トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.34

持続可能な社会へ!建物の木造化がもたらすもの

近年、国産木材を建築物などに活用する動きが広がっています。大気中の二酸化炭素を取り込んだ樹木を木材として固定することで、大気中の二酸化炭素量の削減につながります。また、森林の有効活用は、山や森の機能を回復し、土砂災害防止や洪水の緩和などが期待できます。そして木材がもつあたたかさは、利用する私たちに癒やしや安らぎを与えます。住宅から公共建築物、中高層ビルまで、木造の魅力と可能性について考えます。

Angle A

後編

居心地のいい木の家をいつか自分で

公開日:2022/2/25

女優

田中 道子

山や川のある田舎の風景を心の拠り所にし、木造建築の歴史やロマンが感じられる神社でプライベートな時間を過ごすこともあるという田中さん。二級建築士の資格をステップアップさせたい意欲、いつか自分でデザインした自分の家を建てたいという夢、そして木造建築の魅力やまちづくりへの思いについて語っていただきました。

建物探訪の番組にはどのような視点で取り組んでいたのでしょう。木造建築で印象的だった家はありますか。

 建築を学んだ視点というより、やはり私は女性の視点になると気づかされました。決めつけてはいけないんですけれど、現実は傾向として女性は家にいる時間が男性より長いし家事をすることも多いですよね。私はそれを踏まえて、家事しやすい動線であるかなど機能面に注目しました。番組には男性タレントさんとペアで出演することが多いのですが、男性はインパクト重視になりがちなのが面白かったです。そもそも建築家には男性が多いのもありますが、突飛な家や個性的なデザインの家を作るのは男性建築家が多いような気がしました。対して女性の建築家さんの家は、見た目の派手さよりも、ここにバックヤードがあったら便利だよねとか、痒いところに手が届く設計になっていると感じました。
 木造建築のよさが印象的だった家もあります。こじんまりしたお宅でしたが、スキップフロアになっていて木に登っていく途中に部屋があるような作りでした。子ども部屋は中間層、夫婦の部屋はもう少し上、みたいに。木造建築だったかRCや鉄も使っていたかは定かではありませんが、木の質感が生かされていて、アジトみたいなワクワク感がありました。
 レポーターのお仕事でうかがった、長野県渋温泉の金具屋さんという歴史ある旅館も興味深かったです。江戸時代創業なのですが、昭和初期に、これから観光旅行の時代が来ることを見越して大規模な木造高層建築を建て、それを現代に至るまで使い続けている旅館です。つまり、建築基準法で木造4階建てなんて建てられなくなる以前に建った、貴重な建物で登録有形文化財だそうです。同じ部屋が一つもなくて、かつては地位の高い方が泊まる用の部屋があり、その部屋は使う木材や見せる木の面も柾目だけを選ぶなど贅が尽くされたということで驚きました。太くて長い木材もふんだんに使われていて、それらは山から伐り出して川で運ばれたと聞いて、成し遂げた人々の労力を想像して唸ってしまいました。
 建築について予備知識なしに大学に入った頃は、鉄だろうとコンクリートだろうと木だろうとどれでもよくない?くらいに思っていた私でしたが、勉強したからこういった建物を見て感動できるのだとうれしかったです。建築を勉強していなかったら、金具屋さんに行っても「昭和レトロね」くらいで止まっていたと思うんです。興味ある分野の知識を深めると、楽しめることが増えるんだなと実感しました。

建築の勉強を進めて一級建築士の資格を取るという挑戦も始められたとか。

 二級建築士資格はあっても現場を全く知らずに芸能界に入ってしまった私ですが、ここ数年建築の資格を持っていることを知っていただけて、関連するお仕事もくるようになりました。実際にいろいろな建物を見る機会を得てお話も聞くととても楽しく、そこで知らないワードや内容に出くわすと、「知っていたらな」と思うんですよね。次第に建築の専門知識をもっと深めたいと思うようになりました。それで、女優の仕事はもちろん優先するのですが、まとまった時間が確保できた時に一級建築士試験の勉強を始めました。実は、これまでは落ちたら恥ずかしいのであまり言わないでいたんですけれど(笑)。ただ、直近の合格率は10%を切るほどの難関なんです。頑張ります!
 一級を取ったら、じゃあビルでも建てるのかというともちろんそうではなく、自分の家を自分で設計できたらなと思います。私がとても贅沢だと考える住宅の一番のポイントは平屋建て。次のポイントは開放的なデザインの家です。縁側がある家に憧れます。屋外に向かって開かれた空間というところが、自然に触れたい、神社にひかれる、そんな感覚と通じているのかもしれません。忘れられない家としてお話しした、足湯のある家が本当に感動だったのと温泉がすごく好きなので、自宅に温泉が引けるような土地に建ててみたい。故郷の静岡と仕事をする東京の中間で温泉もある、熱海なんかどうだろうと密かに思っています。
 よく話題になる古民家カフェなども、リノベーションやデザインに関わってみたいという意味で興味がありますね。でも、建築の仕事は人の命と財産を預かる責任の重い仕事なので、勉強して経験を積まないとできません。私の設計第1号なんてどうなっちゃうかわからないので、まずは自分の家で試すことになるでしょう。

