トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.42

ドローンで変わる!? 日本社会の未来像

2022年12月5日、ドローンの国家資格制度がスタートするとともに「レベル4」飛行が解禁となりました。これは、人がいる場所でも操縦者の目視外での飛行が可能ということ。今まで認められていなかった市街地上空を通るルートでの長距離飛行もできるようになり、運送業界をはじめ、さまざまな業界からの注目度が高まっています。そんなドローンの開発・活用の最前線にいらっしゃる方々に、日本におけるドローンの現状、今後の課題などについてお話をうかがいました。
無人航空機(ドローン)の新制度についての詳細はこちらをご参照ください。
(国土交通省無人航空機総合窓口サイト https://www.mlit.go.jp/koku/info/index.html)

Angle C

前編

山間部など従業員負荷の大きい配送を、ドローンで持続可能に

公開日:2023/2/28

日本郵便株式会社 オペレーション改革部

係長

伊藤 康浩

日本郵便では、ドローンなど新しいモビリティを活用して、郵便物や荷物配送の省人化や効率化を進める「配送高度化」に2016年から取り組んできました。2021年から2022年には東京都奥多摩町でドローンと配送ロボットの連携により、各戸まで郵便物を届けるトライアルも行うなど、実用化に向けて開発は着々と進んでいます。
 同社のドローンによる配送の現状について、「配送高度化」の推進役となるオペレーション改革部の伊藤康浩さんに話をうかがいました。

日本郵便がドローンによる配送に取り組む理由は何でしょうか?

 働き手の中心となる生産年齢の人口が減少を続ける日本で、当社の物流サービス、ひいては社会全体の物流機能を今後も持続可能なものにするためです。当社では2016年から「配送高度化」の考えの下、ドローン、無人配送ロボット、自動運転車などの活用を検討してきました。2021年から2022年には、ドローンと配送ロボットの連携による、郵便物などの配送トライアルを東京都奥多摩町で行っています。2021年3月末時点の当社の総引受物数は、ゆうパックなどを含め年間で約200億通にのぼり、1日当たり約6,100万通を総世帯数約5,500万戸の6割程度に毎日配達しています。また、郵便法により郵便の業務は当社が行うよう定められ、ポストの設置、全国均一でなるべく安い料金、全国の各戸に確実に戸別配達するといったユニバーサルサービス(※)の維持が求められています。ある程度の効率化は図りつつも、一定以上の郵便局数を持ち、配送ネットワークを維持することは当社の使命といえます。
 一方、生産年齢人口はこれからも減っていきますし、それは現在約37万人いる日本郵便の従業員も例外ではありません。こうした状況を踏まえた施策の一つとして検討しているのが、前述のドローンとロボットよる配送サービスです。
 ※郵便、電気、ガス、水道など、誰もが等しく利用できる公共的サービス。

「2016年から」とのことですが、何かきっかけがあったのでしょうか?

 この頃は「宅配クライシス」という言葉が使われ始めたほど、通信販売業界の成長などによる配送量の急増に対して、人材不足や現場の負担増が表面化した時期でした。当社は実施しませんでしたが、荷物の引き受けを自主的に抑える総量規制や料金の引き上げなどが行われました。
 ただ、料金を引き上げて収益が一時的に改善しても、労働集約的な物流業界の構造が変わらないまま生産年齢人口が減り続ければ、結局はどこかで大きなクライシスがやってくることは間違いありません。そこで、当時注目され始めていたドローンなどの新たなモビリティを、配送の効率化に使えないだろうかと考えました。上司と私とでドローンの実機を抱えて社長室に入り、室内で飛ばすデモンストレーションを行って、ドローン導入のプロジェクトの後押しをもらったことは、今も鮮明に覚えています(笑)。

どのようなシーンでドローンでの配送を考えていますか?

 まず、当社での配送の流れをご紹介すると、全国に約18万本ある郵便ポストのほか、窓口局でお引き受けしたはがき・手紙やゆうパックなどを集配局に集め、それらを地域内輸送で地域区分局に集めていきます(図1左部)。
 その後、宛先に応じて地域間輸送で他の地域に運び(図1上部)、地域区分局から集配局・集配センターを通じて、従業員が各戸に郵便物をお届けする流れになっています(図1右部)。
 これまで進めてきたドローンによる配送のユースケースは、物流で「ラストワンマイル」とも呼ばれる、集配局や集配センターから各戸にお届けする部分の一部を代替するものです。

(資料提供:日本郵便株式会社)

住宅街の上を飛ぶことになるのですか?

