トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.29

ロボットの目に映る「物流の未来」

コロナ禍でステイホームの時間が増え、ネットショッピングなどの電子商取引が急激に拡大したことで、物流の需要過多や人手不足に拍車がかかっている。新型コロナウイルスの感染拡大防止や、頻発する自然災害への対応を視野に入れた物流の改善施策としてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が急務だ。サプライチェーンの中核を担う物流業界はどう対応し、変化していくのか、ドローン、ロボット配送など消費者にも身近な最新動向を通じて読み解く。

Angle B

前編

ドローンがインフラになる日

公開日:2021/5/18

DRONE FUND

創業者/代表パートナー

千葉 功太郎

物流が抱える課題を解決する手段としてドローンに対する期待が高まっている。ドローンはどのように課題を解決して未来を切り開くのか、それはいつのことなのか。そして、われわれはその利便性をどう享受できるのか-。ドローン特化型ベンチャーファンド「DRONE FUND(ドローンファンド)」(東京)の創業者で代表パートナーを務める個人投資家、千葉功太郎さんに展望を聞いた。

千葉さんがドローンと出会った経緯を教えてください。

 出会いは2015年2月です。いちはやくドローンを事業に取り入れていた株式会社ORSO(オルソ、東京)の坂本義親社長にご紹介いただきました。私は当時、オンラインゲーム開発の株式会社コロプラ(東京)の副社長で、坂本さんが「面白いものがあるよ」とオフィスまで見せにきてくれました。会議室でドローンを飛ばしてもらって、それを見て「すげーっ」て思いました。目の前でドローンが飛んでいるのを見たのは、それが初めてだったんです。動かし方を教わって、外で飛ばしたいって言ったら、坂本さんに(手のひらをだして)これぐらいのミニドローンを渡されて、あげるから練習するようにと言われました。そして「うまくなるまで外に出ちゃだめ」と念を押されまして。この手のドローンは練習しないとうまくならない。でも練習するとうまくなる。なので私は、坂本さんの言いつけ通りに毎日2時間、早朝にオフィスに行って会議室で練習したんです。2カ月ほど特訓したら思い通りに飛ばせるようになりました。そろそろ屋外で飛ばしたい、となるのですが、当時は法規制ができる前(ドローンを初めて法律で位置付けた改正航空法は、2015年9月4日に成立、同年12月10日に施行)で、のびのびと飛ばせる状況でもなかったので、新潟県のスキー場、舞子スノーリゾート(新潟県南魚沼市)を貸し切りにして、ドローンが好きそうな人たちを呼んで1泊2日のドローン合宿をやりました。楽しかったですし、大きな意味がありましたね。現在、「DRONE FUND」の共同代表パートナーである大前創希さんともそこで出会いました。

当時の千葉さんにとってのドローンの楽しさとは?

 カメラ兼ラジコンです。カメラを搭載するドローンは私にとって撮影機でした。飛ばす方法を身に着けたら、次にそれを使っていかに美しい空撮の写真を撮るか、映像を取るか、ということに夢中になりました。もともと私はクリエイターです。親もアーティスト。中学、高校も美術部で、大学でもデジタルアートを専攻していました。そういう自分のクリエイティブな感覚と、ドローンがピタッと合いました。まさにフライングカメラだなと思いました。ただ、そこで終わるわけではありませんでした。飛ばすにつれて、今後は「ドローンはインターネットと同じ発展をたどるのではないか」と思い始めてきたんです。
 そのうちにインフラになる、という感覚です。インターネットも黎明期では、利用者は接続するだけで喜んでいました。ドローンでいえば、飛ばすこと自体が楽しいのと似ています。しかしこの先を展望すると、明らかに別な価値が見えてきます。無人で自動航行し、東京などの都心部でも飛ぶようになると、これは物理的なネットワークになる。インターネットと違ってモノを運べるし、センサーを搭載して調べることもできる。そうなるとインターネットのようにあらゆる産業に影響をもたらしそうだ。撮影をしながら、頭の中でそんなことを考えていました。
 当時、ドローンに取り組んでいる企業は株式会社CLUE(クルー、本社:東京)などわずかでした。私は彼らに少しずつ投資をし始めていたころでした。私はもともと創業間もない企業に資金を提供するエンジェル投資家です。その当時、40社ほどのスタートアップに個人で投資をしていました。主にインターネット関係が中心で、フィンテック、アグリテック、ヘルステックなどで、幅広いカテゴリーに分散させることでポートフォリオを組みます。しかし投資がドローンへと偏ってきたんです。1社目のドローン企業に投資をしたら、2社目、3社目と次々にドローンが入ってきて一気に5社まで増えました。40分の5がドローンというのは比率として大きい。いくらドローンが面白くてもポートフォリオは崩せないです。そんな中でもドローンの起業は相次いで、資金の相談に来られます。そこで相談のあった企業に、ほかの投資家を紹介したりもしたのですが、まだドローンが早すぎたのか、反応が薄かったのです。そこでもう一度考え直しました。自分はおそらく日本の投資家で唯一、ドローンのことを理解している。ドローンの理解者である自分が動かないと、彼らは立ち行かなくなるのではないか。そこでエンジェルとは別に、ドローン関係のスタートアップ特化型のファンドを作ることにして、「DRONE FUND」を設立しました。設立は2017年6月1日です。

