トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.29

ロボットの目に映る「物流の未来」

コロナ禍でステイホームの時間が増え、ネットショッピングなどの電子商取引が急激に拡大したことで、物流の需要過多や人手不足に拍車がかかっている。新型コロナウイルスの感染拡大防止や、頻発する自然災害への対応を視野に入れた物流の改善施策としてもデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が急務だ。サプライチェーンの中核を担う物流業界はどう対応し、変化していくのか、ドローン、ロボット配送など消費者にも身近な最新動向を通じて読み解く。

Angle C

前編

コロナ禍をチャンスに 業界改革の好機

公開日:2021/5/25

敬愛大学

経済学部経済学科教授

根本 敏則

新型コロナウイルスの感染拡大で介護や医療などと同様、日常生活に不可欠の職種であるエッセンシャルワーカーとして注目されている物流業界。コロナ禍を変革の好機ととらえ、デジタル化やシステムの標準化などを推進する。産業や生活を根底で支える物流業界はどう変わるのか。国土交通省の「次期総合物流施策大綱の策定に向けた有識者検討会」の座長を務める敬愛大学の根本敏則教授に業界の課題や展望を聞いた。

コロナ禍による生活様式の変化は業界変革のチャンスととらえて良いのでしょうか?

 コロナ禍は物流業界にとってピンチでも、チャンスでもあります。ピンチとは宅配ドライバーが荷物を手渡すときに、お客様と接触し感染リスクが高まったことです。地方のトラックドライバーが感染リスクの高い東京に貨物を輸送したくないという事例もありました。
 昨年11月に開かれた「有識者検討会」の会合でも、出席者から今回のピンチをチャンスに変えるべきだという意見が多く聞かれました。実際、コロナ禍の巣ごもり需要でネット通販、宅配の荷物が増加しています。さらに物流が介護や医療と同じように日常生活に不可欠であるエッセンシャルな仕事であるという認識が高まりました。これまで地味な存在だった物流が世間の注目を浴びている時期だからこそ、ピンチをチャンスに変えるデジタル化などの改革をどんどん進めるべきではないでしょうか。

今回、座長となりまとめた提言では3つの柱があります。このうち「簡素で滑らかな物流の実現」とは具体的にどのようなものでしょうか?

 モノを「簡素で滑らかに」流すのは、結構、大変です。交通は人流と物流とに分けられるのですが、モノは容積や重量、梱包された荷物の形状である荷姿がそれぞれ違い、輸送の効率化が難しい。それだけでなく、人間であれば航空券や切符は同じですが、モノの納品伝票はバラバラというのが物流情報システムの現状です。
 簡素で滑らかな物流を実現するためには、システムの標準化が重要になります。全国どこの物流業者でも同じ仕組みを用いることです。例えば、段ボールの寸法を同じにする、パレット、コンテナも同じサイズものを利用し、納品伝票も統一して電子化すれば、納品時の検品も省略し易くなるのではないでしょうか。

【国土交通省と経済産業省がとりまとめた2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会の提言】

ドローンやロボット配送は物流を一変するものとなるのでしょうか。

 ロボットやドローンなどを用いた自動化の取り組みも重要になります。ただ、現状では自動化は物流センター内などの閉鎖空間にとどまっています。物流センターではピッキングや仕分けなどでロボットを活用し、センター内の監視作業にはドローンが使用されています。
 ロボットは、将来的には都市内の公道上で荷物の運搬に活用できます。最近、2021年度内に自動配送ロボが全国の歩道を走れるようになると報道されました。時速6キロの低速運転ですが、実用化されて公道を走れるようになれば、物流業界によって大きな一歩になるでしょう。

次に「担い手にやさしい物流の実現」ですが、具体的にはどのようなものでしょうか?若い人が参入できるようトラックドライバーの労働環境の改善も急務です。

 トラックドライバーは若者に不人気な職業であり、人手不足・高齢化が深刻な問題になっています。その原因のひとつが長時間労働です。2024年から時間外労働の上限規制が罰則つきで適用されますが、物流業界では労働時間が減るので賃金が減る。1人のドライバーが働ける時間が短くなるので人手不足に拍車がかかるという懸念の声もあります。しかし、そうではなく、私は労働時間を守るホワイトな職場となることをアピールして、若者を呼び込んでほしいと思っています。
 そのためには、すでに大手では導入されていますが、運転時の速度や走行時間、走行距離などの情報を記録するデジタルタコグラフで、ドライバーの労働時間を管理することが必要です。デジタコ、ドライブレコーダーなどドライバーを守る装置は今後、不可欠になります。ほかにも、荷主の都合で荷物が下ろせない長時間の待機についても、しっかり記録して荷待ち時間料金を請求するなどの改善を進めるべきでしょう。
 長距離輸送においては、「中継輸送」が有効と思います。例えば、東京・大阪間の輸送では、東京を出発したドライバーが、中間地点の浜松で大阪から来たトラックに乗り換えて、東京に引き返せば日帰り運行が可能になり、その日は自宅で休養できることになる。若いドライバーも、奥さんや子どもと過ごす時間がとれます。
 しかし、労働時間を守ることで残業が減り、賃金が減るのでは元も子もありません。同時に物流の付加価値を増やし、その結果として賃金を増やすことが必要になります。それには、ダブル連結トラックの導入、共同配送によるトラック積載率の向上、さらにドライバーが積極的に荷主に荷物を取りに行くセールスドライバーの育成も有用だと思います。

【ダブル連結トラック1台で通常の大型トラック2台分の輸送が可能】

※ヤマト運輸提供

3つ目の柱の「強くてしなやかな物流の実現」です。具体的はどのような取り組みが考えられるでしょうか?

 地球温暖化などの影響で災害が激甚化し、高頻度になっています。災害時に緊急支援物資の輸送を確保するための「重要物流道路ネットワーク」が重要になります。さらに、東日本大震災時に鉄道でガソリンを輸送したように、鉄道や海運などを含め多重で柔軟性が高い物流システムの構築にも取り組んでいかなければなりません。
 また、コロナの流行で、特定の国に頼っていた部品が入手困難になる、港湾労働者が確保できず港は使えるが荷物が下ろせないなど、グローバルサプライチェーンの脆弱性が顕在化しました。同様の事態を回避するために必要な物資の調達先を複数用意することも重要です。
 最近では事故でスエズ運河が航行不能になり、ヨーロッパとアジア間の物流がストップする事態に陥りました。この事例から大陸横断鉄道など代替輸送手段を準備しておく重要性が明らかになりました。
※後編は5月28日(金)公開予定です。

ねもと・としのり 1953年青森県生まれ。東京工業大学工学部卒業、同大学大学院修了。一橋大学大学院商学研究科教授などを経て現職。日本物流学会会長、公益社団法人日本交通政策研究会専務理事、国土交通省運輸審議会委員、国土交通省社会資本整備審議会委員などを歴任。
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