トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.34

持続可能な社会へ!建物の木造化がもたらすもの

近年、国産木材を建築物などに活用する動きが広がっています。大気中の二酸化炭素を取り込んだ樹木を木材として固定することで、大気中の二酸化炭素量の削減につながります。また、森林の有効活用は、山や森の機能を回復し、土砂災害防止や洪水の緩和などが期待できます。そして木材がもつあたたかさは、利用する私たちに癒やしや安らぎを与えます。住宅から公共建築物、中高層ビルまで、木造の魅力と可能性について考えます。

Angle B

前編

町有林でつくった「ふみの森もてぎ」

公開日:2022/3/1

栃木県茂木町

副町長

小﨑 正浩

栃木県南東部に位置する茂木町は、人口約12,000人。自然豊かな里山の風景と、城下町の面影を残す歴史的町並みが特長です。町の面積の約65%を山林が占めています。平成28(2016)年に、町有林の無垢材を使用した文化交流施設「ふみの森もてぎ」がオープン。その中心的役割を担った小﨑正浩副町長にお話をうかがいました。

「ふみの森もてぎ」とは、どのような施設ですか。

 茂木町の中心市街地に設置した複合文化施設で、館内には図書館機能を中心に、歴史資料展示室、ギャラリー、カフェ、体験研修室などを併設しています。
 もともとこの場所には、元禄年間(18世紀初頭)に創業した造り酒屋がありましたが、320年の歴史に幕を閉じ、その跡地が使われないままになっていました。そこで、平成24(2012)年に町で跡地を取得し、中心市街地活性化の拠点づくりをスタートしたのです。
 町に足りない施設として、町民からの要望が高かったのが図書館です。当時茂木町には図書館がなく、図書館を利用したければ他の町に行くしかありませんでした。
 また、茂木町は鎌倉時代に築かれた茂木城の城下町として発展してきましたが、その歴史的資料を展示する場所がない。や、古くから文化交流が盛んで、茂木にゆかりのある芸術家も多く、町民の文化・芸術活動熱が高いにもかかわらず、発表・展示の場所がない――などの声が上がり、ふるさと茂木の歴史と文化に触れるとともに、学びと楽しみを通じて人が集まり、町を活性化する拠点にしよう、ということで、現在の形になりました。

茂木駅からも近く、町の中心地に位置する「ふみの森もてぎ」

「ふみの森もてぎ」をつくるにあたって、大切にされたことは何ですか。

 現在は城山公園となっている茂木城跡から、茂木の市街地を見下ろせます。すると「ふみの森もてぎ」は、まさに町の中心にあることがわかります。巨大な建築物を建てて周囲を圧迫するのではなく、あるいは奇抜な仕掛けをして一時的な注目を集めるのでもなく、茂木の歴史的な町並みに馴染む建物をつくろうと考えました。
そこで着目したのが町有林です。町にはおよそ400ヘクタールの町有林があります。その半分が林齢50年生から100年生くらいの杉やヒノキの人工林です。施設建設にふさわしい木材が調達できるため、町有林主体の木造建築で進めることにしました。
ところが、ここで大きな問題に直面しました。「ふみの森もてぎ」は、のべ3000平方メートルの計画でしたが、大通りに面したところは準防火地域に指定されており、木造建築は500平方メートル未満までのものしか建てることができないのです。
 そこで、木造建築の間にRC(鉄筋コンクリート)造をはさむことで、この問題を解決しました。「ふみの森もてぎ」は、木造―RC造―木造―RC造―木造という配置で、5棟をつなぎ合わせて一つの建物のように構成しています。準防火地域に当たる部分は500平方メートル未満、22条区域(防火地域・準防火地域以外の木造住宅地)に当たる部分は1000平方メートル未満にすることで、木造建築主体の施設をつくることができました。
 このように、建築基準法や都市計画法上の制約があっても、法律解釈をきちんとすれば、工夫次第で木造建築ができることを示せたのではないかと思います。

使われている木材は、すべて町有林なのでしょうか。

 下地などの見えないところに使っている細い部材を除けば、すべて町有林です。「ふみの森もてぎ」には約800立方メートルの木材を使っています。一般的な木造住宅で使われる木材が約20立方メートルだとすると、およそ40戸分の木を使用したことになります。
 じつは茂木町では、平成20(2008)年に茂木中学校の校舎を木造で改築しています。これは、先人によって残された茂木の森林資材を有効活用するために町を挙げて取り組んだ事業で、質の高い木材を手間ひまかけて加工し、町の財産として未来へと受け継いでいける学び舎として完成させました。
 おかげさまで茂木中学校は平成20年度「全建賞(建築部門)」をはじめ、いくつかの賞をいただき、全国から1万人を超える視察者にご来訪いただきました。皆さま感嘆の声を漏らされますが、そのあと出てくるのが「うちにはこんな立派な木はないから……」「すばらしい校舎だけど、うちでは建てられないな……」といった言葉なのです。
 そこで、「ふみの森もてぎ」はすべて市販の規格の木材で建てることにしました。使用したのは、幅120ミリメートル、背240ミリメートル、長さ4メートル程度の中小断面材がメインです。大空間が必要となる部分も、これらの部材を組み合わせた架構で対応しました。これなら自分の町に木がなくても、市販の流通材で建てられるはずです。

間に柱がなく、大きな空間が広がる図書館エリア

具体的にはどのような工夫をされたのでしょうか。

 最も広いスペースは図書館で、996平方メートルあります。ここは「吊り(サスペンション)構造」と「アーチ構造」という力に強い2つの構造を組み合わせた「連接サスペンアーチ構造」により2メートル材を継ぐことで、スパン(柱と柱の間の距離)16.2メートルの屋根を支える広い無柱空間を実現しました。
 また、交流広場は「平行弦トラス桁構造」、町民ギャラリーは「重ね垂木によるゲルバー梁構造」という別の工法で建築し、いずれも床、天井、壁面に町有林の無垢材を使用した、木の温もりを感じる空間になっています。

利用者にとっても居心地が良さそうです。

 町内だけでなく、町外からも多くの方に足を運んでもらえるほど、皆さまに親しんでいただいています。皆さん居心地がいいようです。口コミでそんな話が広がっているのでしょうか、真岡鐡道を利用して訪れる方もあります。コロナ前には年間10万人以上の利用がありました。
 年代は老若男女問わずです。小さなお子様連れのご両親が絵本を借りに来られたり、高校生が勉強に来たり。年輩の方にも喜ばれています。カフェも併設されていますので、憩いの場として利用することもできます。
 展示ギャラリーは希望者が多く、予約が取りにくい状況です。茂木の町の新たなにぎわいの拠点として、地域の人々に定着しつつあるのではないでしょうか。
※後編は3月4日(金)公開予定です。

おざき・まさひろ 1961年栃木県茂木町生まれ。大学で林学を学び、1984年に茂木町職員として故郷に戻る。建設課や教育委員会、企画課などで、茂木中学校、学校給食センター、ふみの森もてぎなどの建設に携わる。2021年より現職。
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