トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.29

ロボットの目に映る「物流の未来」

コロナ禍でステイホームの時間が増え、ネットショッピングなどの電子商取引が急激に拡大したことで、物流の需要過多や人手不足に拍車がかかっている。新型コロナウイルスの感染拡大防止や、頻発する自然災害への対応を視野に入れた物流の改善施策としてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が急務だ。サプライチェーンの中核を担う物流業界はどう対応し、変化していくのか、ドローン、ロボット配送など消費者にも身近な最新動向を通じて読み解く。

Angle A

前編

ロボットが社会の「困った」を解決する

公開日:2021/5/11

株式会社ZMP

代表取締役社長

谷口 恒

ロボットの力を借りて、社会課題の解決に取り組むことをビジネスとして実践している起業家がいる。ZMPの谷口恒社長は、地方経済を支えてきた公共交通機関の脆弱化や人手不足などに起因する物流クライシスへの解決策として、ロボット技術を活用することを掲げ、実証実験を重ね、一部はビジネスとしての展開を始めている。谷口社長にこれまでの経緯と今後の計画を聞いた。

ZMP創業の経緯について教えてください。

 会社の設立は2001年で、文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)から、人型ロボット「PINO®(ピノ)」の技術移転を受ける形でロボット事業をスタートさせました。それまではインターネット関連会社を経営していましたが、アメリカのビジネスの焼き直しではなく、日本のお家芸ともいえるロボットで勝負したいと考えたからです。「PINO®」を研究用に販売したのに続き、2004年には独自の家庭用小型人型ロボットの「nuvo®(ヌーボー)」を58万8000円で発売しました。発売当初は話題となり、爆発的に売れましたが、その勢いは長くは続きませんでした。高額なロボットは面白いだけではすぐに飽きられてしまいます。2007年は、値段を10万円程度に落とした実用的なロボットとして、自律移動する音楽ロボット「miuro®(ミューロ)」を開発しました。初期ロットの500台は完売し、増産を目指して資金集めを始めた矢先に、リーマン・ショックによる金融危機に見舞われ、事業がストップしてしまいました。

どのようにして会社を立て直したのですか?

 多額の初期投資がかかるBtoC(対消費者)のビジネスではなく、産業のロボット化を支援するBtoB(対企業)のビジネスへ舵を切り、新たな展開を求めました。いままで積み重ねてきたロボット技術を棚卸し、別のジャンルに応用することを検討し、ロボットの目の技術、頭脳の技術、そして自律移動の技術を集めて、クルマに応用することを考えました。「ミューロ」は、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)という自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術が強みで、その後の自動運転ロボットへとつながりました。ピンチに追い込まれて苦しくなると、頭が冴えるもので、将来、自律的に自動車が動く社会になると予測し、ラジコンカーの上にステレオカメラを載せたミニチュアのロボットカーを開発しました。なけなしのお金を投じて記者会見を開き、テーブルの上に2台のロボカーを走らせてデモンストレーションすると、たくさんの注文が寄せられ、業績はV字回復しました。日本の自動運転ブームの火付け役となれたのではないかと嬉しく思っています。「Robot of Everythingヒトとモノの移動を自由にし、楽しく便利なライフスタイルを創造する」ことを会社のミッションとし、自律移動ロボットと自動運転コンピュータ「IZAC」を開発、自動運転技術開発用のプラットフォーム「RoboCar(ロボカー)」のシステムを自動車メーカーや自動車部品メーカーに販売し、収益頭になっています。

ロボットを使ったさまざまなソリューションを計画しています。

 2009年には、実車10分の1サイズのロボットカー「RoboCar® 1/10」を開発し、大ヒットし、2011年には実車のRoboCar®シリーズの受注が相次ぎました。受注生産のビジネスが波に乗った後、社会課題の解決にも目を向けて、ロボットや自動運転技術が役立つのではないかと気づき始めました。そのきっかけは2013年のある日、実家に帰省したときのことでした。ローカル線の駅に降り立ち、タクシーに乗ろうと思ったら、1台も停まっていませんでした。地元のタクシー会社が運転手不足で廃業してしまっていたのです。地方経済の深刻な状況を目の当たりにしました。免許を返納した高齢者や子供たち、障がいをもつ人たちなど、クルマを運転できない人たちにとって、タクシーがないことは、彼らの移動の自由を奪ってしまっていることと同じです。自分たちのロボットや自動運転の技術を活用すれば、この問題を解決できるはずだと確信しました。無人タクシーにも取り組んでいますが、法規制があるのですぐに実用化するのは困難です。まずは、法規制の対象にならない「歩行速モビリティ RakuRo®(ラクロ®)」を開発、実用化し、2020年10月から、東京都中央区佃・月島両地区をロボタウンに見立てて、シェアリングサービスを展開しています。当初考えてきた無人タクシーではないけれども、自分たちでできることから始めることが大事です。

【RakuRo®は行き先を指定すると自動運転でお店や施設などへ運んでくれる】

※ZMP提供

物流クライシスの課題解決にもロボットを活用しています。

 宅配業者のスタッフが、一人で2台の台車を押しているのを見かけて、大変そうですし、危険だと思いました。EC(電子商取引)の利用拡大に伴い、宅配サービスは多忙になっていて、人手不足が深刻化しています。「台車がロボットになって、人の後ろについてくることができれば、2倍、3倍の仕事ができるはず」という発想で、2016年から倉庫、工場用台車型ロボット「CarriRo®(キャリロ)」の販売を始めました。次に、自分の家まで荷物を運んでくれる無人宅配ロボ「DeliRo®(デリロ®)」を開発し、2017年からは実証実験を開始しました。宅配サービスを実現するため自律移動可能なロボット、ユーザー用・店舗用アプリ、ITサービスなど全てをパッケージ化して提供しています。2019年1月には慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)で実際に商品を配達して代金を受け取る宅配ロボットサービスの実証実験を実施しました。東京都中央区佃・月島両地区では、デリロがタワーマンションに宅配する実験も行いました。自動運転技術は「開発から使う時代」です。これからの新しい産業の創出、地域振興に活用し、世の中を便利にするフェーズへと移行しています。私たちは「Robot of Everything」を掲げ、世界的にも唯一それを実現しているロボット会社であると自負しています。
※後編は5月14日(金)公開予定です。

【CarriRo®シリーズは、倉庫・工場などで行われるさまざまな搬送作業を無人化、自動化することで作業の効率を高める】

※ZMP提供
たにぐち・ひさし 1964年兵庫県生まれ。群馬大学工学部卒業後、自動車部品メーカーでアンチロックブレーキシステムの開発に携わる。起業家としての活動を始め、2001年に文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)から、人型ロボット「PINO」の技術移転を受ける形でZMPを創業した。社名は、ゼロモーメントポイント(zero moment point)の略で、ロボットを歩行させるために重要な動力学的な重心位置を意味する。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了、美術博士。
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