 私たちが想定しているのは、従業員が数人ほどの小規模な集配局で、お届け先それぞれが比較的離れていて、長距離の配送を行っている山間部などです。現在でも、ふもとの集配局から山あいの集落まで、社員が毎日郵便物をお届けしているようなケースは珍しくありません。今後の生産年齢人口の減少により、将来的に、そうした社員を確保することが難しくなっても、配送サービスを提供しつづけるための取組みなのです。一方で、人口密度の高い地域では、高層ビルやタワーマンションにおける配送ロボットの活用や、ドローン以外の技術を活用した人手による配送の効率化を進展させていく想定です。
 あくまでも、日本のどこにお住まいでも豊かな生活を送っていだけるように、郵便物をあまねくお届けすることを目的としているため、配達業務のすべてをドローンに置き替えるということは考えていません。例えば、山間部の配達エリアが4か所あったとして、その中で特に配送負荷の高い一部分をピンポイントにドローンで代替することで、集配社員が4人から3人に減ってもサービスの持続が可能となる、そんな体制を実現したいということです。

奥多摩町で行った実証実験についてお聞かせください。

 ドローンを使った配送の実証実験は2017年に福島県や長野県でスタートしました。技術調査や離発着技術などの検証を経て、2018年には福島県南相馬市と浪江町との間で拠点間配送の実証実験を「レベル3飛行(※)」で行いました。その後、より実用面を考えて、ラストワンマイルにフォーカスした実証実験を行うことになり、奥多摩郵便局の配達エリアである奥多摩町の峰集落にお住いのみなさまのご協力をいただき、2021年12月から、ドローンと自動配送ロボットを連携させた配送トライアルを行いました(図2参照)。
 このトライアルでは、奥多摩町の中央部にある奥多摩郵便局から中継地点の奥多摩フィールドまで車で配送物を運搬し(①)、そこから集落内の峰生活改善センターまでをドローンで空輸(②)。峰生活改善センターにおいて自動配送ロボットへ配送物を受け渡し(③)、峰生活改善センターから集落の各お届け先までは自動配送ロボットが運ぶ流れになっています(④)。奥多摩フィールドから峰集落までは直線距離で片道2kmほどですが、標高差が大きく、道も曲がりくねり、起伏に富んでいます。そうした地域でも、ドローンなら事前に指定した経路を高さ30m~140m、最高時速36kmで飛行し、車の約半分の時間で到着できます。
 ※レベル1飛行:目視内で操縦飛行、レベル2飛行:目視内で自律飛行、レベル3飛行:無人地帯での目視外飛行、レベル4飛行:有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行

(資料提供:日本郵便株式会社)
山深い奥多摩へも、ドローンなら車の半分の時間で到着(写真提供:日本郵便株式会社)。
ドローンと自動配送ロボット。落下時の衝撃緩和や落下させた荷物を自動運送ロボットの荷台にスムーズに載せられるように、白い箱の上部はすり鉢状になっている(写真提供:日本郵便株式会社)。
自動配送ロボットは「ロボットが走行しています」とアナウンスしながら時速6kmで集落内を安全に走行。荷物は配達先に「置き配」の形で届ける(写真提供:日本郵便株式会社)。

トライアルではどのような配送物を運んだのでしょうか?

 使用したドローンの最大積載重量1.7kg以内の、郵便物や荷物を、濡れたり汚れたりしないように、また、配送中の衝撃などから保護できるように、専用の配送容器に入れて配送しました。
 もともとドローンの利用を想定しているのは、郵便物などが一度にまとまって届かないような地域ですし、はがき1枚でも人に代わってドローンが運んでくれるなら、業務の効率化としては十分価値があると考えています。

このプロジェクトでは、ドローンのメーカーとも連携されていますね。

 当社は以前からオープンイノベーションによる郵便・物流ネットワークの変革にも取り組んでおり、さまざまな企業と連携を図ってきました。特にドローンのようなモビリティは私たちだけでの物づくりは難しいため、本プロジェクトでは2017年から国産の産業用ドローンの開発を行う株式会社ACSLにご協力いただいています。
 2021年6月には、日本郵政キャピタル、ACSLとともに、3社で新たに資本・業務提携を結び、社会実装に向けた連携体制がさらに充実しました。この業務提携により、日本郵政キャピタルがACSLに出資する形で開発を資金面でサポートし、新設した物流専門部署を中心に当社と協力して、ドローンによる配送の実用化に向けた取り組みを進めています。ただし、これは当社だけのためというよりは、他の宅配会社も含めたドローンによる日本の物流の持続可能性に役立つような技術、体制づくりのために行っている取り組みです。

今後はドローンをどのように活用されるのでしょうか?

 これまでのプロジェクトの成果などをふまえ、車やバイク、徒歩など陸路での移動に時間がかかり、配送を担当する従業員の負荷が高い中山間部地域を主な舞台に、次の2つのケースでの活用を考えています。
 1つは、奥多摩での場合と同様に、集配局やその近くからドローンを飛ばし、直接お届けするケースです。
 もう1つは、集配局間での拠点間輸送です。配送物の比較的少ない小規模な集配局には、トラックではなく軽四輪車で拠点間の輸送を行っている場所も全国にはたくさんあり、毎日、複数回、定時に運行しています。仮に、はがき1通でも、配送や引受があれば必ず往復が必要となるため、ラストワンマイル以外でも活用できるユースケースだと想定しています。
 なお、郵便局の多くは町の中心に立地していて、周辺を人通りの多い道路などに囲まれていることがほとんどなので、両ケースとも「レベル4飛行」に準拠した機体や操縦者などの準備を進めています。

いとう・やすひろ 日本郵便株式会社 オペレーション改革部 係長。2010年に入社後、郵便局での勤務を経て、基幹システムの開発や宅配サービスの企画や運賃設計などに従事。2018年には国土交通省の航空局に出向し、2年間ドローンの法整備・制度整備に携わった。そこでの知見を活かしながら、現在はオペレーション改革部で係長を務める。
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