ドローンの市場が大きくなる展望は描けていたのでしょうか?

 間違いなく「来る市場」だとみていました。当時の日本のドローン市場は世界が10だとしたら、まだゼロ。それでも市場規模は世界の自動車産業の1/5から1/3ぐらいになる見込みがあります。自動車産業の20%でも巨大ですから1社による独占はありえません。世界最大手である中国のDJIがどれほど大きいとしても、それ以外の会社がさまざまな分野で1兆円規模の売り上げを作ることに全く違和感がありません。日本がゼロからスタートしても遅くない。ちなみに「DRONE FUND」設立当時には、その20年後に「ドローン前提社会」が成立していると思っていました。4年前の20年後ですから今から16年後で、大体2035年です。ドローンが当たり前に飛び社会のインフラになる時代です。インターネットもそうでした。私が大学に入った1993年の12月に初めてブラウザが世の中に出ました。当時はマニアのものでしたが、それから20年後の2013年にはスマホの第1世代は普及し始めています。インターネットも20年経つとここまでになる。今年は2021年です。今の子供たちはインターネットがあることすら意識していないと思います。空気すぎて(笑)。それぐらい生活に溶け込んでいます。10年で普及し始め、20年で当たり前になり、30年で生活に溶け込む、ドローンもこうなるとみています。

【母校・慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスで特別招聘教授としてドローンの可能性を次世代に伝えている】

投資先はどんな会社ですか?

 幅広い領域のすべての会社に投資します。どこに投資をするのかは、インターネット産業や自動車産業、飛行機産業の成長の推移をみると参考になります。例えばインターネット産業なら、最初に成長したのはサンマイクロシステムズ、マイクロソフトといった、コンピューターのハードウェアの会社でした。次にネットワークなどソフトウェアの会社、そしてコンテンツやサービスの会社に広がりました。自動車産業もメーカーを中心に、メーカーに部品を供給するサプライヤー、さらに2次サプライヤー、3次サプライヤーがあります。組み立て工場、運送業者、保守メンテナンス業者、ドライバーを教育するスクール事業、自動車を使ったサービス事業と裾野が広い。航空機産業も同様です。ドローンもこのような広がりができてきます。我々はまずハードウェアとソフトウェアに投資をしています。今後、周辺技術やサービスも出てきますので、その全部にバランスよく投資するというのが「DRONE FUND」の最初のポリシーでした。
 メーカーも大きく2つに分かれます。ひとつがDJIのようなコンシューマーを意識した総合型メーカー、もうひとつが産業特化型メーカーです。さらにこれらは技術的に4つに分けられます。1つ目がマルチコプターと呼ばれる回転翼を持つ機体のメーカー。2つ目がシングルコプターと呼ばれるヘリコプター型の機体、3つ目が回転翼を持たない固定翼機、4つ目が垂直離陸の可能なVTOL機の会社です。これにサイズの大小による分類もできます。株式会社Liberaware(リベラウェア、千葉市)が得意とする小さい機体を作る会社もあれば、株式会社SkyDrive(スカイドライブ、東京)のように人が乗る大きな機体を作るメーカーもあります。さらに飛ばないドローンもあります。「DRONE FUND」も株式会社Full Depth(フルデプス、東京)という水中のドローンの会社に投資しています。2号ファンド(2018年8月1日設立)あたりから、自律飛行、自律航行をする遠隔操縦可能なロボティクスをドローンと呼べるのではないかと、定義そのものから考え直して投資領域も技術の進歩や環境の変化に適応できるよう見直しています。

広い投資領域がある中で、物流はどれほどの重要性がありますか?

