トリ・アングル INTERVIEW

俯瞰して、様々なアングルから社会テーマを考えるインタビューシリーズ

vol.42

ドローンで変わる!? 日本社会の未来像

2022年12月5日、ドローンの国家資格制度がスタートするとともに「レベル4」飛行が解禁となりました。これは、人がいる場所でも操縦者の目視外での飛行が可能ということ。今まで認められていなかった市街地上空を通るルートでの長距離飛行もできるようになり、運送業界をはじめ、さまざまな業界からの注目度が高まっています。そんなドローンの開発・活用の最前線にいらっしゃる方々に、日本におけるドローンの現状、今後の課題などについてお話をうかがいました。
無人航空機(ドローン)の新制度についての詳細はこちらをご参照ください。
(国土交通省無人航空機総合窓口サイト https://www.mlit.go.jp/koku/info/index.html)

Angle B

前編

自律飛行が広げたドローンの可能性

公開日:2023/2/21

一般財団法人 先端ロボティクス財団 理事長/千葉大学名誉教授

野波 健蔵

ドローンの国家資格制度が導入され、「レベル4飛行」が解禁となった2022年12月の改正航空法の施行を最も待ち望んでいた、そして、最も尽力した一人が、日本のドローン研究の第一人者、野波健蔵さんです。現代のように「ドローン」という言葉が当たり前に使われるようになる何十年も前から始まった研究・開発の軌跡と、ドローンの今後の展開について解説いただきました。

 無人航空機(ドローン)の新制度についての詳細はこちらをご参照ください。
 国土交通省無人航空機総合窓口サイト<https://www.mlit.go.jp/koku/info/index.html

そもそもドローンとはどういうものですか。無線操縦ヘリコプターと何が違うのでしょう。

 ドローンとは無人航空機のことで、UAV(unmanned aerial vehicle)とも言います。遠隔操作だけでなく自律飛行※も可能で、その点が遠隔操作を基本とする無線操縦ヘリと異なります。自律性こそがドローンの有用性だと言えます。
 ちなみに「ドローン」という名称は、アメリカが1940年代に開発した射撃訓練用の無人標的機「Target Drone(雄蜂)」に由来すると言われています。1930年代にイギリスが開発した無人標的機「Queen Bee(女王蜂)」に対応する形で付けられた名前だそうです。
 ※あらかじめプログラミングされた飛行ルートに従い、人の操縦なしで飛行すること。

野波さんはどのようなきっかけでドローン研究を始められたのですか。

 私は漫画の『鉄腕アトム』を読んで育った世代です。学生時代にはアポロ11号の月面着陸を見て航空宇宙にロマンを感じ、いつかエンジニアとしてNASAに行きたいと思っていました。その夢が叶ったのが1985年。NASAの研究員募集に応募して合格し、1988年まで滞在することになりました。そこで有人ヘリコプターの操縦をコンピュータで支援する研究に出会ったのが、ドローン研究のきっかけです。ヘリコプターの操縦はベテランパイロットでも難しいと聞き、コンピュータ制御で操縦できるシステムを開発できたら社会の役に立つし面白い。そう考え、帰国後はこの分野に取り組もうと決めました。

きっかけは有人ヘリだったのに、なぜ無人航空機を研究するようになったのですか。

 1988年に千葉大学に助教授として戻り、改めて「ライフワークとなるような研究テーマを」と考えた時に、無人の小型ヘリを自律飛行させようとひらめきました。私の専門が制御工学(※1)で、有人ヘリの操縦支援システムより、自律飛行の方が制御技術の重要性を広く訴求できると考えたからです。
 しかし、当時のコンピュータはまだMS-DOS(※2)の時代。大きくて重いわ、起動に時間がかかるわで、小型無線操縦ヘリに搭載できるようになるまでコンピュータの小型軽量化を待たなければなりませんでした。オートパイロットシステム(※3)を4kg程度で作れるようになったのが90年代半ば。1998年に秋葉原のラジコンショップで、手頃な価格の重さ10kg程度のガソリンエンジン型小型無線操縦ヘリと出会い、「これにオートパイロットを搭載して飛ばそう」と考えたのが、私のドローン開発の本格始動の瞬間と言えます。
 10kgの小型無線操縦ヘリの場合、搭載できる総重量は1.5kg程度。すぐにこの無線操縦ヘリの会社に電話し、「3.5kgのオートパイロットを搭載しても飛べるように改造できませんか」と相談しました。すると、担当者が大学まで話を聞きに来てくださり、「面白そうだから」と協力してもらえることになりました。
 ※1 ロボットや大型の乗り物のコントロール技術などを機械・電子といった工学的な視点から研究開発する分野。
 ※2 Microsoft社が開発・販売していたPC向けのOSで80年代に広く普及。1995年にWindows95が発売され、Windowsと統合された。
 ※3 乗り物を人の手によってではなく機械装置により操縦する装置・システム。「自律飛行」と同義。大型の無人航空機は重くて大きいオートパイロットシステムでも搭載可能だったため、1998年にアメリカで自律飛行に成功している。

