるはずです。「今日は自分で歩いていく」という気分の時もあるでしょう。各区分のパーソナルモビリティのサイズ、最高速度などが法律で規定されることにより、企業が参入しやすくなり、選択肢の多様化が実現しやすくなると考えています。

道路交通法が改正され、2023年7月1日から一定の要件を満たす電動キックボードなどの区分は「特定小型原動機付自転車」となり、「免許不要で16歳以上であれば乗車可能」、「条件を満たせば歩道も走行可能」になりました。パーソナルモビリティの普及にどう影響するとお考えですか。

 この法改正でパーソナルモビリティの利用は拡大し、より身近な乗り物になると思います。個人的には、幅広い年齢層の方が利用するようになってほしいです。
 歩道走行に関しては、私たちは以前から「歩く人と一緒に動けるモビリティ」を目指し、そのための規制緩和を模索してきましたから、それが実現する素地が整ったことを本当にうれしく感じています。

これまでは「原動機付自転車」という位置づけだったため、車道しか走行できませんでした。今回、歩道走行が可能になる条件とはどういうものでしょうか。

 特定小型原動機付自転車に適用される道路運送車両の保安基準により、時速6kmを超えて加速できない構造であることと、走行中は最高速度表示灯を点滅させることです。
 現在販売されている特定小型原動機付自転車は、最高速度時速6kmの歩道走行モードと、最高速度時速20kmの車道走行モードとを切り替えて、場所に適したモードで走行するようになっています。今後は誰もが安全に移動できるように、例えば歩行者、自転車および同等の速度で走るパーソナルモビリティ、自動車という区分で道路を分けるなど、環境の整備も必要だと感じています。

今回の法改正で、懸念されていることはありますか。

 特定小型原動機付自転車を安全に利用しようという動きから外れるようなケースがクローズアップされ、結果的にパーソナルモビリティの普及が遅れてしまうことです。こうした移動手段を必要とする人、移動手段の変革で脱炭素社会やコンパクトな街づくりを目指す自治体などに影響が出てしまわないかという懸念があります。
 また、特定小型原動機付自転車の保安基準適合性等を確認する制度(性能等確認制度)(※)を国土交通省が創設しましたが、これに基づく検査は、現状ではメーカーに義務づけられていません。私自身はリスクヘッジとして検査を受けるべきと考えていますが、性能確認を受けないメーカーが増えるようだと、公的に安全性が担保されていない車体が出回り、トラブルが起きやすくなるのではないかという心配もあります。
 ※国土交通省から認定を受けた性能等確認実施機関が、特定小型原動機付自転車のメーカー等からの申請に基づき、当該特定小型原動機付自転車の保安基準適合性等を確認する制度。保安基準適合性等が確認された特定小型原動機付自転車には、メーカー・確認機関の名称等を含むシールを目立つ位置に貼付する。メーカー等は第三者から保安基準適合性等の確認を受けたい場合に本制度を活用することができる。

性能等確認制度に基づく性能確認を受けた車両には「性能等確認済シール」が貼ってある。同社の特定小型原動機付自転車の基準を満たす製品も性能確認済み。

パーソナルモビリティの普及は、社会や人々の生活にどんな影響を与えると思われますか。

 街中や少し遠くまで自由に移動できるのが当たり前になることで、日々の楽しみが増えて、よりイキイキとした生活が送れるようになると思います。北欧では、高齢者がパーソナルモビリティにより外出の機会が増えて生活の活性度が向上したそうですし、健康づくりにも役立ってくれそうです。
 また、街のグランドデザインを描く際に、徒歩やパーソナルモビリティによる移動を中心に据えることで、半径5km程度の中に必要な施設が点在し、短い距離の移動で生活が充足するような街づくりも考えられます。高齢者や子育て世代をはじめ、様々な年代の人にとって便利な街になるでしょうし、もちろん、脱炭素の街づくりにも寄与すると思います。

道路整備の進んだ都市部でなく、地方ではどうでしょうか。

 当社の例では「山間部の集落で使いたい」という声を聞きました。以前は集落でシニアカーを共有されていたそうなのですが、「もっと軽量で小回りが利くものが欲しい」と、個人でのパーソナルモビリティの購入を検討されるようになったとのこと。今後、そうしたニーズにパーソナルモビリティが本格的に応えていくには、地域に合った形状を考える必要があるかもしれません。いずれにしても、ご高齢の方が集落内を移動する負担を減らすモビリティには需要があると感じています。

森様の今後の目標などをお聞かせください。

 私たちが目指しているのは、「パーソナルモビリティが標準実装されている街」です。そのためには各地の課題を知り、住んでいる方の声を聞いて、都市部や山間部といった地域に合ったパーソナルモビリティのモデルケースを作っていかなければなりません。それぞれの街で利用されるパーソナルモビリティは、当社製品や電動キックボードのような形だけでなく、座り乗りだったり、屋根が付いていたりと、各地域のニーズに合ったものになると予測しています。できれば、10年後には実現したいと考えています。
 モビリティそのものに対する目標は、理想としている形のひとつが「工事不要の動く歩道」です。動く歩道はスピードも歩く速さとそう変わらず、乗っているだけで目的地へと運んでくれるので、周囲を眺める余裕があります。そうした機能を満たしながら、個人が自由に使えるモビリティなら形状は問いません。そうした意味で、パーソナルモビリティに決まった形はなく、まだまだ大きな可能性を秘めた分野だと考えています。

 ※特定小型原動機付自転車について(国土交通省HP)
 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr7_000058.html

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