 重要度は非常に高いです。解決すべき、あるいは解決できる課題が多いからです。物流が抱えている課題は、大きくは2つあります。ひとつが物流業界固有の課題で、もうひとつが地域特有の課題です。物流業界固有の課題は4つに分けられると思っています。第一に、コロナ禍を背景にした EC利用の急増でアマゾン、楽天をはじめ個人向けの小さな配送が大幅に増えたことです。パケットの数で言うとコロナ前後でまったく違うほど数が増えました。そして第二に逼迫、つまり人手不足です。荷物の急増で配送に手が回り切らなくなってきています。第三に、赤字路線といわれる離島、山間部でも利用が拡大していることです。全国どこでもクリック一つで何度も運んでくれる利便性が証明されたことではありますが、配送の観点で言えば利益率の悪化を招きます。そして第四に、そんな制約の中でもSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれている背景もあって、環境を重視する必要があることです。
 ドローンには乗組員がいません。ドローンで運べばその分人手不足の解消に貢献します。これはドローンに限らずロボット全体に言える事です。ロボットは人類の人手不足を解消してくれるものだと私は思っています。物流に限らず人手不足という領域には有効です。またドローンの特性として、重くて大きな物を運ぶのは一般的に苦手ですが、2kg以下の荷物をピンポイントでAさんのお宅まで運ぶということは得意です。コロナ禍で増えたECの荷物の多くはまさにドローンが得意とするサイズです。山間部への配送だと、現状では1個の荷物でもトラックが20分かけて山を登って届けに行きます。そういうところこそドローンのほうが得意ではないかと思うわけです。また環境負荷もそうです。ドローンは基本的には電動です。飛行するときに温室効果ガスを排出することはありません。運送事業者がトラックのEV化を進めているように、電気で移動できれば環境負荷の軽減につながります。

地震や台風など自然災害の多い日本では災害対応として支援物資を運ぶ手段などとしての期待も高まっていますね。

 災害対応分野では、「リモートセンサー」として被災状況を機動的に調査・把握するためのツールとして公共セクターへの配備が進んでいます。消防本部(総務省)、TECH-FORCE(国交省)、自衛隊(防衛省)などがそうです。一方、逆説的な話でもあるのですが、災害対応にドローンを使うには日常的に物流でドローンを使うことが重要だと思っています。有事の際に臨時に機材や設備を準備しても、オペレーターが急にうまく運用できるわけではありません。物資搬送でも、怪我人をドクターヘリの代わりに運ぶにしても、急に運用することになったとしてもできない。来るか来ないかわからない災害のためにスタンバイしておくこともできない。どうすればいいか。日頃から、それこそ1年365日、24時間、ドローンの物流が動いている状態にしておく。そうすればいざというときに緊急物資の搬送も人の搬送もできる。被災状況の調査も同じです。日々のオペレーションと災害時のドローン活用は表裏一体です。物流にドローンを活用する意味はこういうところにもあるのです。
※後編は5月21日(金)公開予定です。

【防衛省は陸上自衛隊の全ての師団と旅団に災害用の小型無人機ドローンの配備を計画している】

※産経新聞社提供
ちば・こうたろう 1974年5月11日、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)入社。株式会社サイバード、株式会社ケイ・ラボラトリーを経て、2009年株式会社コロプラに参画し同年12月に取締役副社長。2012年東証マザーズIPO、2014年東証一部上場を果たし2016年7月に退任。その後、国内外のインターネットやリアルテック業界でのエンジェル投資家(スタートアップ60社以上、ベンチャーキャピタル40ファンド以上に個人投資)として活動。2017年6月にDRONE FUNDを設立。個人投資先、DRONE FUND投資先の起業家コミュニティ「千葉道場」を運営。2019年4月、慶應義塾大学SFCの特別招聘教授に就任。2018年12月に、堀江貴文氏らと共に国産旅客機「HondaJet Elite」の国内1号機を共同購入。2020年6月1日、自家用操縦士のパイロットライセンス取得を発表。
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