日本国内では、国内メーカーが2000年に無線操縦ヘリの自律飛行に成功しましたが、その機体は100kgクラスだったとか。

 私たちの機体は約10kgですから、搭載可能なオートパイロットシステムの重さが全然違います。小型無線操縦ヘリの自律飛行は世界的にも難しいと考えられていました。

でも、2001年に軽量小型無線操縦ヘリとして日本初の自律飛行に成功されました。

 2001年8月1日に自律飛行に成功しました。あの時の感動は忘れられません。10kgの軽さの小型無線操縦ヘリとしては日本初の快挙で、各メディアに取り上げられただけでなく世界的にも注目を浴びました。
 この成功を受け、国内産業界からも声がかかるようになりました。たとえば、ある電力会社とは送電線点検用のドローンの共同開発がスタートしました。有人ヘリをチャーターして行っている点検をドローンに置き換えられれば、億単位の経費を削減できるとのお話でした。ただ、送電塔が設置された山深い場所を小型とはいえガソリンエンジンのヘリが飛んだ場合、万一墜落した時には山火事になる危険性があります。結局、先方がこのリスクと折り合えず、自律飛行での点検技術は確立したものの、残念ながらプロジェクトはストップしてしまいました。

現代ではそうした点検作業はドローンの役割になっていますよね。

 それまでのガソリンエンジンに代わり、2005年頃から、バッテリーで飛ぶ電動ヘリが登場するようになったのが理由のひとつです。背景にあるのはリチウムイオン電池の劇的な進化であり、それを牽引したのはスマートフォンです。ドローンの技術は、携帯電話やスマートフォンの発展に大きく触発されています。なにしろスマートフォンは、ドローンが欲しい機能を高密度集積回路や超小型センサーという理想の形でほぼすべて持っています。GPSを備え、通信できて、写真も動画も撮れてインターネットもできる。バッテリーは小さなリチウムイオン電池。「これにモーターとプロペラをつけて空を飛ばそう」という発想の時代になり、ドローンはさらに飛躍していきます。

2015年には、ドローンは新語・流行語大賞のトップテンに入りました。

 受賞者として登壇したのは私です(笑)。この年の4月、首相官邸にドローンが墜落するという世間を騒然とさせる事件があり、ドローンの認知度がアップしました。世界的シェアを誇る中国のドローンメーカー・DJIが、2012年にホビー用ドローンを世界に大ヒットさせ、日本でも趣味で飛ばす人が増え始めたのもこの頃です。
 もちろん、産業用ドローンもどんどん進化していき現在に至ります。ただ、富士山に例えると、今のドローン技術はまだ五合目程度。とくに自律性はまだまだ完成度を高めていけると考えています。

現在、日本では産業用ドローンはどのように活用されているのですか。

 進化が目覚ましいのは測量分野です。これまで公共測量は有人航空機にレーザーを積んで行っていたのですが、今は測量から3次元データの作成まで、ほとんどドローンが担っています。農業では、多くの農地で農薬散布をドローンが行うようになりました。ドローンが農場の上を飛行して生育状況、病害虫発生状況や収穫時期をセンシングする、スマート農業も注目されています。
 道路、橋、鉄道、空港、港湾施設の点検など、インフラの維持管理においてもドローンの積極的な活用が進められています。災害対応では、たとえば、2021年に静岡県熱海市で起こった土石流災害では、崩落後にドローンで撮影した写真と崩落前の写真とを比較することで、発生場所や土砂の量などを突き止めました。土砂の流失量がわかれば、復旧にはトラック何台分の土が必要か、経費がどれだけかかるか概算できます。そういう活用も始まっています。

ドローンによる農薬散布
ドローンによる橋梁点検
ドローンによる道路の被災状況調査

海外ではどのように活用されているのでしょう。

 今紹介したような活用方法は、海外ではもう当たり前になっています。他の活用方法というと、たとえば、高層ビルの窓拭き。日本ではまだゴンドラに乗った人間が拭いていますが、海外ではブラシをつけたドローンがダイナミックに働いています。また、北米の寒冷地では、風力タービン(風力発電機の動力部分)についた雪の凍結を防ぐために、ドローンがお湯をかけて溶かしているそうです。カメラ付きの小さなドローンによる屋根の点検も普及していますし、コンビナートの3Dマップをドローンが作成し、点検もドローンが行ってマップ上に異常箇所を示すということも実現しています。
 アメリカとメキシコ、ロシアと中国などの国境警備にもドローンが使われています。ドローンが不法入国者の顔写真を撮ることで、入国日時や本人照合の証拠としています。

のなみ・けんぞう 一般財団法人 先端ロボティクス財団 理事長、一般社団法人 日本ドローンコンソーシアム 会長、千葉大学 名誉教授。1979年、東京都立大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了、工学博士。1985年、米航空宇宙局(NASA)入所。1994年、千葉大学教授。小型無人航空機の自律飛行を着想し1998年から研究開発を開始、2001年に日本初の自律飛行に成功。2013年、大学発ベンチャーの株式会社自律制御システム研究所(現ACSL)を創業。2017年より日本ドローンコンソーシアム会長。
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