一級建築士資格の勉強で、木材や木造建築への理解も深まっているそうですね。

 実は「木材活用」がテーマのインタビューと聞いて驚きました。一級建築士資格の勉強として、いろいろな建材にフォーカスして学んでいるのですが、ちょうど最近、木材や木材建築に取り組んだところだったんです。
 私が大学で建築を学んでいた頃は、建築物に木材を有効活用しようという雰囲気はありませんでした。若い学生たちはモダンでスタイリッシュな建築物や見た目のインパクトに目がいって、「ガラス張り超かっこいい」とか言ってましたから。木材建築の素晴らしさを本当に理解したのは、ここ半年くらいなんです。
 それまでは正直、木材ってRCや鉄骨より柔いだろう、火事、湿気、寒暖、そういうすべてに耐性がないだろうと思っていたんです。でも勉強してから、木材はいいとこ取りできる建材なのだとわかりました。例えば腐るという症状一つとっても、水分と気温などの環境の条件が全部入ってはじめて腐るので、その条件が揃わないような対策をとればいいわけで、それによって維持も楽だと知りました。また、使う木材や、加工を施した木材を選ぶことによって耐火性能もあれば耐震性能も上げることができ、つまり一人ひとりのニーズに合わせた設計ができる、使いやすくて可能性が無限な材料なのです。
 そして思ったのは、木材は弱くてダメだと思い込んでいる人は私だけじゃないだろうということです。みんなにもその意識を変えてほしい。木のよさと強みを知ってほしいです。木のよさについても、漠然と「ぬくもり」とか言うだけでなく、私が金具屋さんで見た、木を使う面によって見え方も全然違うといった他の材料では絶対出せない風合いの魅力なども、もっと一般の方にもアピールするといいのではないかと感じます。
 私は今住んでいる自分の家も大好きなんです。それは居心地よくしているから。どれだけ居心地のいい家を作るかによって家の外でのパフォーマンスも違ってきますから、居心地をよくするのは住んでいる人の仕事です。家の中のどの場所にいても居心地がいいと思える家を作りたいと思った時、木材は大きな役目を果たしてくれるのではないでしょうか。自分が長くいる場所、家にいる時間をいかにクオリティの高いものにするかを考えた時に、木材はおすすめしたい材料だと思います。

故郷のまち、日本のまちづくりに対して思うところを聞かせてください。

 私の実家周辺は、自然がいっぱいだった地域にテクノポリス構想として計画された新興住宅地でした。至る所にアート作品があったり歩道もレンガで作られていたり、公園の数も多くて。春にはメインストリートの両側に模様を描くようにツツジが満開になります。そんな自分の町が大好きで、高校時代には別の地域の友達を連れてきて、「見て見て私の町、ジブリみたいじゃない」と言って自慢していました。現在も便利な公共施設やホールなどができて、発展しているようでうれしいです。
 自分の育った町が自慢なだけに、浜松駅の駅前が人の活気が乏しいことなどは少し残念に思ってしまいます。地方に共通かもしれませんが、大人になったら車は一人一台みたいな完全に車社会の生活で、街中に人がいないことが問題視されても、遊びに行くのも駅周辺ではなく郊外になる。大学で学んだ理想的なまちづくりに照らすと、新幹線も停まる浜松駅前にどうにかして人が行き交う街に改善できないものかなと思います。おこがましいですけれど。
 日本人は、みんな自分の家はきれいなインテリアを揃えたりするのに、町という単位で見るとわりと自分には関係ないと思いがちな気がします。住んでいて気持ちのいい町をみんなで作っていこうという意識が共有できると、日本中に素敵な家並みが増えていくと思うんです。私はいい時代の理想的な新興住宅地に育ったということなのかもしれませんが、木造建築を推進していくというなら町単位の計画も多く生まれていくといいですよね。

最後に、読者に向けたメッセージをお願いします。

 芸能活動や資格取得に向かう原動力はと聞かれても、そういうのはあまりないのです。私は、単純に今の自分ではちょっと難しい挑戦をする時の自分が好き、という感覚です。一級建築士資格もないと困るわけではないのだけれど、期間を決めて目標を作ってちょっと自分を追い込むという環境に自分を立たせたいから受ける。モットーは去年の自分を超える。毎年、毎年、ちょっと難しいこと、ちょっと難しいこと、というハードルを自ら与えて、それを頑張って乗り越えようとしている自分が一番輝いていると感じるんです。
 演じてみたい役は、漫画の実写化や現実にはあり得ない役など、やはりファンタジーな世界にひかれます。最近舞台の仕事で、霊が見える降霊術師の役をやらせていただいたんですけれど、まさに女優にならないとできない経験で楽しかったです。難しい役にもチャレンジしていけるように、「自分を追い込むことができない自分は成長してない」という自分なりの感覚と尺度を大事にしていきたいです。

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