トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.10

旅行しない若者たち

2018年、訪日外国人観光客(インバウンド)数はビザ緩和などの効果により3,000万人を突破したが、日本人の海外旅行客(アウトバウンド)数は1,895万人と過去最高を記録したものの、訪日外国人観光客数と比較すると、まだまだ少ないと言える。特に若者の出国者数は人口そのものの減少に伴って、ここ20年で33%減少している。若者たちはなぜ外国へ行かなくなったのだろうか。この問題の背景と解決に向けた方策について探る。

Angle C

前編

グローバル時代の「入り口」、それが旅

公開日:2019/9/17

東洋大学国際観光学部

教授

森下 晶美

海外を訪れる若い人の数がなかなか増えていかないという。学生との交流機会の多い森下教授は、レジャーの多様化に一因があると指摘する。また、観光業界側のPRの発想が、時代のニーズに対応出来ていない点も指摘する。旅行会社や観光庁での勤務経験もあることから、多角的に若者の旅行について持論を展開してくれた。

若い人が海外に行かないことをどう考えますか?

 確かに若い人の海外旅行者数がずっと減っているということが言われています。ただ詳細をみると一概にはそうは言えません。観光庁が若者の海外旅行離れの話を公式に始めたのが2007年ごろでした。実を言うとここ数年は、出国者数が増えてきていますので、若者の視点が完全に海外旅行から離れているかというとそうではありません。海外旅行をレジャーとしてとらえると、今の若い人の趣味というのは、かなり多極化していることを知るべきです。多くの選択肢がある中で、海外旅行はそのうちの一つに過ぎないのです。

【若者の趣味は様々だが、旅行への関心はあまり高くない】

※観光庁資料より

若い人は海外に行ってほしいと考えますか?

 私はそう思います。それは海外旅行で、今までの経験値を超えることが圧倒的にたくさんあるからです。今の時代、情報は色々あります。でも自分の価値観も含めて、違う価値観や文化があるということを「感じる」ことができるのが海外旅行です。今の時代、日本の経済、産業社会は、既にインバウンドを入れないと成り立たなくなっています。否が応でもグローバルを相手にしないとなりません。そういう若い人たちが世界を見聞きしないで、いきなり世界に出て行くのでは、なかなかうまくいきません。海外旅行は、グローバル人材になる「入り口」だと思います。社会問題の解決まで海外旅行に期待するのは無理です。でも「入り口」というか「きっかけ」にはなります。グローバル人材は絶対に必要です。そのような人材をどのように育てていくかというと、海外旅行でその窓口が開くということです。

若い人に海外旅行で感じてほしいことは?

 世の中には、自分の知らないことがたくさんあるということです。日常生活でも自分が良しとしているものが、通じないことがあります。海外ではなおさらです。外国で列に並んで、何かを待っている時に、割り込まれることが多いです。海外の社会ではそれが日常的だったりします。腹を立てても、それが現実だったりします。「割り込みはダメ」という自分の価値観は、世の中の一部に過ぎないということです。「違う」ということが世の中にあります。それに対し反感があってもいい、共感しなくてもいいのです。でも「ある」ということを体験してほしいです。それを知っているかどうかで、その人の広がりが出てきます。

若い人はどこへ行ってみると良いですか?

 学生には「どこに行けば良いですか?」とよく聞かれますが、どこでもいいです。一例を挙げるとすればハワイです。日本人にもアメリカ人にも人気があります。私は学生を毎年ハワイにゼミ研修で連れて行っています。ハワイは、西洋の異文化の部分と、日本文化とが、良い具合にミックスしている場所です。海外へ行くと、色々なことがあって緊張しますよね。海外旅行の良さは「非日常」に触れることです。でもその異文化みたいなもの、「非日常」は、ずっと触れ続けていると疲れてしまうんですよね。「財布を盗まれないように」などと緊張していると、楽しくなくなります。だけどハワイは日常の部分と、非日常が良い感じで混ざっている。適度に異文化と日本文化が感じられます。いきなり欧州に行くと緊張が取れないままで終わってしまう人もいると思います。最初は楽しいかもしれないけど、トラブルが多くなると処理できなくなってしまいがちです。そういう面からハワイは入りやすい外国と言えます。

旅行後の変化はありましたか?

 旅行ってなかなかすぐに結果が出るモノではありません。教育と一緒で、5年後10年度に出るかもしれません。現地で感じることは少なくないはずです。子供なら日常と非日常の部分で、「なぜジュースはこんなに大きいの?」、「紙コップが大きいの?」、「なぜ信号に人間マークがついていないの?」など、普段の部分と比較して違うことに興味をもっていきます。普段と違うものが出てくると興味がわいてきます。海外では圧倒的に違うモノをみる機会が増えます。
 学生になると、「自分の今までの考えが違っていた」ということが多いようです。例えば、ある女子学生は「ハワイは、日本人ばかりで、行っても面白くないと思っていた。でもここはやはり外国ですね」って話してくれました。当たり前ですが、日本ほど日本語も通じない。普通に歩いて現地の店に入れば、日本語なんて通じないわけです。そこで「ここは外国だった」って気づいたようです。世の中知った気になっていることが多くありますが、実際に行ってみると、ハワイですら知らないことがあることに気づくわけです。
※後編は9月20日(金)に公開予定です。

もりした・まさみ 近畿日本ツーリストでメディア販売商品の企画・販売促進を担当、その後、ツアーオペレーター、旅行業界誌記者などを経て2006年より東洋大学国際地域学部国際観光学科講師、16年より、国際観光学部国際観光学科の教授。16年4月~17年3月に、国土交通省観光庁出向(観光産業課課長補佐)。出版物に「新版 観光マーケティング入門」(同友館、編著)など多数。
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